姉の日々のススメ(仮)
こちらは、拙作「妹の忍耐のススメ」「兄の幸福のススメ」の反転話となります。(同様の自作パロとしては「弟の道理のススメ(仮)」があります)
設定が変換されたことでキャラの変更などが生じておりますが、それはそれで読んでもいいかなと思われる方のみお楽しみください。(ぺこり)
反転兄妹 姉と弟 「姉の日々のススメ(仮)」
私が私になったことを不思議に思ったことはない。
生まれた瞬間に感じたその違和感。
何を感じたかは判らぬままに喪ったものを恋うた。それが最初。
でも。
「ハンナちゃん? ハンナちゃん? どうしたの、怖いの? 哀しいの? 」
声を聞いた。
その人は疲れた声で不安に怯えながら、でもそれでも、確かに私を心配してくれた。
たった一人、不安定な生まれたばかりの私という存在をこの世に繋ぐ母として。
「赤ちゃんは大変だね。――あのね、お母さんもね、頑張るからね。…だから、ハンナちゃんも一緒に…お母さんたちと一緒に頑張ってほしいなあ」
もう少しだけ信じてほしいな。
名前も記憶もない、けれど恋しさだけが残る以前の場所への恋着がしみついていた当時の私は勘の強い赤子だった。泣いて泣いて過去世を恋うて常に哭いた。
眠りを欲する今の母の身体の疲労を気遣う心の余裕など当時の私にあるわけもない。
けれど。
夜に朝に昼に夢の間に泣く私の世話をする彼女に、慕う思いが生じるのも決して不自然なものではなかったのだ。
慣れない手つきで私に乳を与え、下の世話をし、沐浴を行う女性。
不安が生じればすぐに泣き叫ぶ私を抱えて、揺らした人。
信じないわけにはいかなかった。
生命の全てをゆだねる人を信じることなく、どうして私は生きられようか。
この世を否定して、食を断ち、死を呼びよせることは……たぶん出来た。
けれど、それだけはしまいと思ったのだ。
目の前で痛みと不安を抱え、それでも命を与えてくれたその母を。
慣れない母と子に安心を与えようと、幼子の脆さに怯えながら世話をする父を。
信じよう、と。
守ってもらうことでしか命を保てない身であるからこそ、絶対の信頼をあなたがたにゆだねようと思った。
そして、いつしか私は私になった。
確かに魂に滲むどこかの世界で生きた少女の記憶の欠片と、この世界で生まれて育ったハンナ・ジョインの心を織り合わせながら。
そして、私は彼に出会う。
――――弟として生まれる、やはり何かに囚われたままの彼に。
これは、平凡だけど幸せな姉が非凡だけどどこか偏った弟に秘密を明かすまでの記録である。
ハンナ・ジョイン 13歳 ラング・ジョイン 6歳
「ね、姉ちゃん! 俺、魔法の勉強したいんだ!」
「……ラングくん。―――どうしても魔法がいいの?」
「―――っっ!! う、う、ううううん! 魔法がいい!!」
「…お父さんの知り合いに魔法塾の先生がいるから。……お父さんとお母さんにもちゃんと自分でお願いするんだよ?」
「わかってるよ!」
目の前で真っ赤な顔した弟が、まだまだ世間的にはマイナーとされている魔法学の勉強をしたいと告げている。
これが一生懸命の幼児を演じてる姿だと思うと、心からこの弟は万能型すぎるなあと将来を心配した姉だった。ちらちらとこちらを見たり地面を見たりしている少年の俯いた顔の下では満足げな男の顔があるに違いない。
全くもって変わった弟くんだこと。
ハンナ・ジョイン 17歳 ラング・ジョイン 10歳 レイモン・グ・ル―プ 49歳
「あー。……お前の弟がそろそろ特上とれそうだわ。どうする、おい」
「レイモンさん、いつも弟がお世話になっています。そうですか、もう特上まで上り詰めそうですか。やはりあの子は反則的なまでの万能型ですね」
「なあハンナ。俺はお前の弟の不安定さも面倒くさいほど放置出来んレベルだと思ってるが、おまえのその凄まじいまでに安定した反則的な精神の在りようもどうかと思うぜ?」
「わたしはラングくんとは違う、ただの公立高校に通う一高校生です。間違えないでください。特別上級魔術師にして真王族が第三王子であるレイモン・グ・ループ=篭どの」
「おまえも真王族の系統適合体だと俺は睨んでるんだがね? ハンナ・ジョインどの?」
繭入りしてみね? 絶対おまえなら順応できるって。
疑わしそうな目で見られたうえに、真王族以外の出入りを禁じられている場所への同行を勧められてしまいました。
ぼさぼさ髭を生やした我が父の友人にして、我が敬愛する女性の従兄妹である魔王どのにはその多大にして迷惑な誤解をそうそうに解いて頂きたいものです。
私は真王族などという不明瞭にして面倒な立場の適性などはもってはいません。だってわたしは繭などという真王族の縄張り(聖域)には一切合財近寄ったことはありませんし近寄る気もありませんものあんなの魔法を通り越して面倒くさいオーパーツ兼洗脳スペースじゃないですか。
ハンナ・ジョイン 20歳 ラング・ジョイン 13歳 ミヨ・サ・レ―ブル=艶 42歳
「危険人物は監視させていただくわ。…これがわれわれ真王族の結論よ。ハンナ」
「―――ミヨ王女」
「あなたの弟はその能力こそは大きいけれども、抑制とすべき精神が不安定すぎる。――――最悪の場合は判っている筈よ。あなたがた家族も」
世界への責任を我らは担っているのだし、あなたがた一族はあの存在への責任を担わなくてはならない。
―――― 望むと望まなくとも。
「そのとおりです、王女殿下…………ですが、」
私は思うのです。
「………?」
何を?
