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アコガれて魔法学校に入学したらそこは地獄だった(仮)  作者: 感想とかオホメノコトバとかいただけたら執筆スピード上がるタイプの奴。
入学
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Keiko's room 2

 


 プッ。という放送が切れた合図のような音を最後に、景子様の声は聞こえなくなった。


「……何よ、もう」


 誰かがいたら、はっきりと聞き取れる大きさであたしは言った。


「……訳分かんない」


 もちろん部屋には誰もいない、あたしを包んでるのは、何もないただのまっしろい部屋だ。だから何を言ったって、誰にも聞こえないし、何をしたって、誰にも見られることはない。


「あたし、魔法が使えない?」


 弟や景子様が話していたことが、本当に本当なのか。

 確かめたくなって、右手に力を込める。魔力が集まり、火の玉ができる。


(この魔力は、あたしのもの?)


 火の玉をそのまま、手の平に維持してみた。

 蛇口から水を出しっ放しにするような、無駄遣い行為。

 いつもの感覚を信じれば、これぐらいの魔法なら、半永久的に維持できるはず。


(それとも無為の……)

 

 すると30秒ぐらいだろうか、ヒュンと音を立てて炎が縮小していく。


「くっ!!!」


 強引に火の玉を大きくしようとすると、集中力が散漫になり、頭がぐわんぐわんしてくる。

 当然だ。魔力だって元々は“人間に最初から備わっている能力”であり、生きていくのに必要だから存在する。だから魔力を全て失えば、死ぬことはないにせよ、意識を保つことはできず気を失ってしまう。 


「……はぁはぁ」


 酸欠状態のように視界がぼやていく。


(それは魔力を使いすぎないための人間の自己防衛本能さ)

 ……お父さんが、言ってたな。

(でもまあ気を失うぐらい使おうとしても、切り傷にかさぶたができるように魔力も常時自然回復するのだから。あまり気にせず全力で修行すればいいさ)


 続いて頭に浮かぶ弟の言葉。

『夢似は事故が原因で自分のエネルギーを蓄えることができなくなってしまった』


 魔法使いなら備わっている自然回復能力が、あたしには役に立たない。

 どれだけ水を出しっ放しにしても、底が破けていたら、水は溜まらないのと同じように。


(……くっ!!)


 あたしは手から火を消し、その場に倒れ込んだ。横向きに寝転がり、身体を丸める。


(はぁはぁ、頭がぐらぐらする)


 耳の奥で血の流れる音がする。吐く息が腕の表面をさわっている。ぐったりして何も考えられない。

 頭の中に、交通事故の日のことが浮かぶ。


(この感覚……今日で何度目?)


 さっき気絶した時もそうだった。

 無為が実力を隠しながら竜と戦っていた時のことだ。その後、無為に全力を出してもらうために、あたしの姿を魔法で隠した。そして……


(あれ……もしかしてあの時気を失ったのも魔力がゼロになったから?)


 考えてみれば、前触れもなく意識を失ったのだ。おかしいっちゃおかしい。でも、弟が全力を出した時にあたしに分け与えていた魔力が弟に戻っていって、結果あたしの魔力がゼロになり、気絶した。というのなら理解できる。


(じゃああの時、あたしに離れて欲しかったのは。全力の姿を見られたくなかったというより、全力を出した時にあたしが気絶しないようにするためだったのか)


 離れていたら貸した魔力返ってこないから。


(……なんだか今日の無為の言動の意味が少しずつ見えてきた気がする)


 じゃあ一回目は?

 入学式。

 景子様がサプライズで現れた直後のこと。

 気絶こそしなかったけれど、意識が遠のいたのは覚えている。

 その点から考えて、弟もさすがに全力を出そうとはしていなかったはず。


(ひょっとして、警戒したため?)

 

 例えば、景子様の強い魔力に反応して、何かあっても対応できるように準備したとか。

 そういえば、隣の男の子が景子様をかたき討ちのような理由で襲撃した。

 むしろ、そっちの男の子に警戒したとか?


(そういえばあの時、男の子の魔法に対しての弟の反応がすごく遅かった)


 今思い返すと、やっぱりあれはわざとな気がする。

 ってことは男の子に景子様を攻撃して欲しかった……のかも。

 どうして……?


「何考えてるのか分かんないよ、無為!!」


 思わずあたしが叫ぶと、ブワンッという音と共に、目の前に弟が出現した。


「きゃっ!!」


 その瞬間、あたしはビクッとしたが、すぐにそれが本物ではない、魔法が作り出したものだと気付いた。

 お化けだと思ったものがただの布切れだと気付いたように、ほっと胸をなで下ろす。


「……リセットッ」


 あたしが言うと、無為はズボッと激しい音をたてて床の中に沈んでいった。


「……ぷっ」


 あたしはつい噴き出してしまった。

 無表情の弟が、微動だにしないまま、落下するように地面に消える。

 その画が変にシュールでおかしかった。


「テレビでよくある、落とし穴の罰ゲームみたい……」


 それをきっかけに、あたしは“ケイコノヘヤ”の使い方を思い出した。


「せっかく来たんだし、何か使いたいな……」


 景子様のようにたくさんの家具を出して、メチャクチャにしてみようか。

 それも楽しそうだけれど、でもどうしてだろう。

 っていうか、ほんとどうしてだろう。


「あたし、意外とタフなのかもしれない」


 さっき感情的になってあんなに取り乱したのに、ベッドをバットでギッコンバッタンするテンションだったのに、もうすでにそうでもない。

 今の弟の“ズボッ”のせいだろうか?


 もちろん心配しないといけないことは山ほどある。

 明日からの自分を考えてみると、「魔力がないから、誰に分けてもらおう」とか、シリアスにクソやばい問題が結構ある。

 ただ、そんな状況を知っていながら、「まあトーカさんがいるから、優しいし大丈夫かなきっと」なんて楽観的に思えてしまっている自分がいる。

 そして、それ以上の悩みが出てこない。


「……無為っ」


 脈絡なく、つぶやいた。

 当然、弟瓜二つの姿が目の前に現れる。


「……リセットッ」


 ズボッという音がして、弟が消える。


「……無為っ」


 またまた弟が現れる。


「……無為?」


 もう一度、その名前を呼んでみる。

 すると無為の横に、全く同じ姿の弟がもう一人現れた。


「……あはは♪」


 まるで鏡に写したように、無表情の二人の無為が立っている。


「……リセットッ」


 ズボッ、ズボッ。


「……うふふっ」


 ……これはヤバいかもしれない♪♪♪





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