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「ええ……どうして? スズキさんと魔王が知り合いってどういうこと?」
楓の疑問も当然である。ワームホールから出てきた異世界の魔王と、内閣直属の国家公務員のスズキ。この接点の無さそうな二人の接点に、虎徹は思い当たるフシが一つだけあった。
そして今、その彼の中だけの仮説が確信に変わった。
「オッサン、あんたも特異点だったんだな」
虎徹の発言に、教室がざわめく。とはいえ、衝撃を受けたのは楓と蒼雲だけであった。
「ワタシハ最初カラ知ッテマシタシ」
「……私も」
「なんだよ、けっこうみんな知ってたんだな……。俺だけかと思ってたよ」
桜花と美波に申し訳なさそうにされ、得意げに語った虎徹は逆に恥ずかしくなった。
「あたしは知らなかったわよ……。なにそのビッグニュース?」
「拙者も初耳と言うか、想像すらしてなかったでござるよ」
何かにつけて馬鹿だ馬鹿だと言ってくる楓を出し抜いたのは気分がいいが、今は安い優越感に浸っている場合ではない。
「どこで気がついた?」
スズキの問いに、虎徹はにやりと笑う。
「引っかかりを覚えたのは、結構前からだ。あんたは何度も自分で言ってたんだぜ? 『この島に部外者を入れるわけにはいかない』って」
引越しの荷物でさえ、自衛隊を使って運ばせるほどだ。それだけ神経質になって部外者を排除する理由は、この島に来てすぐに理解できた。ワームホールだ。
「だけど、危険だから規制するんなら、普通『民間人』って言い方をするだろ。だがあんたが使ったのは『部外者』だ。『民間人』を規制するだけなら極端な話、この島に自衛隊を配備すりゃ済む。しかし『部外者』となると意味が変わってくる。そこで考えられるのが、あんたも俺達と『同類』って可能性だ」
「つまり、特異点……」
楓の呟きに、虎徹は「そう」と得意げに頷く。
「あんたも特異点と考えると、話は実に単純明快になる。だってそうだろ? この島に居るのは、どいつもこいつも特異点だ。ワームホールから何が現れて、何が起ころうと構いやしない。何せそのための島だからな」
不可思議な天変地異を引き起こす元凶である特異点を一箇所に集め、本土への被害を最小限に抑えるのが「第二次方舟島計画」の目的である。
「――ってのが俺の推理だ。できればあんたの口から詳しい説明を聞きたいんだが、もういい加減話しちゃくれねえかな?」
沈黙するスズキに、皆の視線が集まる。
教室の壁にかかった時計の秒針の音が響くほどの静寂の中、長い沈黙の末にようやくスズキが重い口を開いた。
「どっから話せばいいものやら……」
ことの起こりは十年前。
とある少年が異世界に召喚されたことにより、この世界に初めて特異点が現れたのがきっかけだった。
「この『とある少年』ってのが俺な」
スズキの注釈に、みんなが今さらという顔で口を揃え、「知ってる」と言った。
異世界に召喚されたスズキ少年は、何やかんやあったものの一年ほどで元の世界に帰ってきた。ここまでは楓や美波と同じような話である。
だが問題なのは、スズキ少年が元の世界に帰ることを望まない存在があったことだ。
しかもそれが、世界の因果を操るほどの魔力を持った、魔王だったというのがこれまた困った話である。
「どうして彼女は、スズキさんが元の世界に帰るのに反対だったの?」
「それは……」
慌ててはぐらかそうとしたスズキの言葉を、魔王が遮って答える。
「それはね、あたしとこの人がラブラブだったからよ」
予想もしなかった甘酸っぱい答えに、虎徹が冷やかすように口笛を吹き、楓と蒼雲はそろって黄色い声を上げた。
「なんと!」
「え~? 魔王とラブラブってどういうこと? え~? きゃー!」
「うるさい、キャーキャー喚くな!」
色めき立つ女子たちを一喝するスズキ。楓のブーイングは無視だ。
「でも、結局元の世界に帰っちゃったのよねえ……。あのときは本当に悲しくて、何日も泣いて過ごしたわ」
スズキ少年が元の世界に帰るのは、異世界が異物を排除しようとする力――免疫反応によるものである。これにはさしもの魔王も勝てず、スズキ少年は無事元の世界に帰ることができた。
