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アコガれて魔法学校に入学したらそこは地獄だった(仮)  作者: 感想とかオホメノコトバとかいただけたら執筆スピード上がるタイプの奴。
春期
35/48

泉 故障者狩り

 

 

(どうする、どうする、どうするどうする)

 

 “泉”の中で、人が入ったことがなさそうな深い藪の中を掻き分けながら、このふざけた“出来レース”のルールを思い出す。


――チームAは以下の2つの条件のいずれかを満たした場合、勝利とする。

 1つ目は【敵チーム三十八名全員を戦闘不能にするか、降参させる】

 2つ目は【敵チーム三十八名のうち五名を自主退学させる】


(どっちも無理。戦闘不能は絶対無理だし、全員降参させるのはもっと難しい。それよりは五名の自主退学者を出す方が簡単だけれど。そんなこと、あたしにできるだろうか……)



――チームBは以下の1つの条件を満たした場合、勝利とする。

【土々呂夢似に“参った”と言わせる】


(この条件は、あたしに利がある。戦いに敗れても“参った”とさえ言わなければ負けない。つまりあたしにとってこれは能力の戦いではなく、精神の戦い)



――チームAが負けた場合【土々呂夢似は全生徒の前で裸踊り】

――チームBが負けた場合【チームB内で話し合い、五名以上の自主退学】


(……前者は無視として、後者が厄介ね。三十八名の中には、あたしと戦いたくない生徒も何人いたはずだ。でもこの条件があるせいで、彼らは“あたしと戦うことが正当化できる理由”を持つ。つまり、三十八名全員が“チームのためにあたしを倒しに来る”し、同じ理由であたしと戦わざるを得なくなる)


――夢似、そしてこれは上官命令である。お前の選択肢に降参の二文字はない!! もし貴様が“参った”と言った場合、今とは比べ物にならない地獄の日々が待っていると肝に命じてけ。その場合、進学も退学もできると思うな。校長の許可も得た。この学校の中で、一生こき使ってやる。


(……クッ)


 絶望的な状況に涙が出そうになるのを、ギュッとまぶたを閉じて耐える。泣くのは全てが終わった後でいい。戦闘開始の鐘はまだ鳴ってすらいないんだ。きっと一年生達はダダダヂダ先生から説明を受けている頃だろう。その間に、あたしはこうやって森の中を移動し考えることができる。それがあたしの数少ないアドバンテージなんだ。何の策も練らずに一対三十八でぶつかれば万が一にも勝ち目はない。


(まずは“一人降参させる”ことに全力を傾ける)


 ダダダヂダという悪魔は、あたしを苦しみの底に叩き落とした後で、一本の蜘蛛の糸を上から垂らした。

 話の最後に、ダダダヂダ先生は言った。


(この条件では流石の貴様も戦意を保てなかろう。よって一つだけ温情をくれてやる。敵チームを一人、戦闘不能にするか降参させる度に、貴様が喉から手が出るほど欲しがっている“魔力保持障害者の魔法使用法”に関するヒントを1つくれてやろう)


 もちろん、彼女の言うことなんて信頼できない。虚偽、詐欺、騙し、裏切り。彼女の弟子になってから、そんな黒い言葉にさんざん苦しめられてきたからだ。差し出された飴玉を受け取ったら誘拐されるかもしれないって、六歳の子どもでも思う。ましてや相手が前科持ちだったら、誘いに乗るなんて愚の骨頂だ。


(……でも今のあたしにはもう、糸を掴む以外の選択肢なんて、ない)


 バサッ。


 草藪の途中に、小さな池があった。その周囲は草が生えておらず、雨の影響でドロドロにぬかるんでいる。

 あたしは立ち止まって、自分の服装を見直した。

 前開きの白いパジャマと、踵のない室内用スリッパ。 


(このままじゃ目立つか)


 スリッパを脱いでぬかるみに足を埋めた。泥を両手ですくい、ベタベタと服に塗っていく。


(ナイフも使えない。木の枝も、石ころも禁止。自分の身体だけで戦わないといけない。どうすれば……)


 一年生の中で、一番簡単に降参してくれそうな人は誰だろう。入学したばかりの頃は無為と一緒にいたし、無為がいなくなってからすぐにダダダヂダ先生の所に行ったから、大半が他人同然なんだよな……

 そして泥を塗り終えるより先に、戦闘開始を告げる鐘の音が鳴った。


 キーンコーンカーン。


(ついに始まった)


 急に緊張してきて、胸がドキドキしはじめる。

 その時、頭の中に一人の一年生の声が記憶から再生された。とろけるような甘いアニメ声。


 ――夢似ちゃん、大好きっ♪

 



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