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「すげぇな……宇宙戦艦級、いや、それ以上だ」


 いち早く閃光によって眩んだ目から回復した虎徹が、魔王の撃った光線の成果をそう評する。


 だが宇宙戦艦の主砲だって、こんなに短時間では発射できない。魔法にしたって、呪文の詠唱無しでは威力や効果は半減する。なのにこの威力。これだけで、魔王の力がどれくらいのものか判断するには十分過ぎる一撃だった。


 頭部を根こそぎ失った大トカゲは、しばらくは校舎にしがみついていたが、やがてぐらりと体勢を崩すとそのまま地面に落下した。


 ずん、と音がして、地面が揺れる。


「桜花のビームでさえ、竜に傷をつけただけだったのに。とんでもない威力ね」


「出力ノケタガ違イマス。アレダト、あぺいろんノ装甲スラ抜ケルカモシレマセンヨ」


「マジかよ?」


 宇宙戦艦の主砲くらいなら何度も食らっていたが、アペイロンの無敵の装甲を傷つけることは無かった。その装甲を抜けるとなると、とんでもない出力だ。


「しかしまあ、一撃とは味気ないわね。魔力がもったいないとは言ったけど、これじゃああまりにも物足りないわ」


「いや、残念だがどれだけ魔力を消費しても無駄っぽいぜ」


 虎徹がわざとらしく、手で双眼鏡を覗くフリをする。


 彼には見えていた。たった今魔王がふっ飛ばした大トカゲの頭が、もの凄い速度で再生しているのが。つまり、魔王もまた該当者ではなかったということだ。


 それを伝えると、魔王は「あら残念」と、別段残念でもなさそうにすんなりと引き下がった。


「ずいぶん淡白だな。もっと悔しがるかと思ってたよ」


 思ったよりもあっさり退いた魔王に、虎徹が意外そうに言うが、彼女は悔しがるどころか逆ににこりと笑う。


「だって、世界を救うのは勇者の仕事でしょ? 人の仕事を盗るほどあたしはヒマじゃないし、野暮でもないわ」


「何だか嬉しそうだな」


「だって、これであの混沌を倒せるのがウチの人だけって決まったんでしょ?」


「まあ、そういうことになるのかな?」


「だったらもうすべて終わったも同然よ。あの人が来たら、混沌なんてあっという間にこの世から消えて無くなっちゃうんだから」


 我がことのように誇らしげに語る魔王に、虎徹は彼女がどれだけスズキを信頼しているのかを感じる。


「そんなに強いのか、あのオッサン」


「強いなんてモンじゃないわよ。坊やじゃ足元にも及ばないわね」


 挑発するかのような魔王の笑みに、虎徹の好奇心がむくむく膨らむ。


「そんなにか」


 思わぬ強者の存在に、アペイロンの虎面が牙を剥き出しにして笑う。宇宙最強を自称する虎徹が、これまで倒した戦艦や賞金稼ぎは数知れず。だが勇者と戦ったことはまだない。これは血が騒ぐというものだ。


「ええ。だって大魔王に勝ったくらいだもの」


「ん? え……?」


「だから、大魔王。あたしのパパ」


「……あんた、魔王だよな」


「そうよ。パパが彼に負けたショックで引退しちゃったから、あたしが引き継いだの」


「ん~……、オッサンが戦ったのが大魔王で、あんたの父ちゃんで、え~と」


 ちょっと話がややこしくなってきたので、虎徹の脳ミソでは処理に若干時間がかかる。


「ちなみに、あんたの父ちゃんってあんたより強いのか?」


「当たり前でしょ、大魔王なんだから。文字どおり大人と子供くらい差があるわよ」


「マジか……」


 あれだけの光線を予備動作も呪文も無しに放つ魔王が子供扱いとは、大魔王とはいったいどれくらい強いのだろう。


 そして、それを打ち負かしたスズキとは。ますます虎徹の興味は強まるばかりである。


「なあ、その大魔王って――」


「来たわ」


 魔王が虎徹の言葉を遮ると、彼女の目の前に完全武装のスズキが瞬間移動で現れた。


「待たせたな」


 スズキは曇天の中でもサファイヤブルーに輝く全身板金鎧フルプレートアーマーを纏っていた。兜も同様の素材で、目や鼻の部分以外を覆うため、特徴的な金色の瞳が見えなければ誰なのか分からない。


 そして何より一番目につくのが、右手に持った大剣だ。スズキの身長の倍以上あり、厚みも大人の拳一つ分は軽くある。見るからに重そうで、とても人が振れるものとは思えないが、スズキは涼しい顔で片手で持っている。


