誕生1
5年前の7月・・・
ブーッ、ブーッ、ブーッ。
携帯電話のアラームが6帖の洋室に一枚敷かれている布団に寝ているタカシの枕元で鳴り響く。
タカシは枕元の左側に置いてある折り畳式の携帯電話を手に取り慣れた手つきで携帯を開き表示画面を見る。
画面には08:00の数字が大きく表示され点滅している。
「もう8時か・・・」
タカシは眠そうなそぶりも見せずにアラームを止めながら呟いた。
バッと起きるでもなく、グズグズするような事もせず携帯電話を枕元にもう一度置きなおした後、大の字になり真っ白な天井をジッと見つめていた。
シーン。
起きてから5分ほどたった。タカシは、まだ天井を見ている・・・いや見ているというより眼を開けているだけで、その先に天井があるというだけなのだろう。
しばらくするとブーッ、ブーッ!と部屋の静寂を打ち破るかのようにまた携帯電話が鳴った。
再び携帯電話を手に取り開くと表示画面には『歩美』(アユミ)の文字と電話番号が表示されている。
タカシは文字を見ながら通話ボタンを押し右耳に携帯を押し当て寝起きっぽい声で電話に出る。
「・・・もしもし」
「おはよー。起きましたか?」
「・・・起きてるよ。」
不愛想な男の返事に動じずアユミは話続ける。
「今朝さーお腹が凄い動いていたんだよーもしかして今日生まれるかな」
嬉しそうに弾むような声で、もうすぐ生まれてくる、お腹の赤ちゃんの様子を伝えてくる。
「リンゴ食べていた時だったからさー一緒に食べていたんかなー?」
「そうなんだ。ママに似て果物好きになるんかな」
「果物好きだったら完全に私似だね。タカシさんは果物食べないからね」
などとほぼ、お腹の赤ちゃんの話が10分くらい続いていた。
予定日は8月の初旬。今日は7月の28日だった。さすがに今日は生まれないだろう。とタカシは思いながら会話を続けていた。
「また変化があったらすぐ連絡するからさ。仕事頑張ってね。」
と締めくくられ通話が終わりタカシは布団から起き上った。
アユミが里帰り出産で実家に戻ったのは1ヶ月半前。
それまで毎朝アユミが作った手料理の朝食を食べていたのに実家に戻ってからは帰宅する前にコンビニで買った菓子パンの朝食となっていた。
朝8時に起き二度寝していないかアユミからのモーニングコール。を食べ、髪を整え、ヒゲを剃り、ワイシャツ、ネクタイ、スーツに着替えて出社していく。なんともつまらない生活。
この間アユミとの通話以外ほぼ言葉を発しない。起きてからはテレビもつけず一連の行動をとるためほぼシーン。こんな生活が1ヶ月半続いていた。