泉 good news,bad news
「えっ!」
「正確に言おうか。私たち三十八名の中で、夢似を襲うのは七名。残りの三十一名は動かん」
「マジですか!?」
「ああ。だからこれは夢似とその七名の戦いになる。夢似が負ければその時点で未成年少女違法ストリップショーだし、七名が敗れたらこっちの負け」
「なんて言い方を……でもアレッ?」透花さんの話を聞いて浮かんだ疑問を投げかける。「あたしが勝つ条件って、もっと厳しかったと思うけど」
あたしの勝利条件――【敵チーム三十八名全員を戦闘不能にするか、降参させる】。もしくは【敵チーム三十八名のうち五名を自主退学させる】。
「分かってる。だから私たちは最初の七名が負けた時点で全員降参する」
「にょえっ!? 何で??」
「説明すると長くなるからここでは言えない。とにかく大事なのは実際に戦う相手は七名だけってこと。もちろん、私はその中の一名じゃない。ちなみにその七人は、」
「えっ?」
その時、心臓が凍りつくような感覚がした。続いて、突き刺さるような頭痛がガンと来る。
(……誰かが近くで攻撃魔法を使おうとしている)
あたしは周囲を見回した。
「ん、どうした……?」
「透花さん危ないっ!!」
森の奥から一直線に飛んでくるものがあった。迷う暇もなく透花さんをかばう。そのまま攻撃を避けるために、倒れようとした――が間に合わず、ボール大ほどある氷の塊が右肩に衝突した。
――ゴンッ。
「くっ!!」
直撃ではなかったが、かすめる程度でもなかった。強烈な痛みに、思わず崩れ落ちる。骨が折れた感じはなかったけれど、右腕に力が入らず、ぶらーんとしたまま動かせない。
「夢似っ!!……ダダダヂダの仕業か!!」
「図星ィ、でもさすがに居場所までは分からなかったヨォネェ♪」
すぐそばでダダダヂダ先生(通常ver.)の声がした。景子様の背後に、緑色の光に縁取られた縦長の鏡餅のシルエットが現れ……かと思うと、その光はすぐにダダダヂダ先生になった。
(今の緑色の光……何か見たことがあったような)
その時、ダダダヂダ先生の腕が伸び、後ろから透花さんの首を絞めた。
「ウッ……!!」
「今のトーキングはダァイング♪ せっかくいい感じだったのにィ、これじゃあ学校側をダマして……いや説得してまで作り上げた大大大計画が台無し無駄骨ヤルカタナッシーじゃないのォ」
「先生、透花さんを放してあげてください!!」
ダダダヂダ先生は、あたしが言うまでもなく、すぐに透花さんを離した。と思ったのも束の間、地面から泥玉が大量に浮き上がり、透花さん目がけて飛んでいく。
「なんだこれっ……うわっ!!」
あたしの時同様、透花さんはあっという間に泥に包まれ、ミノムシと化した。
「とりあえずこの女はアウト。このお遊びが終わるまでこのまま」
「クッ、何でこんな無駄に恥ずかしい恰好で……」
「で夢似ちゅわぁん?」
「……はい」
「右腕はこれで使えないでしょうけどォ、ちょっとこれだけじゃあ罰としては足りない♪」
「まだ何かあるの」
「そう警戒しないでェ。大丈夫、いいことを教えてあげるだ~け♪」
「いいこと……」
「アナタ、最近イジメられちゃったりしてるジャナァイ? アレはワタクシがやらせてるの、ウフッ」
「……そうだろうと思ってました」
「まぁ今じゃあワタクシの指示なしでノリノリでやってるけどネェ……で、大事なのはここから♪ 今からアナタを襲いに来る七名のうち六名はワタクシのイジメっ子達。その六名にはこう伝えてある。“土々呂夢似に「参った」と言わせた者はドイツの歴史のある【魔法学園ヘクセ】の推薦書をあげる”って。そしてこうも伝えてある。“土々呂夢似に負けた者、もしくは傷一つ付けられなかった者は即退学”。……ってことはァ? どういうことだと思うゥ?」
ダダダヂダ先生に問われ、相手側の心境を想像してみる。きっと誰もが我先にとあたしを襲いに来るだろう。なぜなら、これはスピード勝負。早く“参った”と言わせた人が勝ちだから。
と同時に、自分が退学にならないために、全員があたしに怪我を負わせようと攻撃を仕掛けてくる。つまり……
「一対一なんて戦い方はさせてくれない」
「……さすがワタクシの弟子ねェン♪ 愛してるワ。じゃあ美しい悲鳴を期待してるわよン♪」
ダダダヂダ先生が透花さんを連れその場を去ろうとする。
しかし、あたしは先生を止めた。
「待って下さい!!」
やるべきことがあった。