 そもそも勇者の持つ剣と言えば、神々しい雰囲気が漂う伝説の聖剣と相場が決まっているものだが、スズキの手にはどう見てもそう見えない、むしろ禍々しい形状でどちらかと言えば魔剣と呼んだほうが相応しいものがぶら下がっている。


 それは剣と言うよりは巨大な鋸と言ったほうが正確で、無数の太い刃が乱雑にとび出た切っ先は、獲物の肉を斬るのではなくズタズタに引き裂くのが目的に思える。それでなくとも、こんな巨大な鉄板でぶっ叩かれたら、きっと象だって千切れる。


 こんな過剰殺傷武器が勇者の武具とはとても思えない。鎧や兜が伝統的な西洋甲冑で勇者っぽいだけに、剣の不似合いさ加減がさらに強調されていた。


「その様子じゃ、魔王でも駄目だったようだな」


「見たら分かるだろ」


 虎徹たちの表情を見るまでもなく、今や完全に頭が再生した大トカゲが、元気に活動を再開していた。


「ふふん、ということは俺が大取おおとりってことだな。参ったね、真打はいつも最後に登場するって言うが、図らずとも俺がそうなってしまうのは、持って生まれたカリスマって奴かねえ」


「……いい年ぶっこいて中学生みたいなこと言ってねえで、さっさとやれよ。世界が終わっちまうぞ」


「ハハッ、ヒーローになり損ねたからってぼやくなぼやくな。所詮俺とお前とじゃ、器の大きさが違いすぎたんだよ」


「うるせぇ。悪役みてえな剣持ちやがって、何が器の大きさだよ。デカいのは剣だけだろ」


 勇者の武器にしては凶悪過ぎる形状の剣に虎徹がツッコミを入れると、スズキは「ああ、これか」と顔の前に持ち上げる。


「たしかにコイツは悪役っつうか、大魔王の剣だからな。俺にはちょいとデカ過ぎる」


 まあ振れなくはないが、とスズキは竹刀を振るように二三度軽く素振りをする。


「大魔王のかよ! っていうか、何であんたがそんなの持ってるんだよ。自分のはどうした?」


「俺の伝説の聖剣は、大魔王の心臓に刺さったまんまだからな。その代わりと言っちゃあなんだが、コイツを持ってきた」


「え? なに? どういうコト?」


 またもや話が虎徹の理解の範疇を超える。いや、今回はきっと彼以外の面々も理解できていないだろう。


「つまりね、最後の決戦のとき、彼がパパの心臓を聖剣で突き刺したの。それで決着が着いて一応パパの負けってことになったんだけど、ずっと刺さったまんまだから、調子が悪くなって引退しちゃったのよ」


 大魔王を殺すには至らなかったが、心臓に刺さった聖剣が魔力を封印しているのだそうな。


「心臓に聖剣が刺さりっぱなしの大魔王かよ。そりゃ引退もするわ……」


「大変だったんだぞ。何せ相手は大魔王だからな。身長五メートルでムキムキマッチョな上に、破壊力のある上位魔法をバリバリ使ってきやがる。正直、殺さずに魔力を封印して無力化できたのはラッキーだった」


 久々に勇者スタイルに戻ってテンションが上がっているのか、いつになく饒舌なスズキ。楽しそうに「ま、昔話は後でゆっくり聞かせてやるよ」と一度唇を舐めると、大剣を軽々と肩に担ぐ。


「それじゃ、ちゃっちゃと終わらせるか」


 肩に担いでいた大剣を大トカゲに向けて構える。あれだけ自信満々の彼がひとたび動き出せば、すぐにでも決着がついてしまうのでは、という期待に一同の緊張が高まる。


 だが構えから一歩踏み出す前に、スズキが異変に気づいた。


「おい、やっこさんの様子がおかしいぞ」


「何?」


 言われて虎徹が見てみると、大トカゲの身体がもの凄い早さで粉を吹いたように白い砂像に変わっていく。


「ゲ、もう次の段階に進化しやがるのか?」


「もう? さっき変わったばっかりじゃない。早すぎるわ」


「ンなこと俺に言われてもわかんねーよ」


 虎徹と楓が言い争っている間にも、大トカゲは幼虫が蛹になるように、その身を白く硬く変えていく。


 あれだけの巨体が完全に塩の塊みたいになるのに、ものの一分も経たなかった。それだけ迅速に進化する必要性があったのか。それとも三度目ともなると慣れたのか。


「ねえ、もしかして攻撃が混沌の進化の引き金になってるんじゃない?」


 これまでのパターンから、魔王がそう予想を立てる。


「何だと……それじゃあ攻撃できないじゃないか」

明日も更新します。

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