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アコガれて魔法学校に入学したらそこは地獄だった(仮)  作者: 感想とかオホメノコトバとかいただけたら執筆スピード上がるタイプの奴。
春期
32/48

保健室 ちぇちぇ

(……でも、おでこ冷たい)


(……ん?)


 手を伸ばすと、タオル生地のざらざらとした感触がした。


(きもちいい)


 そう思った時、意識したわけではないのに、まぶたが自然と開いた。


(……夢か。ひどい内容だったな)


 あたしは上半身を起こした。目を覚ました場所は保健室のベッドの上、いつもと同じ、三つ並んだ一番奥の角。もはや専用ベッドになりつつある。


(ずいぶん寝た気がするけれど、夜はまだ明けてないのね)


 部屋の電気は消されていたけれど、窓の外の電灯の明かりが、様子が分かる程度に室内を照らしていた。時計を見ると午前二時。“泉”に入ったのが午後七時過ぎだったよね……じゃあ結構寝たのか。

 手の平で首をこする。意識を失っている間にカラダはすっかり洗われていた。今着ているのは病院で見かけることの多い前開きのパジャマ。ブラとパンツは昨日あたしが身に付けていたものだった。昨日も大雨で泥だらけになったけれど。また保健室の先生がキレイ洗濯してくれたんだろう。


(……ちぇちぇさん、ほんとごめんなさい)

 

 ベッドを出ようと掛け布団を返した時、右足を噛まれたのを思い出した。怪我の具合を確認してみると、包帯でグルグル巻きにされている。

 感覚的には、かなり肉を削がれたように思えて、試しに指で押してみた。肉の反発がなく、どこまでも奥にもぐっていく。「うわっ!」と恐怖を感じ、手をバッと離した。一応、痛みはなかったが、続けていたら骨まで届きそうだった……

 その時、ベッドとそれ以外のスペースを仕切るカーテンの奥から、キーッと物音がした。椅子のキャスターが床を滑る音だ。


「んん……土々呂さぁん起きましたかぁ?」


 ちぇちぇさんの声だった。目を覚ましたばかりなのか、間延びした甘い声だった。きっと、あたしが起きるのを待って、そのまま机で寝てしまったんだと思う。


「すみませんっ、もう帰ります」

「あっダメですよっ、まだ立っちゃ、」


 あたしが立つより早く、仕切りのカーテンが横に開き、身長145センチの先生が姿を現した。


「土々呂さん、こんばんはです♪」


 ほわほわ度MAXの笑顔でちぇちぇさんが近寄る。ブラウンのショートカットにビビッドの赤いメガネ、まだちょっと眠そうだ。

 ……“こんばんは”って、何か違うと思うよ。


「具合はいかがですか?」

「大丈夫です。あっ、服いつもありがとうございます」

「いーえっ。あっ制服はもう洗濯して乾かしてますので、また取りに来て下さい」

「……すみません」

「いーえ♪ でもどうして学校の制服で森に? 汚れるのに……」

「あっ……寝ていて遅刻しそうだったので、つい」

「……そうですか」


 少し不自然な受け答えだったかな……ウソってバレた? あたしは焦ったけれど、ちぇちぇさんはそれ以上何も言わなかった。メガネを掛け直して、足を触診しはじめた。


「痛かったら言って下さいねー♪」


 両手で掴んで、握力を加えていく。


「うん、“埋めたお肉”がだいぶ根付きましたねっ。じゃあ固めちゃいましょっか」


 そう言って、ちぇちぇさんは目を閉じ、手に魔力を加えた。すると時を待たずして、足首の辺りが熱を帯びはじめる。まるで皮膚の下の細胞たちが蠢いているようだった。


「早くなる早くなる早くなる早くなる早くなる」


 効果スピードアップのおまじない。これは魔法ではなくてジンクスだとちぇちぇさん本人が言っていた。だから科学的な根拠はないけれど、でも実際に治りが早いから必ずやるということだ。


(占いとか風水とか信じるタイプなんだろうな)


 治療は思ったより時間がかかった。ここで言う“思ったより”は“いつもより”と言い換えてもいい。みんなと違って魔法の使えないあたしは、実戦訓練の度にケガが絶えず、そのためほぼ毎日ちぇちぇ先生のお世話になっていた。

 火傷や打撲などの外傷は日常茶飯事、肋骨にヒビが入ったこともあった。それでも魔法治療は三十秒~一分程度で、二日もすれば傷跡一つ残らず完治した。

 それが今日は十五分ぐらいかかった。


「……フゥーッ」


 治療を終えると、ちぇちぇさんは額の汗をぬぐってベッド横の丸椅子に腰かけた。


「これでもう歩けると思いますよ」

「ちぇちぇ先生。こんな遅くにごめんなさい」

「気にしないでいいですっ、それが私のお仕事ですから♪」

「でも……」

「ううん。だって本当は、私が謝らないといけないから」

「えっ、何でちぇちぇ先生が」

 すると、ちぇちぇさんは俯いて、少し悲しそうな表情をした。

「……土々呂さんがこんな目に遭っているのに、何もしてあげられなくて」

「そっ、そんなことないですよっ」」

「……ねえ、土々呂さん。もういい加減、ヤめたら?」

「えっ?」


 あたしはドキッとした。“この学校を退学したら?”と言われたのだと思ったからだった。

 でも、実際は違う意味だった。


「ダダヂジダ先生の指導を受けるなんて」

「……なーんだ、ビックリしたぁ」

「“ビックリしたぁ”じゃないですっ。ダダダヂダ先生がしていること、いくら何でもメチャクチャですっ!! 魔法の使えない土々呂さんに“パーティーを組んではいけない”とか“武器の所持使用の禁止”とか、ひどすぎますゥ」

「でも、きっとそれには意味が」

「これだけながらそうかもしれません。でも“他の生徒と親しくしてはいけない”なんて……こんなの、魔法とは関係ない単なる嫌がらせにしか思えません!!」



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