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アコガれて魔法学校に入学したらそこは地獄だった(仮)  作者: 感想とかオホメノコトバとかいただけたら執筆スピード上がるタイプの奴。
春期
27/48

泉 対キノコオオカミ

 


 夢を追いかけている人の目は輝いている――もしこの言葉が正しいとしたら、今のあたしはまとわりつく夢から必死に逃げ回っていることになるだろう。

 自分は夢を追いかけているつもりでも。


 6月4日、午後七時頃。

 天候、どしゃ降りの雨。


 特別魔法技術学校通称トマギガ、の北側――学校総面積の約7割を占める、通称“泉”と呼ばれる密林地帯で、あたしは一匹の魔物と対峙していた。

 

 キノコオオカミ――体長約1メートルの獣型の魔物。全国どの一帯でも見られ、凶暴性が高い。体毛の替わりに全身を覆う数万のきのこは、宿主を守るために毒性の高い胞子を撒き散らす。


(……天候に助けられたわね)


 この大雨では、胞子は全て地面に落ちる。敵の最大の武器を無効化してくれた天候に感謝した。


(あと気を付けないといけないのは爪と牙だけだ)


 視界を邪魔する前髪を指で横に反らし、手の平に意識を向ける。魔物の動きに注意を向けながら、全身の魔力を右手に掻き集めていく。砂の中からわずかな砂金を取り出すような気の遠くなる作業。毎度毎度泣きたくなるくらいうんざりするけれど、他に仕様がない。

 自分の知識をフル動員させて考える。少ない魔力でオオカミを倒せる魔法がないか……


(この天候では火は使えない。雷は自信ないし、あたしも感電しそう。水は効果ないし……じゃあ氷か)


 氷魔法は得意な火の魔法と正反対で、魔力の振動数を減らさないといけない。理論的には分かっているけれど、感覚的に難しくて失敗しちゃうんだよなあ。

 でも他に思い当たる魔法もないし……


 ザッ!!という音――すかさず反応、キノコオオカミの脚が地面を蹴った。


(来るっ!!)

 

 水と暗さで視界の悪い中、強くまばたきをして目をぎょろぎょろと動かす。

 キノコオオカミはジグザグに飛びながら、あたしに近付くと、一メートルを切った位置からまっすぐと飛びかかってきた。


(……くっ!!)


 飛び魔法(=遠距離魔法)で相手にダメージを与えるだけの力はあたしにはない。だから相手の攻撃に対して回避以外の選択肢はなかった。


(手のひらから氷の刃を作って心臓を狙うしかないか)


 魔物の第一撃を横に転がって避ける。あーもう制服が泥だらけ。しかも冷たいし……と思うのも束の間、あたしが身体を起こすのと同時に、野生の瞬発力を持つ魔物の第二撃が襲ってきた。


「きゃっ!!」


 80キロ近くあるその巨体があたしを押し倒す。すぐに魔物の頭部を両手で殴り飛ばしたので、マウントポジションからは逃れたが、魔物を倒せる唯一の可能性を喪失する。襲われたショックで、右手に集めていたわずかな魔力を反射的に放出してしまっていたのだ。

 

(もうっ!!)


 自分の間抜けさを呪いながら立ち上がり、脚に隠していた最後の武器――長ナイフを手に持つ。


(一撃で仕留めるなら喉しかない)


 魔物が口を大きく開け、脚を食い千切ろうと再び飛びかかってきた。タイミングを見計らって喉元を狙おうと思い、でも相手が低く飛んだために狙えないと気付き、回避しようと決断した――そのタイムロスのために、あたしは魔物の攻撃を回避しきれなかった。


「んあっ!!」


 右足首の内部でゴリッ、という鈍い音。

 雨による全身の冷えと視界の悪さが影響してか不思議と痛みは感じなかった。しかし膝上の辺りを流れていた血液が、開いた傷口の方へと一斉に流れていく――そんな感覚がして、これから始まる大量出血を想像した。

 そして普段なら届かない深い場所に、魔物の牙が届いている。  


 ――――あたし、死、

 

「アーーーーーーッ!!!!」


 あたしは悲鳴の替わりに叫び声をあげて、持っていたナイフを逆手に持つと、魔物の喉元辺りを狙ってまっすぐに突き下ろした。

 



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