泉 六人組との遭遇
と思ったまではよかったのだけれど、問題はそこから先だった。
試しに、葉っぱを一枚手のひらに乗せて、魔力を吸い取ろうと意識してみた。
その後、背中を預けていた木の幹に触れてみる。
しかし15年間親しんできた自然との関係性がそんなことで変わるはずもなかった。“かめはめ波”を打とうと両手を突きだした少年のように“やっぱり無理か”と悟る。
(もう、どうすればいいっていうの!?)
さすがに“一人分”だけでは正解に辿りつけないのかな。せめて、もう二~三人は倒さないと無理なのかもしれない。
でも……あと二人、魔法無しで勝てると思う?
(いっそのこと、こっちから仕掛けた方がいいかな……)
木の上から襲えば一人は倒せるから、もう一人をどうするかが問題かなと考え始めていたその時――
「トトロムニ、降りて」
まさかのまさかだった。
あたしが隠れている木の下から、一人の男子があたしを見上げていた。
青色のツンツン頭に、目尻の尖った猫目、瞳は黄色く、日本人離れした容姿をしている。
「早くして欲しいな~、どうせもう逃げられっこないんだからさ~」
鬼ごっこ感覚の軽い口ぶりで彼は言った。
その直後、今度は複数人がこっちにやってきた。
「いたのかー?」
「ああ、こっちー」
ツンツン頭が、集団をこっちに招き寄せる。
(まずい、全員に見付かったっ!!)
やってきた集団を確認する、一、二、三……えっ?
(……そうだったの?)
その顔ぶれを見て、あたしは戸惑いを隠せなかった。
ツンツン頭の他にやってきたのは全部で六人だった。
全員一年生なので、全く顔を知らないわけじゃない。
しかしここに現れた人たちは、中でも少なからずあたしと接点を持ったことのある人ばかりだったのだ。
「くじけないで頑張って」と肩を叩いてくれた女の子と、彼女の友人。
「強くなってダダダヂダに復讐してやるよ」と親指を立ててくれた男子と、その友人。
そして――
(トラオ、本当にあたしのことを嫌いだったのね)
五人と少し距離を置いて歩いている一人の男子は、透花さんのパーティにいたトラオだった。
(ツンツン頭を加え、これで七人か)
トーカさんの言葉が事実なら、現時点で、あたしを負かしに来たメンバー全員がここに揃ったことになる。
こうなったら奇襲はできない。七対一の実力勝負になる。
(どうするどうするどうするどうする……)
何かこのピンチを逃れる術はないかと考えていると、突然女子の一人があたしに向かって石を投げたのだ。
五百円玉大の大きさが、太ももに直撃する。
「痛っ!!」
「痛っ、じゃねえよ。早く降りろクソ女ぁ」
「こっちは早く終わらしたいんだよねー」
今までそんな言葉遣いをする彼女を聞いたことがなかったあたしは衝撃を受けた。しかも、あの時の笑顔は何だったんだろうと思うような、嫌悪感を露わにした表情で、あたしを見上げている。
キャラが激変したのは女子だけじゃなかった。
「とりあえず一人一発ずつ殴らせてくれませんかー? 俺たちエリートはこんなつまらない所でつまずく訳にはいかないんでー」
「ムニちゃーん、大人しく従ってくれないと怖いよ~♪ 顔ボコボコに腫らせちゃってカメラでパシャって拡散しちゃうかもよ~。そんな画像、地元のパパやママに見せたくないっしょ?」
(……何、この人たち)
「十秒以内に降りないと一人二発にすっかんな」
「殴るより、マッパの方がよくない?」
「さすが女子には残酷鬼畜女子。十五歳で人生オワタ」
「世界拡散希望。早く降りて~ワラワラ」
あたしは戦慄した。
「自分じゃ降りられないなら手伝おうか?」
ツンツン頭が笑顔で言った。
(……無理)
膝が、見て分かる程激しく震えている。
これまでダダダヂダ先生から受けたどの仕打ちよりも、こわかった。
「……おいおい、ちょっと待てよ」
その時だった。一番後ろで黙っていたトラオが、突然口を開いた。
「いくら何でも冗談きついぜ?」
「何?」
「何って、話が違うだろ? 一発ずつ殴って“参った”って言わせてそんで終いのはずじゃねえか」
「……裏切んの?」
「……俺はそこまでクズじゃねえよ」
トラオはあたしのいる木に歩み寄り、振り返って六人と対面した。
「悪いが、俺はお前らとは違――」
言い終えるより先だった。ツンツン頭の素早い手刀が、トラオの首を打った。




