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「だったらまとめて相手にできて楽だが、果たしてそう都合よくいくかどうか……」


「来る……」


 美波の声と同時に、空に開いた穴から何かがこぼれ落ちた。


 何か――そうとしか形容できない物体は、ゆっくりと、だがそれは遠距離だからそう見えるだけで、実際はもの凄い速度で上空から校庭に向けて落下してきた。


 この時点で誰も、超望遠レンズなみの視力を持つ虎徹でさえも、それが何なのか分からなかった。はっきり見えているのにそれなのだから、普通の視力しか持たない楓や蒼雲など、黒い塊がぼとっと落ちてくるようにしか見えなかった。


「ねえ、何が出てきたの?」


「いや、何って言われても…………」


「ハッキリ言いなさいよ!」


「ハッキリもナニも、う~む……」


 虎徹が言葉を探している間に、それは校庭に落下した。轟音と衝撃で、相当の重量が着地したと分かる。竜の落下に耐えた校庭も、今度ばかりは無残に崩壊した。


「もう、あんたがグズグズしてるから落ちて来ちゃったじゃない!」


 追い打ちの罵声を残し、楓は謎の物体が落下した校庭側のフェンスへと駆ける。スズキや蒼雲たちも彼女に続いた。


「あれを言葉にできたら、俺は小説家になれるぜ……」


 実際、あれは言葉で説明できるものではなかった。ならば自分の目で確かめるのが一番早いだろう。みんながどういう反応をするのか楽しみにしつつ、虎徹も仲間の元へと向かった。



 虎徹が予想していたとおり、皆の反応は芳しくなかった。見ているものを言語化するのに、持てる語彙の中からそれに見合ったものが見つからない。それも当然のことで、誰も見たことがないものは、形容しようがない。


「なに……この……なに?」


 ある意味一番的確な表現をしたのは楓だった。本当に「なにこれ」としか言いようのない巨大な物体が、校庭にめり込んでいる。落下の衝撃が激しかったせいか、ぴくりとも動かない。


「部分的ニハ私ノ知ル、石巨人ゴーレムノヨウデスネ」


 そう評したのは桜花だった。たしかに言われてみれば、部分的に石でできた巨人っぽい。手足らしきものが見える。


「あそこは見覚えがあるな。たしか連邦宇宙軍ユニオンの宇宙戦艦にあんなのがあったような気がする」


 虎徹が指さした箇所は、何となく宇宙戦艦っぽい気がした。メカっぽい装甲とか衝角ラムとかあるし。


「わたしも……あれ、ボガスバガルに似てる気がする」


 美波が控えめに小さな手で指をさす。


 そこには、毒々しい黒ずんだ紫色をしたゲル状の塊があった。


「……え? なに?」


「だから、ボガスバガル」


 思わず楓が訊き返すが、二度聞いても分からないものは分からなかった。もちろん美波以外の全員だ。


「そのボガス……何?」


「ボガスバガル」


「そう、ボガスバガルってなに?」


「ボガスバガルはボガスバガル。他に説明しようがない」


「そう……。じゃあせめて特徴とかあったら教えてくれるとありがたいな」


 美波は数秒考える。


「見たら死ぬ系」


「そういう大事なことはもっと早く言いなさいよ!」


「大丈夫。ゲル状になってるのは死んだボガスバガル。死んだボガスバガルは見ても平気。意外と珍味」


「あれを食うのかよ……」


「うえぇ……、これだから異次元人は……」


 ボガスバガル(食材)は、異世界でファンタジー丸出しな生活をしてきた楓や、他の惑星で異文化交流をしてきた虎徹でさえ引くくらいのビジュアルだった。これを食えと言われたら、さすがに彼らでも泣いて許しを請うかもしれない。


「つまり話を総合すると、今回は虎徹と桜花と美波のワームホールが一つにまとまって出てきたってことか」


 話がボガスバガルに移ってしまったので、やや強引にだがスズキがまとめる。


 しかしながら、やたら大きいワームホールが出てきたと思ったら、どうやら本当に三つ分だったようだ。しかも中身がシェイクされて一つになり、幸か不幸か合体に失敗して死んでたりする。不戦勝っぽくて肩透かしもいいところで、喜んでいいのか微妙なところだ。教室であれだけ士気を高め、階段を駆け登ってきたのは何だったんだろう。


