第三グラウンド 戦い、再び
あれ、またこの感じ?
――ドクン。
……珍しい、今日で二度目だ。
前触れもなくやってきて、あたしの意識を現実から引きはがしていくこの感覚。
まるで昨日のことのように浮かんでくる幼い頃の――世界で二番目に嫌いな物が、世界で二番目に嫌いになるきっかけになった――記憶。
……あたしを轢きかけたトラックの運転手さん、あの後、罪に問われなかったかな? 無罪だったらいいけれど。たぶんあたしの不注意が原因だったのだろうし。あたしもあたしを助けに来た弟も結果的には無傷だったのだから。
それにしても、死の一歩手前までいった経験だからかなあ。いつまで経っても忘れられないのは。
一つ、瞬きをする。
目を開けるとトーカさんが何か叫んでいるのが見える。声は聞こえない。音もしない。
音がないのは目が乾いたせいなのかなと思い、もう一つ、瞬きをしてみる。
目を見開いて驚いている景子様の顔が見える。
羅野井景子様。あたしの目標。あたしの憧れ。あたしの理想の未来。
そんなあたしの理想の人が、あたしを、あたしだけを見つめている。
うれしい。
景子様の鼻からゆっくりと息が出ていくのが分かる。見開いていた目が少しずつ細くなっていく。凛としていた表情が、悲しそうな表情に変化していく。やっぱり音はしない。
更に瞬きをしてみる。
まばゆい光の中に、無為が立っている。
光っているのは……無為の右手の剣、いやあれは剣の形をした魔法だ。
凄く強力な魔法。きっと竜はヒトタマリもないに違いない。
やっぱり無為って……
――ドクン。
もう一度だけ瞬きをする。
今度は何も見えない。
まぶたを閉じてみても、開いてみても、何の変化もない。
瞬きをしたかどうかすら、あやしくなってくる。
いつの間にか心臓の音も聞こえなくなった。
……あれ?
あたしいま、どこにいる?




