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「おいおい、まさか知り合いにそんな厄介なのがいるのか?」


 続いて左手が顔を出し、二本の手でワームホールの両端を掴む。


「不本意ながらいるんだよ、コレが。しかも職業柄、世界の破滅や人類滅亡を望んでいる、お前らもよ~く知ってる有名な奴が」


「そいつは迷惑な奴だな……。友達は選んだほうがいいぞ」


 か細い腕が、ワームホールをこじ開けようと力を込める。


「友達っつうか、腐れ縁っつうか……。俺だって選べたなら苦労しねえよ」


 とても力がありそうに見えない細腕が、カーテンを開くようにあっさりとワームホールをこじ開けた。


「……で、そのはた迷惑な奴は一体誰だよ?」


 ちょうど人が通過できるほど開いた暗黒の穴から、ゆっくりと誰かがこちらにやって来る。出てきたのは、ワームホールよりもなお黒い漆黒の長衣ローブをまとった、妖艶な美女だった。穴の中と外の明るさの違いに、金色の瞳に縦に刻まれた瞳孔が一瞬縮む。


「ここが……地球…………」


 呟く声もまた、見た目に劣らぬ艶がある。


「決まってるだろ。世界や人類の敵と言えば――」


 ようやくその全貌を明らかにした女性に向けて、スズキは苦笑しながら言った。


「魔王しかいねえだろ」



「あれが魔王だと……?」


 虎徹の虎面が器用に眉をひそめる。目の前にいるのは、瞳以外はどう見ても上流階級の淑女といった感じの佳人だ。実際にワームホールから出て来るのを見ていても、魔王というふうには見えない。


「見た目に騙されるなよ。特に女にはな」


「なんか苦い経験がありそうだな」


「お前も大人になれば解るよ。女ってのは、生まれたときから男を騙す詐欺師みたいなもんだってな」


「……酷い偏見ね」


 楓の虫でも見るような視線が痛い。


 一方、黒衣の女性は「ん~~~~」と大きく伸びをしたり、肩や首をぐりぐり回して身体をほぐしている。


 ワームホールはいつの間にか消えていた。なのに空は未だ暗雲立ち込めている。まだ何も終わっていないどころか、これからがようやく始まりと言わんばかりだ。


「けど魔王って言うなら、あいつがラスボスってことだよな?」


「まあ、ゲームとかならそういうお約束よね」


 すでに変身が完了しているため、虎徹と楓は臨戦態勢だ。楓など、いつの間にか魔法のステッキまで構えている。さすがバーチャル世代と言うか、特異点ならではの慣れと言うか、二人の順応の早さは並ではない。だが単細胞の虎徹はともかく、楓も彼と同レベルだと心配になる。


 じりじりとすり足で、虎徹と楓は魔王との間合いを計る。相手が女性とはいえ魔王ともなると、さすがの虎徹も迂闊に飛び込めない。楓もまた、強大な魔力を感じているのか攻めあぐねていた。魔法のステッキの引きトリガーにかけられた指が、金縛りにかかったようにぴくりともしない。


