夢 [定理magic point= boobs]
福岡県北九州市にあるあたしの家は、頂上まで一時間で行ける知多亜山と、三時間かかる部亜山の間にある。
小学校四年生まではアパートに住んでいたけれど、ある日、隣町の新興住宅地にいい物件があるからと家族で見学しにいって、その場で購入を決めた。あたしも屋根の色が気に入っていたから飛び跳ねて喜んだけど、弟は家が広すぎると不思議な事を言って不満な顔をしていたのを覚えている。
それがちょうど、あたしが退院した翌日のことだったーー
ーー雲一つない青空の下、鮮やかな赤い色をした瓦屋根の上で、あたしはトーカさんと二人、風に吹かれていた。
トーカさんは腕を組み、落下しないようにとんがりの左右に足をまたぐ形で立っていた。その横であたしは屋根のとんがりに腰かけて、右手に魔力を込めていた。
(どうやったら魔法が使えるようになるんだろう……)
そんなあたしに、トーカさんが口を開いた。
「夢似……」
その声は重々しかった。
「な、何でしょうか?」
あたしが尋ねると、トーカさんは立ったまま、まっすぐとあたしを見下ろし、大きく息を吸った。
そして――――
「魔力とはつまりおっぱいだ!!」
――師匠が弟子に真理を伝授するような断定的な口調で彼女は言い放った。
「……マ、マジすか‼?」
「本当だ。“魔力の大きさとチチの大きさは100%比例する”。これはこの星にホモ・サピエンスなる人類の祖先が誕生する以前から不変の真理である例えば私っ!!」
ガッ!! トーカさんが自らのFカップをギュッと両腕で挟んだ。
「自慢かよッ!!」
「違うぞ、ほら時井士奈も!!」
トーカさんがパチンと指を鳴らすと突然、誰かが背中から抱きついてきた。
「夢似ちゃ~んっ!! むぎゅう♪」
むにゅ~っ。背中に当たる柔らかい感触と、甘い甘いアニメ声、いつの間に!! 後ろからとつぜん襲いかかってきた士奈りん。ステータスはHP100、MP150、そしてバストは……Cはある。つ、強い……
いやいや、ダメだ。気を確かに持つんだっ!!
「ちちちち違うもん!! だって男の子は胸なんて関係ないしッ、だからむむむ胸なんて関係ないんダカラッ!!」
「お姉ちゃんっ」
その時、煙突の中から弟が現れた。そこ通れんの‼?
「ごめん、実は僕お姉ちゃんにずっと隠していたことがあるんだ……」
無為がそういってシャツのボタンを外した。前が開かれると、ナヌッ!! ……胸にサラシを巻いている!!
「嘘っ!! 無為って女の子だったの!!」
「違うよ、強くなれば男も胸は大きくなるんだ。……夢似も僕以上のぼいんになっていたはずなんだ、あの事故さえ起こらなければ」
起こらなければって、まさかあの事故が原因であたしの胸は……って何でだーっ!!
その時、無為の胸を圧迫していたサラシがスルスルッと外れた。あたしより大きなその胸があらわになる……前に後ろからその胸を掴む手があった。
「わあっ!!」とビックリする無為の顔の隣に、景子様の不敵な笑みがヌッと登場した。
「ら、羅野井さん、やめて下さい!!」
「かわいそうなA子ね、」
景子様は弟の胸を軽く弄んだあと、屋根を伝ってあたしの正面にきた……ってアレ? その時、意外なことに気付いた。
(景子様って、思ったより……?)
景子様の胸は、膨らんでいないことはないけれど目算でせいぜいBぐらいに見えた。なんだかイメージと違うぞ。イメージの問題か、……いや、ひょっとするとブラのチカラ?
あたしが疑惑の視線を送っていると、景子様は不敵な笑みを浮かべた。
「バカな子ね、これは魔法で小さくしているのよ」
「……そ、そんなの嘘、不可能ですっ!!」あたしは強く反論した。「だってあたし調べましたもん。ネットで検索したし、知恵袋で質問もしてみましたし、大っきな図書館で一日中探しましたもん。でもそれでもバストアップの魔法なんて一個もノッてなかったですもん!! 大きくする魔法が存在しないのに小さくする魔法があるわけないじゃないですかですもーんっ!!」
あたしが強く強く反論すると、景子様は少しムスッとした表情をした。やばっ、怒らせちゃった!?
「……いいわよ。じゃあ証拠を見せてあげる。その替わり、この世界がどうなっても知らないからね」
景子様はそう言って両腕を広げた。胸元に青い五芒星と赤い五芒星の魔法陣が現れる。その魔法陣を人差し指で小さく十字を切ると、切り分けたケーキのように四つに割れた。
呪文を詠唱する。
「父はマザーではなく、乳はファザーにない。グラビアアイドルよ、ひざまづくがいい。世界中の巨乳たちよ、崇めるがいい。Zを超越したこの力で仏は勃起し、神は昇天す。ぼいんぼいんぼいんぼいんぼいん……」
リピートされる「ぼいん」の数に呼応するように、景子様の胸が膨らんでいく。着ていたドレスが弾け、屋根にいたみんなを吹き飛ばした。
「きゃっ!!」
「のわ~っ!!」
その後、おっぱいは更に大きくなり、あたしの家を押し潰し、新興住宅エリア全体を押し潰し、知多亜山と部亜山を包み込んだ。
それでもなお、おっぱいの成長は止まる気配はなかった。
もはや地表は見えず、あたしたちは景子様のおっぱいの上で呼吸をしている。
呆然とするあたしに、トーカさんが肩を叩いて言った。
「どう、これで信じるだろう? 魔力=おっぱい説」
あたしは何も言わずに立ち上がった。トーカさんの手を拒否し、景子様の元へと歩み寄る。景子様はおっぱいが大きすぎるせいで、うつ伏せに寝ている格好になっていた。
あたしは景子様の正面に正座して座り、そして勢いよく頭を下げた。
そして言った。
「弟子にして下さいィッ!!」
あたしの鼻先が谷間に触れ、おっぱいのやわらかい感触がおでこに当たった――




