入学式 無為のとなりの
まっすぐと下ろされた外国人のような金髪、モデルのようにスラッとした身体。キラキラと輝く青いドレスに宝石のようなハイヒール。
アクセサリーの類は一切付けていない――その理由を、あたしは知ってる。
「装備品で能力を上げるなんてセックスで道具を使うのと同じよ。あたしは肉と肉のぶつかり合いが好きなの。“Nice to meat you”って感じ」(自作の「景子様名言集ノートvol.2」より)
ハチャメチャで、捉えようがなくて、世界一強い女魔法使い。
見紛うはずのない、あたしの憧れの人がそこにいた。
そして景子様の瞳の中に、あたしがいる。
「あれ?」
ふと景子様が何かに気が付いたようだった。指でまぶたを押し広げて、一点を凝視しはじめる。
(ギャーッ! 美人なのに、美人なのに! やめてーっ!)
と心の底で叫びながら、景子様の視線の先にあるものを辿る。あたしよりも後ろ側の……
「ラノイケイコッ!!」
唐突に誰かが叫んだ、と同時に心臓が凍りつくような感覚。
それは魔力の存在を知覚した時に起こる、肉体的反射反応。
立ち上がったのは、さっき無為と話していた男子だった。
高く上げた手の平の上に、青い液体状の球体が浮かんでいる。
頭にズキッと痛みが生じたので、それが攻撃魔法だと分かった。
「ムイッ!」
あたしは叫んだ。あれぐらいの威力なら、弟の力で止めることができる。
弟はあたしの声にハッと我に返ったようだった。
(あれっ、無為?)
あたしは焦った。いつもあたしよりも早く状況を把握して対応する無為なのに、反応が遅い。あたしが叫んではじめて理解したかのような動きだ。
(無為らしくない!! それはあたしの役でしょ!!)
あれでは間に合わない。
結局、これだけ魔法使いがいるにも関わらず、魔法が放たれてしまう。
「あっ!!」
青い球体から絞り出されたエネルギーが水鉄砲のように飛び出していく。
景子様に向かって。
まあ、あの景子様だから大丈夫だとは思うけれど、それにしても物凄い威力だ。少なくともあたしにはあんなの出せない。
「あらよっ」
景子様は指をぐるんと回して、小さな膜のようなものを作った。初めて見る魔法だ。
水鉄砲がその膜に衝突すると、手の平サイズだった膜が押し広がった。
風船に水を入れるように、膜が大きく膨らんでいく。
「さすが化け物ね」
美人さんが無感動につぶやいた。