「いやいやいや、待て待て待て」


 一触即発の気配をブチ壊すスズキの声に、二人の緊張感が一瞬で削がれた。虎徹はずっこけ、楓は驚きのあまり、人差し指が勢いよくぴんと伸びる。


「ンだよオッサン。変な声出すなよ!」


「そうよ、危ないじゃない!」


「いや、スマン。……ってそうじゃなくて、お前ら勝手に盛り上がって先走るな。まだあいつがラスボスだと決まったわけじゃないんだぞ」


「何でだよ? あんたも見ただろ、あいつが特殊なワームホールから出てきたのを。しかも自分で広げて。ありゃ絶対ヤバい奴だって」


「いや、まあ、それはそうなんだが……」


 珍しく虎徹が正論を吐き、何故か口ごもるスズキ。よほど言いたくないことでもあるのか、それともやましいことでもあるのか。そうこうしていると、


「お?」


「どうした虎徹?」


「いや、なんか魔王がこっちにすげぇ勢いで走って来るんだけど」


 見ると、魔王が長衣の裾を両手でたくし上げ、全力疾走でこちらにダッシュしている。


「なにあの人? 速い……」と楓も少し引く。


「おいおい、ピンヒールだぞあいつ。あんなのでよく思い切り走れるな」


「女ってのはどうしてああ、見た目だけの鬱陶しいモンを嬉しがって履くのかねえ」


 スズキが眉をしかめて吐き捨てるように言うと、


「まったく男って無粋な生き物ね……。女のおしゃれゴコロが分からないなんて、死ねばいいのに」


 生きる価値無し、と言わんばかりに盛大なため息をつき、楓は男二人に冷たい視線を送る。その辛辣なひと言に、スズキと虎徹が「ひでぇっ!」と注意がそれる。


「相変わらず楓殿は容赦が無いでござるな……」


 と、蒼雲がしみじみと言葉を漏らしている間に、


「とうっ」


 魔王は軽い掛け声とともに、走り幅跳びの要領で地面を蹴って宙へと舞った。


「とう?」


 奇妙な一声に、スズキが魔王へ視線を戻したときにはすでに遅かった。魔王の華麗な飛び蹴りが、彼の側頭部に食い込む。しかも捻りが入って威力が倍加されたピンヒールの踵がだ。常人なら頭蓋骨に穴が開き、即死していてもおかしくない。


 エネルギーを一点に収束した殺人級の飛び蹴りを受け、スズキが「どぅふぅあっ!」と意味不明な悲鳴を上げながら盛大に吹っ飛んだ。


「うおっ! いきなり攻撃してきやがった!」


 やはり敵か。虎徹や楓たちが身構える中、魔王はスズキを蹴った反動で見事な後方宙返りを空中で見せ、これまた文句のない着地を決める。


「あ~スッキリした」


 魔王は言葉どおり、いい仕事をした後みたいなスッキリした顔をしている。気配に殺気や闘気など微塵も無く、むしろ爽快感すら感じられた。


「さ、帰ろっと」


「へ?」


 唐突な展開に呆然とした一同を尻目に、魔王はカツカツとヒールを鳴らし、つい今しがた自分が蹴っ飛ばしたスズキへと歩いて行く。


 そして地面にうつ伏せになってのびているスズキのそばにしゃがみ込むと、乱暴に髪の毛をぐいと掴み、そのままずるずると引きずってワームホールが消えた辺りに向かって歩き出した。


 数秒ほど人形みたいに引きずられるスズキを見送っていた虎徹だったが、ふと正気に戻り、


「おいおいおいおい。そこのおばさん、ちょっと待てよ。そいつをどこに連れて行こうってんだ?」


 慌てて大声で魔王を呼び止めた。


「あ?」


 歩みを止め、こちらを振り向く魔王。呼び止めるという目的を達成したものの、どうやら何かが気に入らないらしく、とてもご立腹のようだ。眉間にすごい皺が入ってマスクメロンみたいだし、魔力が身体のあちこちから漏れ出してスパークしている。楓はその理由が分かっているのか、「あちゃ~」と小さく呟きながら、片手で顔を覆っている。


「おい、あのおばさん何でキレてんだよ?」


 わけが分からず楓に訊ねても、彼女は我関せずというか、「馬鹿、こっちに振らないでよ」とあからさまに他人を装っている。


「虎徹殿、女性に面と向かっておばさん呼ばわりは失礼でござるよ」


 巻き添えを恐れた楓に代わり、蒼雲が虎徹にそっと耳打ちするも、


「でもよ、『おねえさん』って歳でもなさそうだし、初対面で『魔王』って呼ぶのもなんか違うだろ? 一応俺なりに空気を読んだつもりなんだがなあ」


「……空気の読める人間は、そういうことを大きな声で言わないものでござる」


「そうか? でも見え透いたお世辞を言うのは反って失礼じゃねえか。おばさんにはちゃんとおばさんって言ってやったほうが、親切だと思うぜ?」


「それはそうでござるが、女性は誰でも自分を若く保ちたいと願い、保っていると信じたいものでござるよ。たとえそれが客観的に見て失敗していても、そこを敢えて見て見ぬフリをしてやるのが、男の優しさ、ひいては人の心というものでござろう」


「人の心って、お前妖怪じゃねえか」


「……なるほど、一理あるでござる」


「それに、あいつも魔王だし、人の心とやらは気にしなくていいだろ」


「たしかに、虎徹殿にしては正論でござるな」


「だろ?」


 漫才のような二人の掛け合いは、魔王の怒りを鎮めるどころか火に大量の油を注いでいた。


「あなたたち、どうやら命がいらないようね……」


 魔王はもはや完全に激怒していて、漏れ出る魔力が周りの景色を歪めている。もしガスと同じように引火したら、辺り一帯は爆弾が落ちたみたいに消し飛んでしまうだろう。


「おっと、おばさんが本気になったようだ。お前ら、気をつけろよ」

明日も更新します。

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