第6話:茶会の幕開け
建国記念を祝う王立グランシャリオ学園の茶会は、王太子であるレオンハルトも臨席する華やかな場だ。
庭園の特設会場には、色とりどりのドレスを纏った貴族の子弟たちが集い、優雅な会話に花を咲かせている。
その中心にいるべきは、次期王妃であるセシリア・フォン・ローゼンベルク公爵令嬢だ。
しかし現在の彼女は、周囲の歓談に完璧な微笑みで応えながらも、ふとした瞬間に視線を泳がせていた。
——怖い。
なぜだかわからない。この華やかな茶会の空気が、あるいは誰かが淹れたこの紅茶の香りが、えも言われぬ死の直感となって彼女の心臓を締め付けるのだ。
「レオンハルト様、こちらの焼き菓子もいかがですか?」
「ああ、ありがとうアリス。君は本当に気が利くね」
視界の端には、王太子のすぐ隣の席に「特別に」呼ばれていた特待生、アリス・マーガレットの姿がある。
公爵令嬢である自分を差し置いて、まるで自分が王妃であるかのように振る舞うアリスと、それを咎めもしない王太子。
周囲の貴族たちはヒソヒソと嘲笑交じりの噂話をしている。それもまた、セシリアの精神を少しずつ削っていく。
「……セシリア様。こちらを」
すっと差し出された白いハンカチ。
振り返ると、無表情の従者——エスターが、冷たくも静かな瞳で彼女を見下ろしていた。
「お顔の色が優れません。少し休まれては」
「……いいえ、大丈夫よ。王太子殿下がすぐそこにいらっしゃるのに、私が席を外すわけにはいかないわ」
ハンカチの僅かな温もりに触れた瞬間、セシリアの心に渦巻いていた「死の恐怖」が、嘘のように引いていくのを感じた。
この男が側にいる限り、私は大丈夫だ。根拠のない、だが絶対的な確信が彼女を支えていた。
——セシリアの真向かいで、男爵令嬢のマリアが、震える手でセシリアの名が入ったポットに「何か」を入れたことにも気づかずに。