不思議そうに聞いてきた彼女に答える。確信をこめて。
「――――――私の弟は、大丈夫だと」
宮廷の一室、弟が席を置いた研究所で忠言を貰った。
判っているのかいないのか。弟はこの場所で歩んでいるのだ、破滅への道を。
――――世界を滅ぼすことなど出来ないのよ、私の可愛い奇妙な弟くん。だって、この世界には人が生きてる。
生きようとしている人がいる限り、悼みはいつか癒されてしまうの。
痛みが残るの。
この魂の内側に。
――――過去の傷が時折ひきつれるような違和感。
誰かに名を呼ばれていた。
優しい声もあった。
怖ろしい声も、幼い声も、年老いた声も、みなみな全て私を呼んでいた。
けれど、わたしにはその名を思いだす術はない。
旧い記憶は無へと還った。
魂の壁に塗りこまれ。
感情の浪に沈んで、溶けたのだ。
違和感だけを残して。
『いいかげんにこっちを見ろ』
『そんなため息吐いて、黙って遠いところを見つめてるだけの奴なんか、誰が相手してやるもんか』
『あたしらだってここにいるんだ。ふざけんな!』
友が出来た。
その友は私に怒り、喧嘩を売った。
ここにいる、ここにいる私を見ろ、お前を見ろ、いまここで目の前に立ってる事実をその訳の分かんないモノで一杯になってる役立たずの頭ん中に叩き込め!!
彼女を私は心から尊敬している。
大切な友だ。
ふと思い立って描いたのは、どこか暖かく満たされた感情の色。
色の混在したその絵に浮かんだ青灰色の影は、どこか悲しみを見たものに感じさせた。
『とても上手ね。とても綺麗だけど、でも哀しい絵ね』
――――言われて判った。
その絵には人が描かれていなかったからだ。
私の中には、傷みがある。
私の中には、悼みがある。
けれど、私はもうその痛みを愛することが出来ている。
なぜなら、私は生きていて。
出会いたくて。
生きたくて。
――――― 傷を求めている。
この世に生きる愛しい者たちに触れ合って。
そして生まれる痛みにも似た思い出を、求めているからだ。
『ああ、ああ、あああああ、あああああああああああ』
その声を聞いたのは、弟がうまれたとき。
発声と呼吸の獲得を目的とした新生児の放つ泣き声には思えなかった。
嘆く声だと思った。
喪失を嘆く声。
獲得を歎く声の音。――――― 絶望の韻。
「―――泣いてるの? 哀しいの?」
母は7年ぶりの出産で疲れた体を癒している。
父はそんな母を労っている。
私は、新しく弟になった彼に出会いを求めてきた。
『――――どうして、俺はここにいるんだ』
聞き慣れない何かを呟いた彼は、憎悪にも似た視線で私を見つめた。
「あなたも私と同じなのかな? 」
意志の籠った視線を送る彼は、私を憎んでいるかのように見つめている。
私の知らない響きの言葉は、きっと彼の魂に刻まれて癒されなかった傷のどこかに符合しているのだろう。
「魂が眠りにつくことも忘れるほどにあなたは傷ついたのかな? それは傷だったのかそれは痛みだったのかあなたの心は今も泣いているのか」
…それとも、その答えも知らないのか。
ふくふくとした生まれたばかりの弟の肌に手を伸ばす。
歯もはえぬままの赤子は、私の指を嫌って顔をそむけた。
「一緒に生きたいと、君も思ってくれるといいな」
だって。
呟いた言葉の続きを形にすることはなかった。
何故なら、私の言葉を聴く者はいなかったからだ。(彼はまだこの世界の言葉を理解していない)
『私たちはこの世でようやく会えた姉弟なんだもの』
そうやって出会った二人の魂の過程の相似を知るのは、弟が世界を滅ぼす直前。
思いだした姉の呟きを理解したとき。 ―― 魂に傷をもった姉の秘密が明かされる日。
彼の魂に新しい傷が与えられて、古い傷が癒された日。
『姉貴、……まさかあんた知ってたのか?』
