第三グラウンド 戦い、最凶の相手
バチで叩かれた太鼓のように、グラウンド全体に衝撃が走った。
「キャッ!!」
激しい揺れにバランスを崩し、尻もちをついてしまう。1~2秒ですぐに収まったけれど、そのまま揺れ続ければ大地震だと勘違いしてしまうほどの大きな揺れだった。
「イテテテテ、急に何だ??」
「地震か!?」
周囲を警戒しながら、膝を上げる新入生たちに目がいく。
その視線の先に弟の背中があった。
「あ、あれっ!」
いち早く変化に気付いた新入生が叫んだ。
ファンタジーホールがかなり大きくなっていた。初めに見た時は人間が一人やっと通れるぐらいのサイズだったのに、現在はクレーン車でも問題ないほどだ。
「キャッ!!」
前方から物凄い突風が吹いた。あたしの体重を軽々と持ち上げ、グラウンドの外側の方へと吹き飛ばす。抵抗すべくもなかった。
「もうっ!!」
服の土を払いながら起き上がると、新入生たちがあたしと同じ位置まで飛ばされてきた。
「うおおおっ‼‼‼‼‼‼」
「飛んで飛んで飛んで飛んで~」
「ぎゃあああああっ!!!!」
飛んでくる男子は放っておいて、女の子を受け止めてあげる。ちなみに男子の一部は設置されていたベンチに身体をぶつけたりしてダメージを受けたりしていた。
「ぎゃっ!!」
「ぐげっ!!」
「あ、ありがとうございます」
「……ううん気にしないで」
「ここでは風が止まってるんですね」
女の子がつぶやいた。心を震わせるアニメ声。受け止めた時、すごくいい匂いがした♪
……っていけないけない今そんなこと考えている場合じゃない。
今いる場所に風がないというのはあたしも不思議だった。
「この魔法……」
女の子がそう言ってグラウンドの内側に近付き、腕を伸ばした。すると、まるで目に見えない壁でもあるように、その手が何かにぶつかる。
「結界ですね。私、見たことあります」
あたしも真似してやってみた。思い切り力を込めると壁の内側に手を侵入させることができた。しかし力を抜くとあっという間に外に押し出されてしまう。
全身でこの壁を超えるのは難しいなと思った時、結界の奥に意識が向いた。
「……あっ」
壁に両手をあてる。誰もいなくなった結界の内側に、弟だけが一人取り残されていた。右手に魔力を込めた状態で、馬鹿みたいに膨れ上がったファンタジーホールを見上げている。
「無為っ!!」
あたしが叫ぶと、首を少し動かした。結界内にも声は届くようだ。
「夢似っ、誰か先生を呼んできて!!」
「えっ!?」
「このままじゃみんなやられてしまうから早く!!」
無為の声には焦りの感情が交じっていた。
これまでどんな敵と対面しても「大丈夫だよ」と優しい言葉を投げかけてくれた頼もしい弟が焦っている。先生に助けを求めている。そのことに事態の深刻さを実感した。
「分かった!!」
あたしは振り返って階段を駆け上がろうとした。
しかし三段目辺りを上るぐらいで、再びバチで殴られたような振動。
ファンタジーホールの穴から一体の魔物が姿を現すのが見えた。
あれは……
その魔物の姿形をあたしはテレビで見たことがあった。
竜。
イコール景子様の存在を一躍有名にしたきっかけとなった魔物だ。
でもそれは竜の弱さを意味するものじゃない。
魔王の存在が知られる以前、竜はこの星に棲む魔物の王として、世界中から恐れられていた。
長らく不死と噂され、突然現れては都市を焼き払い、歴史に名を残す数々の勇士たちを葬ってきた悪魔。
景子様でさえ16歳の時に世界最高の剣士と協力してやっと倒せた相手だ。
そんな竜に、15歳の無為がたった一人で対面している。
いくら無為でも……
「弟逃げろッ!!」
その時、階段を上り切った場所で、トーカさんが魔力を溜めていた。
「一瞬だけ、結界に逃げ道を作る!! それまで化け物と距離を空けて時間を稼げ!!」
無為にそう言い放ったトーカさんだったが、あたしを見て首を横に振った。
「私に期待しないで。こんなの、ダメ元だから」
そんなこと言いながら、顔色が悪い。自分の能力を超えた魔力を使おうとしているせいだ。かなり無理しているのが分かる。
「あたし先生を呼んできます!!」
そう言って校舎に向かおうとすると、トーカさんが引き止めた。
「無駄だ、ここの教師は信用できない」




