泉 最悪の可能性
「……でアナタは何が欲しいの?」
あたしが尋ねると、彼はサラリと言った。
「トトロムニが欲しい」
「ふざけないで」
「ふざけてなんかないよ。俺はキミが好きなんだ」
……!?
あたしは一瞬、真に受けて、瀞井の顔を見た。
(結構、いけめん……)
って、いけないいけないっ!!
「あなたの彼女になれっていうの?」
「残念だけれど、結婚はまだ年齢が許さないからね」
「そんな卑怯な手で、女の子が付いてくると思ってるの?」
「断ったら殺すもん」
いけしゃあしゃあと彼はそう言って、あたしに微笑んだ。
「俺んちさー、先祖代々から伝わる魔法使いの家系なんだよね。兄弟六人いて俺末っ子なんだけど、魔法に関することは全部兄貴達から教えてもらってきた。だから一般的に知られてない【古代魔術】・【禁呪】・【呪術】とかも知ってる」
「だからあたしが使える魔法も知ってるってことね」
「そうさ。キミには素質を物凄く感じるよ。分かるんだ。キミは間違いなく俺の次に強い魔法使いになれる。俺から教われば、ね」
彼の言葉が本心だということは、その様子を見る限り間違いなかった。ポーカーフェイスなのかもしれないけれど、とにかく迷いもためらいも一切ない。
瀞井と付き合うなんてできれば避けたい。でも同意すれば、あたしが一番知りたい情報が分かるのだ。
あたしは念を押すように尋ねた。
「……あなたに教わったら、絶対に魔法が使えるようになる?」
「うん」
「弟に勝てるぐらい強くなれる?」
「当たり前だよ。じゃあ、俺と付き合ってくれるってことでいい?」
「その前に証明してよ。それからじゃないと答えられない」
あたしが交渉をすると、彼は目を隠して低く笑った。
「くっくっ、いいよ。その替わり、後で断ったら殺すからね」
そう言って彼は背中の剣を抜いた。わずかに反りのある刀身が朝日の光を反射して輝く姿。妖しくもあり美しくもあり視線を逸らせない。そしてこの瞬間、あたしは自分がいつ死んでもおかしくない状況にあると悟った。
その剣を瀞井がゆっくりと突き出した。あたしの首元に刀の切っ先が触れる。
「見てごらん、この剣。血が付着しているだろう? 誰のものだと思う?」
「いきなり何よ。魔法を教えてくれるんじゃないの。約束と違うじゃない!!」
「いいから答えろ、誰のものだと思う?」
「分かるわけないでしょ」
「ヒント。福岡県北九州市、」
「……えっ?」
「K区Y町38番」
「……ちょ、」
「赤い屋根の家」
瀞井の言葉にあたしは絶句した。
彼が言った住所は、信じたくはないが紛れもなくあたしの実家のもの。
なぜ彼がここから1000キロ以上離れたあたしの実家の場所を知っているのか。
「……冗談よね?」
「何が」
「……なんで、どうしてそれを知ってるのっ!?」
「……さあねー。それよりも質問に答えて。この血は一体、誰と誰の血でしょう。おっと大ヒントを出しちゃったな」
「……違うよね」
「何が?」
「違うって言って……」
「答えてくれたら教えてあげる。さあ誰?」




