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縁の理(えにしのことわり)下巻~理不尽で不可解な溺愛と執着は、生まれる前に交わした約束とキスの証明  作者: 平瀬川神木


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第5話 戦闘開始

 早朝の足尾銅山跡地にほど近い広大な敷地には、プレハブの建物や倉庫が建っている。


 黒いワンボックスカーが5台と白いワンボックスカーが4台。黒い戦闘服をまとったシカゴグリーンの民兵32名が整列している。


 向かい合うように立つブラックが大きな声を上げた。

「4名ずつの7個分隊。アルファ隊のリーダーは小隊長の菊池。アルファ隊は状況に応じての行動とする。ベータ隊及びシータ隊は吉住小学校から家に戻る安田翔子の確保。日本人の顔は見分けがつきにくいから、写真で確認してからの実行を忘れるな。デルタ隊は安田翔子をこの場所まで移送。エコー隊は邪魔が入った時にドローンで蹴散らす。フォックストロット隊とゴルフ隊は2名ずつに分かれて、乗り換え用の自動車の配置。ホテル隊はこの場所に残り、ターゲット受け入れ準備を実施。エキドナの情報収集を日本の政府機関に把握されている。よって邪魔が入らないとは言えない状況だ。臨機応変に対応。ターゲットを傷つけることの無いように、十分注意して作戦を実行してくれ」


 一歩前に出た小隊長の菊池が声を上げる。

「日本で銃撃戦が起これば大騒ぎになる。できる限り穏便な作戦実行を心がけよ。質問あるか?」


 ベータ隊の分隊長が手を上げる。

「銃撃は禁止でありますか?」


 小隊長が答える。

「禁止であれば持っていかせないさ。できる限り……だ。日本は平和な国だ。民兵などは存在しないし、警備会社の隊員はせいぜい警棒やスタンガンだ。銃器を持っているのは警察ぐらいだが、S&WのM360、装弾5発で有効射程は25メートル。実際には10メートル程度の至近距離でなければ当たらない。その警察もめったには発砲などしない。各自の判断に任せるが、今後の行動に影響が出る。できるだけ穏便にが目標だ」


 全員が敬礼で了解を提示した。

 

 その日の午後、翔子はいつものように学校を出た。途中までは友達と3人で下校していたが、それぞれが手を振って別れて、翔子の足で残り10分くらいのところから一人で家に向かって歩いていた。


 その後ろ60メートル、道路の左右に散って歩く私服警察官の一人が、耳に手を当てて小声で口を動かす。

「定時連絡。ターゲット安田翔子はC地点を通過。問題なし」


 私服警察官二人のイヤホンに返信が流れる。

「定時連絡了解。帰宅後連絡を送れ」


 シカゴグリーンの急襲部隊は、小隊長の乗ったアルファ隊とエコー隊が現場から3分圏内で待機。ベータ、シータ、デルタ各隊が縦列に並び予定地点の交差点手前200メートルでハザードランプを点灯して停車待機していた。


 翔子は大通りに出て、信号が青に変わるのを待っている。次の瞬間、翔子の前をベータ隊が乗った黒いワンボックスカーが通過して50メートル先に停車。翔子の目の前にデルタ隊が停車し、その後ろにシータ隊が乗った黒いワンボックスカーが止まった。


 私服警官の一人が視線を凝らす。もう一名は走り始めていた。ワンボックスカーのサイドスライドドアが開くと、黒い戦闘服の外国人が笑顔で翔子に手を振った。


 後ろに止まったシータ隊のスライドドアが開くと、黒い戦闘服を着た白人がサプレッサーが装着されたコルトM4A1を構えていた。


「警察だ!」走り出していた私服警察官は、大きな声を出したが大通りの車の音にその声はかき消される。

 次の瞬間その警察官の太ももにNATO弾が撃ち込まれ、その場に転げ落ちた。もう一名の私服警察官は、その場で足が動かなくなっている。


 先に止まったワンボックスカーから出てきたデルタ隊の2名の民兵は、できるだけ優しく翔子を抱きかかえて車に乗せた。


 ほんの10秒足らずの出来事。現場には再度立ち上がり走り出そうとするが、前に倒れ無念そうな表情を浮かべた銃撃を受けた私服警察官が振り向き大声を上げる。


「はやく!本部に連絡を!呆けているんじゃない!」

 我に返ったもう1名の私服警察官が、すぐに無線で緊急事態を告げた。


 翔子を乗せたデルタ隊のワンボックスカーと、その後ろには追従するようにシータ隊、ベータ隊も合流して3台のワンボックスカーは縦列体系をとって車の流れに乗った。


 数分後には府中街道と呼ばれる国道409号線を東へ向かい、国道1号線との交差点である遠藤町でウインカーを左に出し信号待ちをしていた。


 翔子とシカゴグリーンの隊員が乗った3台のワンボックスカーの左を、原付バイクが抜いていく。その瞬間車内に小さな破裂音が響いた。


 一番先頭に止まっていた、翔子を乗せたデルタ隊の助手席に座っていた民兵がサイドミラーを見ると、原付バイクに乗った太った男の右手には、旧ソビエト連邦製のマカロフPM・9ミリ弾のハンドガンが握られており、後ろに並ぶワンボックスのタイヤに向けて発砲し、一番後ろのベータ隊の車は左側の前後輪を、2台目のシータ隊の車は後輪を、そしてたった今前輪をパンクさせられていた。


 先頭車両であるデルタ隊の助手席に座っていた民兵は、先に行けと怒鳴り車から降りるとM4A1を原付バイクに向けた。その瞬間、原付バイクは一気に加速してその隊員に体当たりをした。

 助手席側のドアが開きっぱなしのままで、デルタ隊のワンボックスは急発進。赤信号の遠藤町の交差点に突っ込み、クラクションが鳴り響く中を左折していく。


 ベータ隊とシータ隊が乗った、パンクさせられたワンボックスから民兵が降りてきたが、マカロフPMハンドガンを手放した太った男は、その手にコンバットナイフを持って次々と民兵たちの腕と大胸筋をつなぐ大結節稜付近や、前腕部の浅指屈筋や深指屈筋を撫でるように切り付け筋を切断していき、銃やナイフを持つ腕や手の動きを封じた。

「こんな市街戦でアサルトライフルなんてダメダメでしょ」


 黒い戦闘服を着た民兵9人VS太った男1人の戦いは、あっという間に勝負がついた。光也は民兵に対して腕以外への攻撃はしかけていないため、民兵は走ってその場から逃げ去っていった。


「民兵なんて言っても、実戦経験が無さすぎるんじゃないの?僕とか冴ちゃんが過ごした、命がタバコ1本より軽い世界ではさ、CQBはナイフって相場が決まっているんだよ」

 ヘルメットを脱いだ光也は笑顔で言った。


 次の瞬間、排気音を轟かせて、大型の真っ赤なバイク、ドゥカティ851のタンデムシートに跨るフルフェイスヘルメットからロングヘアをなびかせる女性が、親指を立てて光也の脇を通り過ぎていく。


※CQBとは30メートルよりも近い距離で行われる近接戦闘のこと


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