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「無論、拙者たち全員の属性を一つにまとめて混沌にぶつける方法でござる!」
見事な回答に、一同から自然と拍手が起こる。蒼雲、初めての大正解である。
「そこで、魔王を魔法の第一人者と見込んで、大事な質問がある」
「あたしに? なぁに?」
「今蒼雲が言ったことが可能か? もしできるのなら、どれくらい時間がかかる?」
魔王は「そうねえ……」と顎に指を当てて考える。
「できるけど、やったことないからどれくらい時間がかかるかなんて分からないわよ?」
「ウソ? できるの?」
同じ魔法畑の楓が驚くと、魔王は露骨に眉をひそめた。
「あのね、魔法の基本は信じる心よ。お嬢ちゃんみたいにやる前からできるできないだの考えてるようじゃ、できるものもできなくなるわよ」
バカじゃないの、とお株を奪われたにもかかわらず、楓は蒙を啓かれたような顔をしていた。
「それじゃ、属性の統合は魔王に任せるとして、問題は時間だな」
スズキが出番とばかりに肩に担いだ大剣を、虎徹がひょいと取り上げる。
「悪いが、オッサンにはひと仕事してもらわなきゃならないんだよな」
「ひと仕事?」
虎徹は大剣を片手で一振りし、地面ギリギリのところでぴたりと止める。
「こいつに俺たちの属性をすべて集め、混沌をぶった斬る」
自ら囮役を買って出たものの、自慢の馬鹿力が通用しないアペイロンに、もうこれといった策は残っていなかった。
しかし物理的に力が無くなったわけではなく、アペイロンが攻撃しても効果が出なくなっただけだ。虎徹はこれを、混沌がこの世界の因果律に干渉しているためだと推察した。きっと他の特異点たちもこうして無力化されたのだろう。
だがカラクリが分かったところで、事態は何一つ改善されなかった。現に、あれから何度もアペイロンは渾身の打撃を叩き込んでいるが、もう混沌にはダメージはおろか、かすり傷一つ負わせることができなかった。
久しく忘れていた無力感に、虎徹の表情から余裕の笑みが消える。
「こいつはアレか? 窮地と書いてピンチってやつか」
口ではたわ言を言っているが、それは明らかに表面上の余裕で、頭の中では次の策を必死で考えていた。
だがそのとき、目まぐるしく回転する虎徹の脳内に、雑音混じりの美波の声が響いた。
『虎――つ――ん』
「おぅっびっくりした!」
耳で聴くのとは違う、脳に直接語りかける感覚に戸惑うヒマもなく話が進む。
『問題――生。一度も――って』
言葉が少ないわりに、有無を言わさぬ緊迫感がある。どうやらかなり拙い事態になっているようだ。
「問題? どういうことだ?」
「いいから。早く戻って」
「急に声がクリアになったな。テレパシーってこういうものなのか?」
「実際に近いんだから当たり前じゃない。バカじゃないの?」
「うわおぅっびっくりした!」
いつの間にか背後に楓と蒼雲、それに美波が立っていた。
「何だよ脅かすなよ……。っつかテレポートするなら最初っからそうしろよ」
「男なら細かい事をいつまでもグチグチ言わない。それより、早く戻りなさいよ。時間がもったいないでしょ!」
「戻れって、そしたらコイツの相手は誰がするんだよ?」
「バカね。だからあたしたちがこうして来たんじゃない。それくらいすぐ察しなさいよ」
言われてみれば、そうである。頭の中がいかに混沌と戦うかでいっぱいだったため、そこまで急に考えが及ばなかった。
「分かったよ。それじゃあ一旦ここは預ける」
「急いでよ。時間が無いんだから」
虎徹は楓たちに背を向け、急いで戻ろうとする。が、すぐに思いとどまってもう一度振り向く。
「無理すんなよ。すぐ戻る」
「さっさと行って。それともあたしたちだけじゃ、ここを任せられない?」
いたずらっぽくウィンクする楓。そう言われてしまうと、任せるしかない。虎徹は「しゃーねーな」と言い残し、振り向くと同時に全力で地面を蹴った。
ソニックブームを起こして走り去ったアペイロンを見送ると、楓は混沌を見上げる。
