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第41話:怪物の告白



 その夜。暖炉の前で、エスターは初めて——過去のループの話をした。


 セシリアに「語ってほしい」と言われたのだ。

 あなたの過去を知りたい。あなたが何を見て、何を失って、どうやって今の「怪物」になったのか。


 エスターは長い間、黙っていた。

 やがて、ぽつりと語り始めた。


「……最初のループの俺は、ただの従者でした」


 暖炉の火が、二人の影を壁に揺らめかせる。


「何の力もない。何の知識もない。ただ、主人であるセシリア様を——あなたを、心から慕っていた。あなたの笑顔が好きだった。あなたのために紅茶を淹れる時間が、世界で一番幸せだった」


 セシリアは何も言わず、ただ聞いていた。


「茶会の日。アリスの計画が発動して、あなたに毒の濡れ衣が着せられた時——俺は何もできなかった。ただ叫んで、泣いて、取り縋って……あなたの処刑を、目の前で見た」


 エスターの声は、驚くほど平坦だった。

 感情を込めることすら、もうできないほど——この記憶を反芻し尽くしているのだ。


「そして気づいたら、朝に戻っていた。あなたが生きている朝に。——それが最初のループだった」


「……何回目で、今のあなたになったの」


「正確には覚えていません。百回目あたりで、泣くことを止めた。三百回目あたりで、人を殺すことに躊躇がなくなった。千回を超えた頃には——自分が人間だったことすら、忘れかけていた」


 セシリアの手が、エスターの手を握った。強く、痛いほど。


「一度だけ——茶会の毒殺からあなたを救えたループがありました。アリスの計画を潰し、マリアを排除し、あなたは茶会を無事に終えた。……俺は勝ったと思った」


「……でも」


「三日後に、王太子に殺されました。あなたが。逆上した王太子が、『アリスを陥れたのはセシリアだ』と断定して、自ら剣を取って——」


 エスターの声が、初めて掠れた。


「あの時に決めました。『事件を防ぐだけでは足りない。事件が起きる前に、全ての敵を根絶やしにする』と。……それが、今の俺です」


 長い沈黙。

 暖炉の薪が、音を立てて崩れた。


 セシリアは立ち上がり、エスターの前に跪いた。

 彼の手を取り、その指先に——傷だらけの、毒に焼かれた痕が残る指先に——唇を寄せた。


「……何を」


「黙っていて」


 セシリアの声は震えていなかった。だが、その碧い瞳の奥には、かつてない熱が燃えていた。


「何千回分の痛みを、これから私が全部返していくわ。一日一つずつ。あなたが忘れるまで」


 エスターは、声を失った。


 推しが——自分の手に、口づけしている。

 三千回のループの中で、一度も起きなかった奇跡が、今、目の前で。


「……勿体ない、お言葉です」


「勿体ないかどうかは、私が決めるの。あなたは黙って受け取りなさい」


 エスターは目を閉じた。

 頬を、温かいものが一筋、伝っていった。


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