泉 越えられない壁
セクシーな紫色のドレス系ローブから見え隠れする白い脚、銀色に染めた長髪をラフにアップして、耳に小さなイヤリングをしている。
雨に濡れて、強調された身体のライン。
あたしと一つしか変わらないはずなのに、目の前に現れた透花さんの姿は成人した女性のようにすごく大人びて見えた。
「夢似……」
透花さんはそこにいるのがあたしだと気付いて、歩を緩めた。
「……あなたが倒したの?」
粘液性を失った魔物の死骸を見て、あたしに尋ねる。もちろんそんなことを知りたくて尋ねた訳じゃないって分かっていた。あたしを心配して、でも今のあたしがこんなだから何て言ったらいいか言葉が見付からなくて、そう言ったのだ。
あたしが変わってもなお掛けてくれるその優しさ気遣いを、本当はもっと素直に受け取るべきだって分かってる。でも今のあたしは、彼女に向けるべき笑顔の作り方をすっかり忘れてしまっていた。
「くっ!!」
あたしは片膝だけ折ってナイフを拾うと、踵を返した。
「夢似さんっ、せめて杖だけでも……」
再び、時井さんが近寄ってきた。反射的に腕で払いのける。
「キャッ!!」
(あっ……)
まさかそんなことをされるとは予想していなかったのだろう、彼女はまるでマネキンのように突き飛ばされて、地面に倒れた。
「あっ、士奈っ……この野郎!!」
好きな女の子が倒れたのを見て、トラオが物凄い剣幕であたしの方へと向かってきた。あたしを無理やり振りかえらせて、制服の首元を掴む。バチンッ、とシャツのボタンが2~3個外れた。
「んっ!!」
重心が変わったのをとっさに支えようとして、右足に鋭い痛みが走る。
「トラオくん、ダメッ!! 夢似ちゃん、足ケガしてる!!」
「関係あっかよ。何だよてめえ。故障者のくせにウザッてえ。早くガッコー辞めろよ」
「……うるさい」
「お前がいるような所じゃねえんだよココは。魔法も使えない。パーティーにも入れない。それどころか迷惑をかける。しかもよりによって士奈をオッ――」
あたしをさんざん責め立てていたトラオの身体が急に横に振れた。ギュッと握った透花さんの右手が、トラオの横顔を殴り飛ばしたのだった。ノックダウンするようにその場に崩れ落ちる。
「……と……うか。オマ、何で……」
「夢似、ごめんね」
透花さんはそう言って、時井さんの杖をあたしに差し出した。
「これ、使って」
「……ううん、大丈夫だから」
「でも」
「ダメ、透花さんにまで迷惑かけられない」
彼女に背を向けて、再び校舎に向かって歩き出す。といっても右足が使えないので、ほとんど片足ケンケン状態だった。
「夢似さん、あの」
「士奈もういい。あの強情っぱりに何を言ったってムダだから。行きましょ……ほら泣くなトラオ。男のくせに」
「ぐヘッ、ぐすッ……何で僕がぁ」
「夢似さーんっ!! もし助けが必要な時は、あたしたちならいつでも大歓迎ですからねぇーッ!!」




