プロロプロロプロローグ♪
青い空を貫いて、学校のシンボルである銀の鉄塔が輝いている。
柔らかな春の香りに誘われ、あたしはキャンパスに第一歩を踏み入れた。
ここは特別魔法技術学校、通称トマギガ。
中学校を卒業後、あたしは魔法使いになるという夢を叶えるため、双子の弟である無為と一緒に国内で一番ハイレベルと言われているトマギガに入学した。
正直、入学できたのは運とキセキと無為だった。
「夢似さぁ、ハマったら恐ろしいぐらい集中力スゴいね。ほら、もう六時間経ってる」
「ぎょえっ! マドカマギカマジか~‼?」
ミスターパーフェクトな弟のサポートと、受験三か月前にカチッと入ったやる気スイッチ。更には受験問題で直前に見た所が出題されるという【神、舞い降りる】的な現象まで起こり、倍率29.3という驚異的な競争率にも関わらず見事生き残ることができたのだった。
「まさか本当に合格できるなんて、夢みたい!」
そう思ったのはあたしだけじゃない。
残念ながら不合格だったクラスメイトのM(♀)は、「え~、まさかあのムニが~っ‼? 何で~っ‼?」と叫ぶこと一時間だったし、(失礼だ、ああ失礼だ、失礼だ)不合格でプライドが傷つかないようにゴリゴリのA判定受験をしたK(♂)も、「さすがムニさん。あらゆる面で遥か僕以下つまり馬鹿のアナタがまさか合格するなんて、いったいどんなカンニング魔法を使ったんですか?」と、過去最大級の上から目線でこきおろされるし、(てかカンニング魔法って何だオイ伊達メガネ。受験会場内は魔法封印の結界が張ってあんだから使えるわけねーだろ。ってか使わねーよ!)
アゲハテには「いっそ受験せずに宝くじ買っといた方がよかったんじゃねーか?」とのたまいたまう担任はM字ハゲだし(もちろん♂)。
ふ~んだ、あたしだって分かってるさ、本当だったら受かるはずなかったって。
でも、それでもあたしはどーしてもトマギガがよかった。
だってトマギガの卒業生には、あたしの憧れのケイコ様がいるから。
【ケイコ・ラノイ】
本名、羅野井景子。
生きる伝説。
ギリシャを代表する超有名イケメン剣士ロドに個人指名されてタッグを組み、人類初の巨竜討伐を成功させてから世界を代表する魔法使いと言われるようになったのが若干16歳の時。(そもそも何で16歳でロッドと知りあいになれるんだろう……)
その後、世界ナンバーワンウィザードと言われたガストン・スノー(100歳超えのおじいちゃん)から「神に最も近い魔法使い」と絶賛される。
広島を襲った大停電の際に、人間火力発電所として18時間も街に明かりを灯し続け、世界のニュースで【ケイコイズジャストヒノマル】と言われる。
去年なんかも標高7000メートル級の山に手ぶらで単独登頂を成功させた。
とゆーよーに、ケイコ様はやること成すこと、マジ神過ぎなのだ。
そんなケイコ様の存在をあたしが初めて知ったのは、小学校三年生の時に見たテレビのドキュメンタリー番組だった。
たった数秒の映像だけで、あたしは魂をガッと掴まれてギュギュギュギュッと揺さぶられたのだ。
それはスタッフが「何か魔法を見せてください」と尋ねた時のこと。
何と彼女は番組のスタッフの私物である真っ赤なスポーツカーをドロドロに溶かしてしまった。
しかもボンネットに少し触れるだけで。
ンギャァ~~~ッ‼‼‼‼‼‼というスタッフの断末魔の悲鳴が聞こえる中、彼女は渋い顔をして一言こう言った。
「くさっ」
その瞬間、あたしはケイコ様の虜になった。
あたしは立ち上がって家族に「あたし、魔法使いになる!」と宣言。
何でも勉強に結び付けるママに「じゃあ今日から毎日勉強するのよね?」と満面の笑みを浮かべられたけれど、オヤジギャガーなパパは「ハートに火を付けられたんか」と一人で大爆笑だったけれど、そんなの関係なかった。
(絶対に魔法使いになって、パパの車をドロドロに溶かしてやるんだから!)
ではなく、
(ケイコ様みたいにカッコいい女性になるんだ!)
そう胸に誓ったのだ。
そして、ついに夢の第一歩となるトマギガの入学式の日がやってきた。
あたしにとって人生最高の日になるに違いない、そう信じて疑わなかったこの日が、まさか人生最大の地獄の日々のはじまりだったなんて……