混沌はアペイロンが去ったのを見ると、後を追おうと動き出す。が、その顔面にナパーム弾が打ち込まれた。
「ちょっと、どこ行こうってのよ? こんなに可愛いJKが三人も居るってのに、男のお尻を追っかけようだなんて。もしかしてあんたホモ?」
爆煙が晴れた中から現れた混沌の顔は、あいも変わらず無傷で無表情だった。だが注意は完全にこちらに向いている。足止め役の第一手としては、まずまずの滑り出しだ。
「さて、あのバカが戻るまで踏ん張りますか」
「しかし、拙者たちの攻撃もとっくに通じない今、どうしたものでござるかな……」
特に蒼雲は、スズキの大剣に大天狗鬼一を融合させたのでほぼ丸腰である。苦無や手裏剣など武器になるものもあるにはあるが、刀に比べたらあまりにも心許ない。
「大丈夫。あたしに考えがあるの」
「おお、策があるでござるか」
「大アリよ。銃なんて、特に新しいものほど中身は細かいパーツの集合体なんだから、そのどれかに不具合があれば簡単に動作不良を起こしちゃうの。だから美波の念動力で、そうね、撃針か撃鉄あたりのバネでも飛ばせば、もうアイツの武器は役立たず。まずはあいつの攻撃力を奪うって寸法よ」
「なるほど。さすが楓殿でござる」
我ながら名案だと思う作戦を得意満面で語る楓だが、純粋に感心しているのは蒼雲だけで、美波は元からの無表情にさらに磨きがかかった無表情だった。
「さ、美波。思いっきりやっちゃって!」
びしっと楓が混沌を指差すと、蒼雲も「ィヤッホー!」とテンション高く拳を振り上げて叫ぶ。
が、美波はほんの少し困ったように眉を下げ、やはり小さな声で呟く。
「あの銃に、撃針とか撃鉄は、存在しない。中は空洞」
「……え? じゃあどうやって弾が出てるのよ?」
「因果律を操作」
「何よそれ! 全部の過程をすっ飛ばして、弾が出たっていう事象だけ構築してるってわけ!?」
美波はこく、と小さく頷く。
「卑怯よーーーーーーーーー!!」
理不尽渦巻く戦場に、魔法少女の絶叫が響いた。
約四百メートルの距離を一秒で駆け抜け、戻ってきた虎徹が見たものは、
「よう、やっと来たな。待ちくたびれたぜ……」
元の大きさから、さらに倍くらいの大きさになった大剣に手を挟まれたスズキの姿だった。
スズキの手は大剣の柄を握ったまま、地面にめり込んでいる。
「おいおい、問題発生って言うから飛んで戻って来たのに、なに遊んでんだよオッサン」
「これが遊んでいるように見えるんなら、お前は目と頭の両方がおかしい」
笑顔で歯を食いしばって怒るという器用なことするスズキ。だが遊んでいないのならば、何をしているのだろう。
「問題っていうのはね、重さよ。重さ」
「重さ?」
魔王に言われて、虎徹は改めて大剣を見る。見かけもずいぶんと変わったし、たしかに前より重そうだ。だが自分には遠く及ばないが、スズキもかなり力が強い。これくらいなら持てそうな気がしないでもない。
「たしか、みんなの属性を集めてただけだよな? 何で重くなるんだ?」
「それがねえ、属性を重複させるたびに、副作用で重量がとんでもなく増えちゃったのよ」
「何だよその副作用って……薬じゃあるまいし」
「だから言ったじゃない。平行世界のどこかにある属性を付与済みの剣を探してきて、こっちの世界にコピペするから、回を重ねるごとに二倍三倍と累積されるわよって」
「言ってねーよ!」
スズキがネズミ捕りにかかったネズミみたいな体勢のまま、ツッコミを入れる。
「それで、具体的にどれくらいの重さになったんだよ?」
「そうね……ざっと一億トンってところかしら」
「いっ……ちおくぅ!?」
さすがにドン引きする。一億。一を置くのとはわけが違う上に、単位がトンとは景気のいい話だ。
「あ、でも0.1ギガトンって言ったら、ちょっと軽そうに聞こえない?」
「ホントだ。小数点だとすげえ軽そう」
「いや、それ言葉のマジックだから! 単位変えただけで本質は変わってないから!」
明日も更新します。
あと3回。