「……とにかく、下に降りてよく調べてみるか」


「そうね。このままこうしてても埒が明かないし」


 虎徹の気のない提案に、気のない賛同をする楓。行き場のないやるせなさを持て余しつつ、一同は再び校舎の中に戻った。今度は誰も走らなかった。



 学校行事の避難訓練なみにだらだらと屋上から降りてきた一行は、改めてついさっきワームホールから落ちてきた物体を眺めた。


 近くで見ると、それぞれの繋ぎ目が生々しい。冗談抜きで、無理やり合成してあった。宇宙戦艦と石巨人が融合している部分はまだいいが、ボガスバガルのゲル状の体組織が融合した箇所は、金属だろうと岩石だろうとお構いなしに腐食している。


 ひと通り調べてみるが、やはり三体とも活動を停止していた。蒼雲と美波、スズキは一度離れるが、虎徹と楓は調査を続行する。


「案外、コイツが原因で他の二つが死んだんじゃねえのか?」


 常人よりも鼻の利く虎徹は、合金の溶ける臭気に顔をしかめる。宇宙戦艦の装甲を腐食させるとは、さすが見たら死ぬ系の毒素。異次元上がりは伊達じゃない。


「そう考えるのが妥当なんだけど、だとしたら腑に落ちないことがあるのよね」


 ハンカチで鼻と口を押さえながら、楓が石巨人の指を覗き込む。


「三位一体となってより強力になるのならまだしも、誤って毒を混ぜて全滅とは間抜けというか、笑い話にもならねえな」


「本当に間違えてこうなったのかしら?」


「と言うと?」と虎徹。


「ワームホールが意味もなく三つ同時に出現して、しかも結果的に失敗するってことあるかしら?」


「橘は、これが偶然ではないって思うのか?」


「……断言できないけど、何か別の恣意的なものを感じる。……あくまでわたしの勘だけどね」


「恣意的って、何かの意志が働いてるってことかよ?」


「だから、勘だって言ってるじゃない。理由とか理屈とか、そういうのは全然分からないわよ」


 女の勘――しかも魔法少女の勘である。下手な占いよりよほど当たりそうだ。離れた場所で二人の会話を聞いていたスズキも、これで終わりだとは到底思えなかった。あまりにも呆気なさ過ぎる。


 ワームホールに関わって十年。この中では誰よりも熟知しているスズキだからこそ、理屈よりも経験によって感じるものがある。このまま何も起きないはずがない、と。


「ああ、これで終わるはずがない」


 言葉にして口に出してみると、ますます実感が湧く。予感が確信に変わる。男の勘だって当たるときは当たる。


 だったら何が起こる。予兆はあったか。何か見落としてはいないだろうか。


 もし仮に楓の勘が当たっているとして、その“恣意的なこと”をするのは一体誰だろう。


 ワームホールを操作し、この世界に異物を召喚して何のメリットがあるというのか。


 誰が、どうして、どうやって。まるでミステリー小説だ。小説ならばこれまでに散りばめられた伏線があるはずだが、生憎とこれは小説じゃない。親切にヒントが置かれてあるという保証はない。


 だが『伏線』という言葉に、スズキは引っかかるものを覚える。もしや、この頻出するワームホール自体が、何かの伏線だとしたら。ワームホールがメインではなく、ただの前振りだとしたら。


 そこまで思考のピースが出揃ったとき、スズキの脳裏に閃くものがあった。


「ワームホールを使った術式だと……?」


 ただの思いつきが途端に現実味を帯び、スズキの背に戦慄が走る。


 ワームホールとは、特異点という異物が引き起こす世界の拒絶反応の産物――人体で言うと風邪の発熱や発疹みたいなものである。つまり、ワームホールが出現するたびに、世界は疲弊する。なのでワームホールを連続出現させて世界の抵抗力を削ぎ、弱ったところを一気に叩くというのは、戦術としても間違いじゃない。何より、スズキがこの世界に何かを仕掛けるとしたら、同じことをするだろう。


 つまり、これまでのことは、誰かの仕組んだ前哨戦。ただの下準備に過ぎなかったということか。


「お前ら、気を抜くな! まだ――」


 何かが起こる、そう言い切る前に、桜花が動いた。

明日も更新します。

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