表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アコガれて魔法学校に入学したらそこは地獄だった(仮)  作者: 感想とかオホメノコトバとかいただけたら執筆スピード上がるタイプの奴。
春期
30/48

泉 あたしを救いあげる悪魔

  

 

 透花さんのパーティーと別れた後、あたしは適当な枝を杖替わりにして、校舎へと向かった。


(いけない、意識が朦朧としてる。早くしないと……)


 雨が激しさを増している。森に点在している電灯の光を頼りにして帰るつもりだったのに、まるでどこも初めて来る場所のように思える。

 身体は冷え切り、感覚がほぼ消失している。まるで巨大な痛みが杖を突いて歩いているみたいだ。


「……あたしは一体、何をやってるんだろう」


 周囲に誰もいないから、つい弱音を吐いてしまう。すると押し込めていた悲しみが一気に込み上げてきた。


「もういやッ……」


 その時、樹木の根に足を取られた。受け身を取る余力もなく、崩れ落ちるように倒れる。


 ズザザッ。


「……無為、どうして助けに来てくれないの」


 いつもなら、すぐにあたしの手を取ってくれるはずの弟が、来ない。


『本当は、アメリカなんか行きたくない。お姉ちゃんと一緒にトマギガで勉強したい』――別れる前夜の、弟の言葉を思い出す。


 嘘付き。だったら行かなくて良かったじゃない。何で羅野井景子さんに付いていってしまったの。あたし、今こんなに苦しんでるのに……


「何でよ……」


 やるせない思いに胸がはちきれそうになる。

 こんなことになった原因――それは分かり切っている。

 あたしは、あたしの運命を180度変えてしまった原因である、二人のことを思った。


 一人は、景子様。

 魔力を溜めることができないMPゼロの魔法使い。そんなあたしが一流の魔法使いになるために、最後にくれた指示。


「半年後、グレイと魔法で戦って勝てなかったら魔法使いをあきらめること」


 そして、それに付け加えて、景子様はこう言った。


「そのために、ある人に弟子入りすること。その人の名前は――」


 

 ――ザッ、ザッ。

 立ち上がらないでその場にじっとしていると、魔力の気配がした。

 雨のせいで分かりにくいが、おそらく前方からだ。

 あたしはうつ伏せに倒れた今の状態のまま、顎を挙げた。

 前を見ると、ゆっくりと近づいてくる巨大な黒い影。

 音がしないのは、宙に浮いた状態で移動しているからだ。

 そして、特徴的な鳥カゴ型スカートのシルエット。


(……あれは、)


 あんな恰好をしている人間は学校内に、いや国内を探しても一人しかいない。

 景子様が弟子入りを薦めた、あたしの“師匠”――――


「ドゥドゥーン、土々呂夢似、アウト―♪」


 ボロボロのあたしを前に、それが愉快でたまらないというように彼女は笑っていた。

 ――――トマギガ外国人教師、ダダダヂダ・ガノー・トランペッド。


「うふふふ♪ 罰ゲームはネェ……じゃあ泥で全身をガチガチに固めて、ウンコちゃんゲームぅ♪」


 ダダダヂダ先生はでっぷりと太った身体から短い腕を伸ばした。するとあたしの身体が宙に浮き上がり、泥の塊がいくつもあたしに飛んでくる。

 あっという間に、指一本動かせない状態になり、あたしの姿はまるでミノムシのようだった。


「あらアナタ。前より美人よ~♪ 大きな方のレバーで流しちゃいたいぐらいダワ~♪」


 ダダダヂダ先生の先生が、あたしの真正面に来た。化粧を厚く塗ったニキビだらけの肌、口から吐いた息は異臭がする。


「おいコラ」と突然、トーンが低い男性のような声に一変した。「褒められたらありがとうございますだろーガッ!!」

 

 そう言って先生は唯一露出していたあたしの顔面に泥をぶつけた。それでも飽き足らず、強い力でグリグリと塗りたくる。抵抗する術がない。目と口を強く閉じて、耐えるしかなかった。


しかしその直後、頬に固い金属を押しつけられた。

 その感触からナイフだと気付く。


「魔法使いがこーんな刃物使ってどーすんだボケ。修行の意味がね・え・だ・ろ・う・がっ!! んなことするぐらいなら、さっさと噛み殺されちまえってんだクソがっ!!」


 その時、ドスッと音がした。泥の中に衝撃が伝わったかと思うと、横腹にチクリと針を刺したような痛みを感じる。

 信じられないことだけど、ダダダヂダ先生が、あたしの腹部をナイフで刺したのだった。泥の厚さが幸いして、刃の先っぽが皮膚に触れる程度だったけれど、刺した時の力は本気だった。


「次、こんなもん使ったらブッ殺すからな!!」 


 脅迫めいた先生の声が、泥で栓をされた耳に不思議な響き方をした。かと思うと突然、先生の声が遠くなって、同時に視界が明るくなって――


(あっ……)




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