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アコガれて魔法学校に入学したらそこは地獄だった(仮)  作者: 感想とかオホメノコトバとかいただけたら執筆スピード上がるタイプの奴。
春期
33/48

寮 実体のある悪霊達の悪戯

 

 

「……それは、」


 言い返せず、押し黙る。

 反論の仕様がなかった。だってあたしも心の底ではそう思っていたから。


「聞いた話じゃ、ドイツでは相当有名な魔法使いだったらしいですが、このままじゃ土々呂さんが保たないと思います。羅野井さんに言われて、頑張っているのは分かりますが、私だってこれでもトマギガ第41期卒業生、あなたの先輩です。その先輩から見て、ダダヂジダ先生は単に生徒をいじめるのが好きな変態鬼畜黒魔女サイテー男女ババアですぅ!!」

「……先生、怒ると口悪いですね」


 ダダダヂダ・ガノー・トランペッド。

 一瞬たりとも思い出したくもない、鏡餅を縦に引き伸ばしたような、あのシルエット。お風呂に入ってるとは思えない身体の匂い。歯を磨いているとは思えない口の匂い。ニキビだらけの顔。そして何よりもあの性格――教師以前に人間としてまともじゃないのは明らかだ。

 そんなダダダジダ先生の弟子になれなんて、景子様はどういうつもりであたしに言ったんだろう。毎日100回は思う。そして毎回同じ道筋を辿る。


(きっと景子様は、ダダダヂダ先生の本性を知らなかったんだ。まさかあたしがこんな目に遭ってるなんて想像していないはずだ)


(――だから、ダダダヂダ先生との関係を解消しよう)


「魔法が使えないって知って、ショックだったと思います。でも土々呂さんは魔力が保持できないだけで、魔法の才能がない訳ではありません。例えばアキューム品を使ったり、魔力をチャージできる装備品を持ったりすれば、魔法使いとして十分に活躍ができます」


 この二ヶ月間、あたしが考えていたのと同じことをちぇちぇさんが言う。


「私も土々呂さんが心配になって少し調べてみましたが、失ってしまった魔力保持能力を取り戻す方法はない、というのが現状です。最初から魔法が使えない人間が、100%魔法使いになれない人と同様に」


 それも過去にあたしが調べて知ってる。

 まるであたしの考えていることを知っているかのようだ。


「何も羅野井さんの言葉にこだわることはありませんよ。ダダダジダ先生の弟子を続けなくなって、弟さんに勝てなくったって、いいじゃありませんか。そんなことのためにここに来たわけじゃないと思います。大事なのは、土々呂さん自身が幸せになることです。でも今は……とても不幸そうに見えます」


 ちぇちぇ先生は、あたしのことを本気で心配してくれている。何よりも、あたしの気持ちを分かってくれている。そのことが凄くうれしかった。


 でも――


(ここであきらめたら、今まで我慢してきたことが、失ってきたものが全部無駄になる、それに……)


 ――――半年後、グレイと魔法で戦って勝てなかったら魔法使いをあきらめること。


(景子様の言葉は、やっぱり重い)


 あたしはちぇちぇ先生の顔を見ずに、立ちあがった。


「土々呂さん?」 

「寮に戻ります」

「……そう、じゃあ帰って安静にして下さいね」

「……できるだけ」

「できるだけ? ……あっ、歩けるようになったと言っても明日の授業は出ちゃダメですよ♪ 欠席届、出しておきますから」


 パジャマで裸足姿のまま、あたしは保健室を後にした。

 人気のない廊下を渡り、来客用のスリッパをくすねて、外に出る。

 

 深夜の学校――さして気にならない程度の小雨が降っていた。


(警備員さん、いないよね……)


 周囲を少し警戒しながら、寮に戻るレンガ通りを歩く。

 学校を出てすぐにある、第三グラウンド。誰も使わない時間にも関わらず、電灯の光に照らされている。二か月前、弟の無為がここで竜と戦った際に、グラウンドにできた割れ目は今では完全に元通りになっていて、跡一つ残っていなかった。


