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縁の理(えにしのことわり)下巻~理不尽で不可解な溺愛と執着は、生まれる前に交わした約束とキスの証明  作者: 平瀬川神木


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第9話 正しい情報共有の芽生え

 自宅学習を続けている小学4年生になる頃に、光志は光や音に対しての反応が過敏になり、昼間に外に出ることは太陽光が大きなストレスとなったし、たくさんの人が何かしらの音を出していることも、光志にはストレスだった。

 

 3LDKの一部屋を光志が使っている。もう一部屋は父親と母親の寝室であり、もう一部屋には部屋の真ん中に仕切りのように洋服ダンスがおかれ、二部屋に分けるようにして、兄と姉が使っていた。これについては家族の理解と協力が大きかった。


 光志より7歳年上の兄である堅志は、今年から北海道大学理学部化学科に入学している。入学二年前、堅志は北大理・化学で判定E、数IIIは偏差値48だった。


 だが光志が『人に教える』ということに慣れてくると、兄は一年でA判定となり、堅志は無事、北海道大学理学部化学科に合格した。

 

 光志は高知能指数という素晴らしい贈り物を授かったが、同じだけの負債も送られた気持ちはぬぐえないでいる。ごく普通の幸せを手に入れたかった。だが光志は、負債として普通とは程遠い場所で生きることを求められる。


 そんな光志にとっての大きな幸せは、家族に恵まれていたことだ。それは両親に限らずに、兄と姉にも大事にされていた。


 父と母はそれぞれ科学研究所の研究員として働いている。カーテンで遮光した部屋から出られない光志の代わりに、兄の堅志と姉の志保は図書館で本を借りてきたり、光志の代わりに買い物もしてくる。


 小学6年生になった光志は、一般的な本であれば1時間から2時間程度で読み終える。抑え気味にいっても、1日3冊は必ず読了する。堅志は毎週火曜日に10冊、志保は金曜日に10冊を図書館から光志のために借りてくる。


 光志が指先でページをなぞりページをめくると、またしても斜めに指でなぞり、また次のページへと移動する。そんな動きを見ていて、志保は読んでいるのではなく、指先に伝わる紙の感覚が好きなのではないかと思っていた。


 ところがある時、家族全員での夕飯の時に、当時中学生だった堅志が、得意である理科の時間は自分の「独壇場どくだんじょう」だと父に言った時、光志は小さな声で「どくせんじょう」とつぶやいているのを聞いた。


 志保は何気なく調べてみると、確かに自分も「どくだんじょう」と認識していた言葉が、本来は「どくせんじょう」だったことを知る。


 他にも注意して光志のつぶやきを聞いていると、その場の会話にまつわる知識などをつぶやいていることに気が付いた。それをきっかけに志保は、光志があの速度で本を読み、一度読んだ本に書かれた知識を全て忘れずに蓄積させていることに気が付いた。


 志保の話を聞いた父と母は、光志を連れてASDと診断した精神科医のもとを再度訪ねた。以前行なったウェクスラー児童知能検査では160という数字だったが、実際にはもっと高い数値だと推察する。この検査ではそれ以上の数字に対応していないため、仮に160という数字にしたという事実。

 俗にいうギフテッドであることと、サバン症候群の診断は当時できなかったが、現状からサバン症候群の診断名を出せる状況であるという事実も添えて告げられた。 


 そのあと行われた家族会議において、家族である以上、このユニークな存在である光志をできるだけ皆でフォローしていこうと話し合われた。


 その時から、光志の存在が家族にとってのデメリットから、メリットの可能性を含む存在に変わった。

 光志が初めて『正しい情報共有』の重要さを知った瞬間だった。


 小学校4年生になった光志は、高校で学ぶこと、大学初年次に学ぶ範囲は頭の中に網羅していた。それらを表現するには、小学校4年生という経験不足が邪魔をする。『知る』と『解る』のはざまにいた。


 高校2年生となっていた堅志が、両親が務める『国立寒冷圏低温科学研究所 札幌センター(CIRLS)』が附置されている、北海道大学に行きたいと言い出した。


 両親の能力を遺伝的に受け継ぎ、理系科目については良い成績を残していたが、国語、英語、社会においては、良い成績が取れずに苦しんでいた。


 光志の姉である志保は兄である堅志に、光志に教えてもらったらどうか?と持ち掛けた。光志のためにも、この家族の役に立っていることを演出してほしいと志保は言う。

 堅志は余裕がなかったが、妹が弟を思って言ってきたことなので、兄として付き合ってみようと思った。


 早速堅志は光志の部屋に行き、成績が思わしくない国語、英語、社会について、受験勉強を手伝ってほしいというと、堅志が持ってきたテキストに、光志はスラスラと答えを書き出していく。


 自室に戻った堅志に、志保がどうだったかと聞くと、回答済みのテキストをバサッと投げ出して言う。

「勉強を教えるってのは、光志には難しいんじゃないかな……。自分にとってわかることと、人にわからせることの違いが理解できていない感じ」


 志保は軽くため息をついたが、すぐに光志の部屋に向かった。

「光志。堅兄ちゃんがあのテキストを解けるようにしてあげないと意味が無いのよ。あなたが代わりに受験を受けることはできないから。どうしたらお兄ちゃんが自分で、あのテキストが答えられるようになるのかを考えて、それをやってみてよ」

 光志は一瞬考えたが、すぐに笑顔でうなずいて、何かを作り出した。


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