学校女子寮 プツン。
シャツの襟からリボンを抜いて、上から順にボタンを外す。
(景子様たち、いつまで話してるんだろう)
時計を見ると、もう午後2時を回ろうとしている。入学式が終わったのが11時半だったから、かれこれ3時間以上経つ。
お昼はトーカさん(入学式で隣に座っていた美人さん)と二人で食べた。
メールも二回打ったけれど、まだ返信はない。
「ム、ムニッ!!」
あたしの部屋の、かつ、まだあたしが使ってないベッドで寝転がって携帯をいじっていたトーカさんが突然、起き上がった。
「え!? な、な、何でしょう?」
突然叫ばれ、慌てふためくあたし。何が起こった?
「あんた……って子は」
「あたしが、何か……」
トーカさんは腕を引っ張り、あたしを引き寄せると、いきなりガッとあたしの胸を掴んだ。
「ふぁっふぃっ!!」
つい変な声が出る。
トーカさんの手が何かを確かめるように、動く。
そして抑揚のない声でつぶやいた。
「……むにゅーっ」
「へっ?」
「ムニ、無乳」
そう言って、あたしを見上げたトーカさんの表情。
それはあたかも、幸福なお金持ちが犬に噛まれて騒ぐホームレスを見るように。
クラス一の美女にフラれた“見た目が不自由な男子”を見るように。
コツコツ貯金をして買ったヅラが船上で飛んでった時の夫を見るように(地元のおばさんの実話より)。
心の底から同情する、上から目線、そんで涙目。
「辛かったでしょうね。でもくじけちゃダメ。例え膨らむ希望のない胸でも、しっかりと胸を張って生きるのよ。大丈夫、私が付いてるから」
あたしを抱きしめたトーカさんの腕にギュッと力が入る。
プツン。
「トーカさん」
あたしはそんな彼女に微笑んで、静かに右手を上げた。
今なら巨竜すら倒せるかもしれない。そう確信できる巨大な魔力が、手のひらに凝縮されていく。
「えっ、夢似? ちょっ」
「お姉ちゃん!!」
その時、バンっと扉が開いて、無為の声がした。
「あっ、無為!」
振り向くと、無為が深刻そうな表情で息を切らしている。その様子を見ていると、自然と右手から力が抜けた。
「どうしたの?」
あたしが尋ねると、無為は目を閉じて大きく息を吐いた。
「……何でも。ほら服を着て。ごめんね、遅くなって」
あたしに近付いて、ぽんっと頭に触れる。
「長かったね」
「ちょっとね……あ、サイン貰ってきたよ」
「もう、別にいいのに……」
と普通に話しているその時、弟の目が横に向いて「わっ」と声を漏らした。
ベッドのトーカさんに気が付いたようだ。
「す、すみません!」
トーカさんは自分の下着姿を隠すこともなく唖然とした表情だったが、弟の声にハッとして、素早くシーツで身を包んだ。