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プロローグ:何度目かの断頭台


「——大逆罪人、セシリア・フォン・ローゼンベルク! 貴様の罪は万死に値する!」


豪雨が降り頻る王都の広場。

無情な宣告が響き渡る中、かつて気高く咲き誇っていた公爵令嬢は、泥にまみれた罪人服姿で断頭台に引き立てられていた。


彼女の視線の先には、王太子の腕にすがりついて怯えたふりをする一人の少女——特待生の平民、アリスの姿があった。


建国記念の茶会。

王太子殿下を狙った毒を、身を呈して庇い、奇跡的に一命を取り留めた『光の聖女』だ。


そしてその後の調査で発見された、セシリア直筆の暗殺指示書と毒の小瓶。


誰がどう見ても、明らかだった。

だから、誰も彼女の「私はやっていない」という悲鳴に耳を貸さなかった。


「……エスター。どこに、いるの……」


処刑刃が振り下ろされる直前。セシリアは虚な瞳で、ただ一人の従者の名前を呼んだ。

彼なら、必ず助けに来てくれる。

どんな理不尽からも、私を守ってくれる。


そんな妄信に近い願いは


——鈍い音と共に、赤い飛沫となって散った。


群衆が歓声を上げる。

王太子がアリスを抱きしめる。

その光景を、群衆の後方から、黒衣の従者——シド・エスターは無表情で見つめていた。


(……ああ。また、ダメだったか)


心の中に湧き上がるのは、悲しみでも怒りでもない。

ただひたすらに重く、冷たい、『絶望の反復』に対する疲労感。


これが何回目の「バッドエンド」だろうか。

アリスが用意する暗殺のシナリオは、毎回違っていた。今回は茶会での毒殺未遂。前回は階段からの突き落とし。前々回は魔獣の放し飼い。  彼女は、自分が「神に愛された主人公」であることを知っているかのように、必ずセシリアを破滅の運命に叩き落としてきた。


 エスターは、愛用している懐中時計を取り出す。  銀の蓋の裏には、誇り高く微笑むセシリアの小さな肖像画が嵌め込まれている。


「——本当に、推しを推すのも命懸けだな」


 自嘲気味に呟きながら、エスターは隠し持っていた短剣を、自分自身の心臓に突き立てた。


 世界が、暗転する。


 次に目を覚ました時、そこはいつも通りの、薄暗い使用人部屋のベッドの上だった。  窓の外からは、穏やかな春の陽差しが差し込んでいる。


 カレンダーの日付は『建国記念茶会』の二週間前。


 シド・エスターは、前世で限界オタクの会社員だった男は、ゆっくりと身を起こした。  その瞳の奥には、もはや常人が持ち得る倫理観も、善悪の葛藤も存在しない。  あるのはただ、どす黒く煮詰まった狂気の執念だけだ。


「……アリス・マーガレット。王太子。それから、計画に加担した連中」


 エスターは、誰もいない部屋で、まるで事務処理のリストを読み上げるかのように、淡々と呟いた。


「防ぐだけなら、また別の方法で殺しに来る。……なら、今回で全員まとめて終わらせよう」


 ——最推しを救うためなら、私は喜んで彼らの人生を『物理的に』全損させる。


 かくして、影の従者による、最悪の『完全犯罪返し』の幕が上がる。

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