表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アコガれて魔法学校に入学したらそこは地獄だった(仮)  作者: 感想とかオホメノコトバとかいただけたら執筆スピード上がるタイプの奴。
春期
28/48

泉 時井士奈

 

 

 ニュルッ……という、肉というよりは水分の多い果実に包丁を入れたような感触。魔物の血がドプッと溢れだす。嫌悪感に頬が引き吊るけれど、でもそんなことに構っていられない。殺るか殺られるかの瀬戸際だ。逆手のまま、根元まで刺したナイフを横に動かす。魔物の首がギュギュギュと難なく引き裂かれていく。


「ゴォォォッ」


 その時、動物のオオカミとは明らかに異なる、腹の底から湧きあがるような重低音が聞こえた。鳴き声というよりは凄まじい風の音のように聞こえる。

 足首に食い込んだ牙から力が抜けるのを感じたので、すかさず魔物の口をこじ開けて、脚を救助した。血だらけの足は真っ黒に染まって見える。

 間もなく、喉を裂かれ動かなくなった全長1メートルの魔物が、ガタガタと痙攣をはじめる。


(まだ油断はできない)


 キノコオオカミは死ぬ直前に酸性のゲル状の姿へと変身し、敵に飛びかかることが多い。右足をかばいながら距離を取り、いつでも木の後ろに身を隠せるよう準備する。

 これさえかわせば……全身に降り注ぐ雨の中、あたしは可能な限りまばたきをしないようにして、魔物の最後の攻撃を待った。

 しかし、それよりも早く――――


 キンキンキンキンッ!!


 日本刀のようにスラッと細い数本の氷の刃が、液体化していた魔物の身体に向かってグサグサと突き刺さった。それは魔力を多く使う割には殺傷力の低い、氷の初級魔法。氷系が苦手なあたしでも使える簡単な魔法だけれど、魔力消費の大きさのために能力的に使えない。


「そこの人、大丈夫ですかっ!!」


 魔物を挟んで向こう側から、一人の女の子が姿を現した。


「おケガはっ!?」


 緊迫感を溶かす個性的なアニメ声。このぬかるみの中を進んできたとは思えない、フード付きの真っ白なローブ。

 時井士奈ときいしな……さん、だ。


(……会いたくないのに)


 かといって脚を負傷したあたしが、走って駆け寄ってくる彼女を撒くことは不可能だった。


「……アッ!!」


 そこにいたのがあたしだと気付いて、時井さんが一瞬、近付くのをためらう。


「夢似……ちゃん」

「……ありがと」


 あたしは一言お礼を告げて、彼女の前から去ろうとした。とりあえずピンチは脱した――と思った途端、骨の内部に響くズンッ、という強い痛み。


「んあっ!!」


 左足に体重移動をする余裕もなく、その場に膝から崩れ落ちる。


「夢似ちゃんっ、大丈夫!?」

「来ないで!!」


 あたしが一喝すると、彼女はビクッとしてその場に停止した。


「……でもケガしてるんでしょ?」

「士奈……、時井さんには、関係ないっ」

「でも早く治療しないと……」

「心配しないで。帰り道はちゃんと分かって――クッ、」


 ペチャッペチャッ――


「おーい、士奈ぁ」


 ――その時、時井さんの来た方向から、彼女のパーティがこっちにやってきた。一人は時井さんのことが好きでパーティに参加しているトラオとか言う男子だ。そしてもう一人は……


(……透花、さん)


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