『伊達に20年も君のお姉さんしてませんよ? ラングくん』
此世で過ごす大切な日々をこそ進め。
了
さあ、皆様ご一緒に。
【平凡設定どこいったー!!!】
平凡妹が姉になると何故かこうなった。おかしい能力的には通常なのに。
精神的最強っぷりが顕著すぎる顕著すぎる。
これはあれか、弟というか兄が矢面に立つが故の平凡だったということかなんということだ。禁じ手だな、この兄妹(順番)反転物語り。
これで年齢差が3つとかそんなんだったら多分姉は本気で一杯一杯になったんだろうがそこは書かない。だって辛い。だって姉の余裕なんてなくて弟のチートへの嫉妬とか姉の強がりとかそんなんで病むぞ痛い。チートって本当に反則なんだねそう思うと。あ、痛い。(精神的に)
ということで、まさかの反転兄妹はこれにて終了。我ながらよく遊んだもんだ。
そしてここでまさかの世界観が浮上。(殴)。
弟
チートなはずの特別上級魔術師。(夢は世界滅亡)
前世である『岸辺明良』の記憶を持つが故に苦しみ、魔法研究へはまる。
残念ながらこの段階ではまだ姉の正体を知らず、むしろ憎悪対象となっている。(そのせいで仕事中に食事を取らず前後不省に陥ることも多いらしい)
魔法以外に執着する者がいないがために、実は他のシリーズのどれよりも早く魔法を修める。ただし、審査にかかった日数はおそらく一番長かったと思われる。
他の魔法職や真王族たちからは【危険人物】と認定。監視兼ねて宮廷魔術師となる。
世界滅亡のための魔法を得、実行に移す直前にチート脳が記憶していたにも関わらず脳味噌の奥で腐らせていた生まれた時の記憶を思い出す。そこで姉の話した言葉を把握→理解→ちょっと待てまさかあんたも前世の記憶持ってんのかおい(←いまここ)
この後はおそらく己の中二病的行動に股の間に赤面を隠したくなるほどの恥辱を感じつつ、姉に懐き出す。ご迷惑&ご心配かけてた皆様への謝罪行脚はすぐそこだ。
姉
前世を懐かしく思う気持ちはあるが、その時の記憶はない。とりあえず、おかげさまで自分のことを必要以上に否定することも肯定することもなく精神的に安定している。
父母を大切に思っているし、新しい弟の歪みっぷりにも呆れながらも愛でてる途中らしい。(もう少し、世界のためにもはやめに助けてやれ?)
真王族などといういわゆる人間魔法の適応者である真王族の適合体ではないかとまで言われてはいるが、別にそんなことはない。普通の子供。ただ単純に前世における獲得経験に基づいた不動の自我持ちなだけ。
まだ大学生、将来は事務系の仕事にとか思ってたけど、たぶん今回で弟のお目付け役に大抜擢される。御愁傷様です。
弟の上司でもある王女さまとは件の魔王さんとの交流結果としてお会いしたことがあるだけですええ別にフラグは立っていません。
ちなみに彼女が例の友人と会ったのは6つの時。弟が生まれる前である。(さすがに友人は出てこなかったなよかった)
蓋をして封印しておいたのに、浮上してしまった世界観のテキトー説明。
真王族
えと。……統括者的一族の総称。魔法の多くはいわゆる物理ないし化学的方面だが、唯一真王族と認定されてるものたちは人の感情の理を知るとされている。(で、繭と呼ばれる聖域にはいることで適合車たちは多くの情報を共有できるとかなんとか。)
王女、王子と呼ばれるものたちは王位継承者順に呼ばれてる。能力の強いものが生まれるとところてん方式で第五王女から第六王女へと格下げになっていく。ちなみに、最大は12王族まで。(現在王子4王女8)
必ずしも、王族の子は王族ではないのが面白いところ。
繭
現代に近い文明に突如出現した。それまで伝承にしかなかった魔法を出現させた謎の物体とされている。真王族の聖地。
適合者以外が入室すると精神破壊されるとかダークな噂があるよ。