第三グラウンド 戦い、違和感
やってやるぜーっ!
右手に魔力を込めながら、魔物たちの群れの中に立ち向かっていく。
するとあたしの前を走っていた無為がスピードを落とし、あたしに近付いてきた。
小さな声で話しかける。
(僕が先にダメージを与えるから、止めを刺して)
「えっ?」
「いいね、行くよ!」
無為はそう言うなり、再び先に走り出した。
「喰らえっ!」
そして一番手前の敵に向かって、小さな火の球を投げる。火の玉は不規則なカーブを描いて、剣の化け物に命中。一撃で倒せはしなかったけれど、かなりのダメージを受けたのだろう、命中した位置から動かない。
「夢似!」
「お、おっけ!」
(なーんか無為って、トーカさんの話聞いてなくなくなくない?)と感じながら、動けなくなった敵に向かって火の球を投げる。無為よりも更に小さい魔法だったけれど、止めを刺すには十分な威力だった。剣の形だった魔物が、ボウッと音を立ててボロボロに崩れ落ちていく。
「どんどん行くから!」
「分かった!」
向かってくる敵に次々と火の玉を投げつける無為。投げるのは当てずっぽうに見えるのに、一発も外れることなく次々と命中する。どうやら追尾機能があるらしい。
そういえば、無為が直接魔物と戦うの久しぶりに見た。最近はあたしが戦って弟がサポートするってパターンが多かったからなあ……
弟の通過した後、あたしが相手をするのは、すでに炎で焼かれ、ほぼ戦闘不能状態になった魔物たち。
(そりゃあ、あたしよりも無為の方が強いし。頼りになるからいいけれど……)
黒焦げの敵に、止めの一撃を放とうと右手を上げた時、後ろから肩を握ら
れた。
「ねえ、弟君っていつもこんな感じなの?」
「えっ?」
とりあえず右手に火の玉が残っているので、目の前の敵に投げた。爆風に髪が舞い、肌が赤く染まる。トーカさんの目線はあくまでも無為に向けられていた。
「いつもは違う……普段はサポート中心で、戦うのはあたしだし。ってゆーか無為が攻撃魔法を使うの久しぶりに見たし」
「何で弟君は夢似のサポートするんだろう」
「何でって言われても……気が付いたら、二人で戦う時はそうなってたから」
「……分かんないけど」トーカさんがポツリと言った。「もし私の予想が当たってたら、あなたの弟を私は許さない」
「えっえっ、何で?」
トーカさんは遠くにいる敵目がけて、魔法の球を発射した。怒りに任せて投げたという感じだった。球体は細長く形を変え、100メートル以上離れた標的に一秒も経たず到達すると、敵を黒焦げに焼いた。
(電気の魔法を使いこなしてる。この人、凄い……)と頭の片隅で思いながら、それ以上に考えていたのはトーカさんのさっきの発言だった。さっきまで普通に話していたのに、急に弟のことを「許さない」なんて……どうして怒ってるのか、原因の見当が付かない。
トーカさんはすでにその場から立ち去ろうとしていた。あたしがその場に止めようと声をかけると、彼女は振り向きもせずに淡々と言葉を落とした。
「……ひとまずこの下らない茶番から私は降りる。他の一年生達もやってきたことだし、何よりあんたの優秀な弟が相手の体力95%削ってくれてるわけだから余裕でしょ」
「でも……あっ」
その場を離れていくトーカさん。やがて、遅れてやってきた新入生の魔法使いの集団とすれ違った。
「敵は!?」
「見れば分かるでしょ。あっち」
「一人で戦わせてるのか!!」
「知らないわよ。勝手にやってるんだから」
「よし、行くぞ!!」
あたしの横を通り過ぎ、弟のいるファンタジーホールの中心に向かっていく魔法使い達。
「下らない……」
唾を吐いたトーカさんが再び足を前に出した――その時だった。




