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第11話:最初の死と果てしなき螺旋

第1章の過去編3話です!

「——エスター。逃げなさい」




 それが、1回目の人生におけるセシリア・フォン・ローゼンベルクの最後の言葉だった。  燃え盛る公爵邸。大逆罪の汚名を着せられ、王家の近衛騎士団によって追い詰められた彼女は、血まみれのドレスを引きずりながら、ただ一人の従者たるエスターを隠し通路へと突き飛ばした。




「セシリア様! お待ちください、私も——!」 「駄目よ! あなたの命まで、あんな女にくれてやる必要はないわ!」




 直後、崩れ落ちる瓦礫の向こう側で、愛しい主は炎に呑まれた。  それが、エスターの「最初の絶望」だった。




 前世の記憶を持ったままこの乙女ゲームの世界に転生し、最推しであるセシリアの従者として拾われた時の歓喜。彼女を「絶対に幸せにする」と誓ったあの日の誇り。  それらはすべて、チートと神の寵愛を与えられた「ヒロイン」アリス・マーガレットの理不尽なシナリオ補正の前に、一片の価値もなく踏みにじられたのだ。




 焼けるような無力感の中、エスターは燃え落ちる屋敷と共に命を落とした。  ——だが、彼の意識が次に覚醒した時。  そこは、炎の海ではなく、真新しいシーツの香りがする見慣れた使用人部屋のベッドの上だった。




「……夢、か?」




 いや、違う。時計の針は、あの大虐殺が起こる「三年前」の春を示していた。  乙女ゲームには「セーブデータからのやり直し」が存在する。  だが、モブである彼になぜその力が与えられたのかは分からない。ただ一つ確かなのは、神が再び彼に「推しを救うチャンス」を与えてくれたということだけだった。




「今度こそ……俺が、セシリア様を守る」




 そう固く誓って臨んだ2回目の人生。  エスターはアリスの陰謀を先回りし、物理的な暗殺を図る刺客の前に立ちはだかった。  しかし、彼はまだ「ただの優秀な従者」に過ぎなかった。  強力な魔法の加護を持つヒロインの刺客の前では、彼の体術など無力だった。両腕を切り落とされ、腹を貫かれ——エスターの目の前で、再びセシリアの首が地に転がった。




「あああああああああああああっ!!」




 血の涙を流しながら、彼は再び死の淵へと沈んだ。




 3回目。アリスの紅茶に逆に毒を盛る作戦に出た。  だが、アリスには「どんな猛毒をも回復させる聖女の加護」があった。作戦は露見し、エスターはセシリアの前で惨殺された。




 10回目。王太子に直訴しに行った。  しかし王太子は既に精神操作に近い「ヒロイン補正」に支配されており、エスターは狂人として投獄、拷問死させられた。




 50回目。セシリアを連れて国外への逃亡を図った。  国境の関所で「神鳥の導き」という理不尽なスキルによって位置を特定され、逃亡兵の矢がセシリアの心臓を貫いた。




 100回目。200回目。500回目。  剣の腕を磨き、魔術を極め、毒の知識を詰め込んでも——結果は同じだった。  『シナリオの強制力』という見えざる神の手の前では、どれほど彼が足掻こうとも、セシリアは必ず悲惨な死を迎える。  それはまるで、彼に「お前のようなモブにはアリスは殺せない」と嘲笑うかのような、終わりのない地獄の螺旋だった。

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