泉 復讐心による目覚め
ダダダヂダ先生を睨み上げたその時だった。
「パーフェクト♪」
仮面を外し、自分の顔を露わにするダダダヂダ先生、その表情は不思議と温和で、柔らかい笑顔だった。
そして、あたしに優しく微笑みかけながら、その右手を一気にあたしの内部に入れた。
ぐちゅ。
「あふっ……」
ぐちゅっ、にちゅにちゅ。
「やっ、ああぁ……ひっ」
「可愛い声で鳴くじゃなァイ♪ ……じゃあイ・ク・ワ・ヨ、」
ダダダヂダ先生の右腕全体が白い光を纏った。傷の痛みと乗り物よいを激しくしたような不快感。頭がおかしくなりそう……考えられることと言えば
「んふっ……かっ」
十秒ぐらい経っただろうか。ズボッと右手が一気に引き抜かれた。
「ごちそうさま♪」
「……ごふっ」
傷口は魔法で閉じられた。痛みがズキンズキンと続く以外に、胸の奥に異物感があった。直径2~3センチの石のような硬さをした楕円形の物質が引っかかっている感覚。それがみぞおちの下辺りに存在していて、強いエネルギーを放っている。
そしてエネルギーは全身へと伝播した。自分が一つの発光体であるかのように熱い。全速力で走った後のような脱力感、息が切れ切れとなり、額に汗が滲む。
「グッドモーニン、ムニィ♪」
ダダダヂダ先生が手を振った。あたしの血で赤く染まった手。
その右手は次に瀞井を指した。
「さあ、親を殺した敵を討ちなさァい♪」
心の中に、瀞井に対する、怒りや憎しみが再燃する。それは黒い炎となってあたしの左手に表現された。かと思うと、あたしが考えるより先に炎が紫色の光を放ち、標的に向かって発射された。
「……オイオイ、冗談だろ」
瀞井は避けなかった。両手で魔法防御の壁を作り出し、真正面から受け止める。
炎は壁に激突した瞬間、火が更に大きくなった。ボウッと音がしたかと思うと、まるで意志があるかのように、瀞井の全身を包み込んでいった。
「……コノッ!!」
瀞井は水魔法を使い、全身を青い液体で満たされた泡で包んだ。一瞬、炎は小さくなったが、すぐに勢いを取り戻し、その泡の表面に次々と穴を開けていく。水鉄砲が数か所から飛び、泡が徐々に小さくなっていった。
しかし、瀞井はそれも予想していたようだった。というのも、液体がなくなるまでのわずかな時間で地面に穴を掘り、その中に潜ったのだ。
「何て握力、なかなかやるじゃなァい? 」
ダダダヂダ先生が拍手を送った。
炎は燃やす対象がなくなったためか、あっという間に消えていった。
「じめん」
自然と口から言葉がこぼれる。すると再び左手に魔力が集中し、頭にあるイメージが浮かんだ。それは禍々しい文様が刻まれた一本の槍が上空から落下し、大地を貫くといったものだった。
そして、それは現実となった。
スンッ――と音がして、次の瞬間大地に穴が空いたのだ。目に見えないほどの速度で槍が地面を貫通していったのだ。
地面の奥深くに槍が消えた後、最後に風がやってきた。
「うがああああああああああああああっ!!」
瀞井が地面から飛び出してきた。
「殺す気かっ!!」
「あら生きてたのネ……」
「テメエ教師の癖に何残念そうな顔してんだよ!!」
先生に叫ぶ瀞井。しかしその顔にはさっきの余裕はすっかり消えていた。
そして、あたしを見て奥歯を強く噛んだような顔をする。
「力が足りない、」
パチン、と指を弾いた。すると動けなくなっていた五人の魔法が解け、自由になる。
「おっ、身体が動く!!」
「私も!!」
「くっそたれが、」
喜んだのも束の間、五人はあたしを見て、すぐに臨戦態勢に入った。
「瀞井、お前も後でリンチだ。でもまずはこのクソガキを片付ける」
「じゃねーとこんなダルいこと請け負った価値ねーし」
「ということで、あんま調子乗んなよダサ女」