しかし魔王は諦めなかった。
なんと、十年かけてスズキを追いかけてきたのである。
「なんで十年もかかったの? 魔王クラスの魔力なら、異世界からこっちに来ることなんて簡単なんじゃない?」
同じ魔法系の属性を持つ楓の質問に、魔王は小馬鹿にするような顔で不正解を言い渡す。
「逆よ、逆よ。魔力が大き過ぎて、世界の網を抜けられなかったの」
「世界の網?」
「世界と世界の境界って実は小さい穴がいっぱい開いてるのよ。まあ網の目だと思えば、わかりやすいわね。お嬢ちゃんみたいな魔力の小さい雑魚は、その穴を通ってホイホイ移動できるけど、あたしみたいな規格外の魔力を持つ魔王様ともなれば、網の目に引っかかって簡単には通れないのよ」
「その顔、腹立つわね……」
さりげない悪口と自慢に、楓が顔をしかめる。自分ではけっこうな魔力を持っていると自負していたようだが、相手が魔王となると勝負にならない。
「さすがにね、あたしの魔力をもってしても、世界の警戒網をくぐり抜けることはできなかったわ。って言うかこの魔力のせいで世界に拒絶されてたんだから本末転倒よね~」
膨大な魔力を持つ彼女が侵入してきたら、世界が壮絶な拒絶反応を起こしてしまう。なのでそうならないように、世界は自ら警戒網を敷いているのだ。防犯装置のようなものである。
そこで彼女はスズキの居る世界に行くことを一時保留にし、まずは世界の警戒網をこじ開けることに専念した。
「将を射んと欲すればまず馬を射よ。急がば回れってやつね」
「異世界の奴がこっちの諺とか故事を流暢にしゃべるなよ……」
正攻法を避け、搦め手で攻めることにしたものの、それでも世界の壁は厚かった。何しろ魔力にものを言わせれば、途端に拒絶されるのだ。かと言って弱い魔力で使える魔法などたかが知れていて、とても世界の壁を崩せるとは思えなかった。
「で、あたしが目をつけたのが、貴方たち特異点よ」
「あたしたち?」
「そう。特異点が存在すると、世界は均衡を保とうと力を使う。つまり、自浄作用を誘発することによって、世界の注意を逸らしつつ力を削ぐことができるの。そこに気づいたあたしは、過去に遡って因果律を操作し、あなたたち特異点を五つ作ったの」
「ってことは、あんたが俺たちを特異点にしたってのか?」
「そうよ。だって、よく考えてみなさいよ。世界に特異点が生まれることなんて、すごく稀なことなのよ。それが五人同時だなんて、おかしいと思わない方がどうかしてるわよ」
言われるまでもなく、虎徹たち特異点が五人も同時期に存在することは、スズキも疑問を抱いていた。だがそれを画策したのが魔王で、その意図がこちらの世界に闖入することだというところまでは、ついぞ気づくことはできなかった。逆に言えば、それくらい回り道をして手の込んだ仕掛けを駆使しないと、彼女がこの世界に来れないということなのだが。
「そしてそれぞれの特異点に五大元素の一つを絡め、一つの術式にすることでこの世界の網をぶち破って来たってわけだ」
「さすがダーリン、察しがいいわね」
「いや、気づいたのはついさっきだよ。まさかお前がこんな反則技を使ってくるとは思わなかったんでな」
あからさまなスズキの皮肉にも、魔王は顔色一つ変えない。むしろそれがどうした、というような顔をする。
「貴方が居なくなるとき、言ったはずよ。『どんな手を使っても追いかける』って」
これまでの無駄に明るいノリから一転し、魔王と呼ばれるに相応しい冷たく鋭い視線。
「お前の最後の言葉だ。忘れちゃいないさ。けどな、本音を言えば、お前に来て欲しくはなかったよ……」
魔眼とも言える視線を真っ向から受け止めるスズキであったが、その表情には怒りよりも哀しみが多く含まれていた。
「俺には、この世界や誰かを犠牲にしてまで、お前と再開する勇気はなかったからな」
彼女が来たせいで、世界は滅びる。世界が魔王という巨大な魔力を持った異物の侵入に、耐えられないからだ。
だから魔王が十年かけて準備したように、スズキもまた十年かけて準備してきたのだ。
魔王が、彼女がこの世界にやって来ないように。
もし彼女が来てしまっても、誰も犠牲にならないように。
明日も更新します。