 二か月という時間は、何もかもを変えてしまう。弟が日本を去り、景子様もいなくなり、友達もあたしのそばからいなくなった。 

 増えたものといえば、怪我とかため息とか涙の数。

 そして“悪霊ゴースト達のいたずら”。


「部屋に戻りたくないなあ……」

 

 ……ううん、ダメダメッ!! 弱気になりかけた自分を置き去ろうと、歩を速める。


(大丈夫、大丈夫。まだまだこんなのぜんぜん大したことないんだからっ!!)


 ほっぺたをパンッと叩いて、気合を入れて玄関をくぐる。

 一階の通路を歩いて部屋の前まで――扉にはドアノブがなく、かわりに丸い穴が空いていて、周りが焦げて黒くなっている。当然、扉にカギなどかかっていない。


「ただいまぁ」


 部屋に入ると、ベランダから吹いてくる風で髪がなびいた。木屑やガラスの破片で足を傷付けないようにスリッパは脱がずに上がる。散乱するお菓子のゴミやペットボトルを玄関側に放りながら、リビングへと進んだ。“悪霊ゴースト達”は今日もやって来たようだ。

 

「……どうしようかなあ」


 問題は、どうやって寝床を確保するかということだった。ベッドはとうに寝られる状態にない。一度燃やされた上に画鋲が散らばり、トイレ用洗剤が撒かれ、もはや原型がなかった。毛布は早い段階で部屋からなくなっている。

 それでも横になるスペースぐらいは床に作ろうと思えば作れるけれど、問題はそれだけじゃなかった。風避けだ。雨のせいで気温も下がり、風が冷たい。薄いパジャマだけで睡眠を取ったら100%風邪を引く。風邪を引けば、次の授業に耐えられない。

 風の通りを無くすために部屋を密室にするしかないが、風を防ごうにもベランダのドアはすでに閉まっている。でも、ガラスがないのだ。


「トイレで寝るのはもうこりごりだし……」


 その時、お気に入りのワンピースが床に落ちているのを見付けた。ビリビリに切り裂かれている。


「うわっ、最後の私服が……」


 ベッドの底にうまく隠したつもりだったのに。わざと目立つように広げられているのが憎たらしい。

 これで持っているのは制服だけになっちゃったな、そんなことを考えながらワンピースを拾い上げた時、ベッドの横に大きな膨らみを見付けた。


「……あれっ?」


 近付いてみると、何とそれは毛布だった。しかも奇妙なことに、全く破れていない。


(誰かがあたしのために持ってきてくれたのかな……?)


 毛布を手に取って広げてみる。この部屋に備え付けられていたのと同じ種類のものだ。

 時井さん、そして透花さんの顔が頭に浮かぶ。

 でも、その後にダダダヂダ先生の顔が浮かんだ。


 ――他の生徒から何かもらってはいけない。

 ――もしィ、ワタクシとの約束を破っっちゃた場合はァ……


(……ダメだ)


 好意だけありがたく受け取って、毛布をベランダの外に投げ捨てた。そして、できるだけ風の当たらない部屋の角に、ビリビリのワンピ―スを広げる。


「……ふぅっ」


 床の上に横になる。否が応でも目に飛び込んでくる、壁と天井を埋め尽くすスプレーの落書き。『辞めろ!!』『能無』『トイレのハナコの部屋』『悪臭』『ヤ●マン女』『〇▲×■!!』『お願いします死んでください 一年生一同』等々。蛍光色で書いてあるから、暗くてもよく見えるのでムカつく。


(……あ、そうだっ)


 あたしはカーペットの端を剥がして、その中に手を突っ込んだ。そこに、あたしの大事なモノを隠していたからだ。


「良かった。あった」


 唯一の宝物が無事だったことにホッとして、寝床に戻る。左腕に付けて眺めると、金色の輝きがきれいで、現実を忘れられた。


(……明日は休み♪)



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