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縁の理(えにしのことわり)下巻~理不尽で不可解な溺愛と執着は、生まれる前に交わした約束とキスの証明  作者: 平瀬川神木


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第16話 対流

 世界を混沌の中に落としたMORSウイルスが、共産主義国が仕掛けた生物兵器であったことが世に知れた36時間後、アメリカニューヨークの国連本部・安保理会議場では緊急会合が開かれていた。


 円卓には各国の国連常勤大使が並んでいたが、共産主義国からは参加者がおらず、欠席裁判の様相を呈している。


 しかし当事者がいないという事態ゆえに、この情報の真偽すら確かめる術もなく、まずは調査団の派遣は即時決定した。これに伴いアメリカ、イギリスをはじめとする先進主要国の数か国からは、PKO・国連平和維持軍の派兵を強く求める声が上がった。


 PKOの派兵には、当事国の同意が必要であるがこの場に共産主義国はいないため、話し合いの場を設けるようにする旨が議長から告げられた。


 これに猛反発したのはアメリカやイギリスであり、共産主義国は今この瞬間にでも、再度生物兵器をばらまくことができる。生物兵器が一般武力攻撃より質が悪いのは、その即時対応方法がゼロに等しいという事実。


 今すぐに国連軍の派兵をすべきであり、それが出来ないのであれば有志連合での対応を行うことを明言した。


 国連安保理臨時会合が一時休会となったタイミングで、共産主義国のリウ・ジエン主席からのメッセージ動画が世界に向けて配信された。


「我々は世界中の苦しめられ、搾取される人たちを解放することを目的として、世界一路構想を計画した。これに対して世界の人々を踏みつけ搾取する側に立つ指導者たちが、我が国に入り我々が掲げる正義を確かめたいというのであれば、我々は喜んで受け入れよう。ただし、我々のものではない悪の証拠が我々のものだとするような不正義がなされないことを望む」


 この情報を得た安保理は、すぐに会議の再開を宣言し各国の参加者たちは会議場に慌てて戻った。


 会議が再開された途端、さらに衝撃的な発表が共産主義国の中南海紫光閣、主席執務室から発せられた。これは生放送の映像であり7名の党幹部が並んでいた。


 初めに声を上げたのは、一番左に立ち、鼠色の人民服をまとった党中央弁公庁(日本でいう内閣官房)の主任代理だった。

「まず初めに、国連安保理並びに一部の国が我が国に対して兵を送り込もうとすることに対して、断固とした拒否を表明する。同時に我々は、我が国内および人民に対して、非常対処枠組みの実行を表明する」


 その隣の黒いスーツを着た中央宣伝部 部長が口を開く。

「近時流布されている主席映像であるが、これは偽造の疑いが極めて濃厚である。人民においてはこれらの偽造された映像に惑わされないよう厳に慎め。情報は国家放送で統一する」


 公安、検察、法院などを取り仕切る中央政法委員会 書記

「PKO、査察の受け入れは現下、非常対処枠組み発令のため認められない。国内治安と主権の維持を最優先とするものである」


 情報機関である国家安全部 部長

「リウ国家主席を語る偽造された映像は、以前国家主席暗殺の疑いがあったワン主席警護官が作成しているという情報を得ている。現在捜査範囲を拡大している」


 国家公安部 部長

「首都地区に2級警戒を発令する。集会やデマの拡散は厳格な処罰の対象となると心得よ」


 電力などを司る国家発展改革委 主任

「現在行方不明となっているリウ主席は、もとより正しい情報の配布を重要視されていた。ただしそれは責任を持った情報であり、方法であることが求められる。本日、電力、燃料、穀物の重点共有リストを公開する。非常対処枠組みが発令されたが、これら生活必需品の価格過度変動は党が抑制するものである」


 国家インターネット情報弁公室 主任

「我が国からの情報は、情報が捻じ曲げられる恐れのある海外資本、ジュネーブコンパクトではなく、本日中に党が運営するプラットフォームによって情報共有がなされるものである」


 共産主義国内のニュースでは、これと同時に国内に緊急展開される、警察や人民軍の様子が映し出されていた。


 二転三転する状況に国連安保理は対応しきれず、再度一時休会となった。


 その4時間後には、国連を見限ったアメリカとイギリスが呼び掛け、有志連合デジタル会議が開催された。


 アメリカ大統領が興奮した口調で口火を切った。

「時間が無い。国防総省やCIA、その他あらゆる連中が開示された情報から導き出したのは、これが正しい情報であるという事実だ。おそらく他の国でも同じ結論が出ているだろう。今この瞬間に、以前より凶悪なウイルスがバラまかれ始めているかもしれない。すぐに共産主義国に入り、それらを保管している施設を管理しなくてはならない。すぐにだ」


 イギリス首相が落ち着いた様子で続く。

「我々もMI6をはじめ、この情報が正しいことをつかんでいる。そしてこの情報に記された生物兵器の製造工場や、現在保管されている施設などに関する情報の信ぴょう性は、今はまだ高いと言える。だがいつ生物兵器が移動させられるかもしれない。現在アメリカとイギリスの衛星が動きを監視しているが、大型ミサイルなどと違い人間が手持ちで移動ができるサイズである。人間がカバンに入れて移送を始めれば監視のしようもなくなる。時間が無いことは確かだ。すぐに始めなければ、また国民の2割が死ぬようなことになる」


 日本の総理大臣が語る。

「まずは各国の物流と人の動きの制限を国際社会として行いましょう。日本は前回のMORSウイルスの流入を完全に止めました。そのうえで共産主義国に安全のための対策を話し合うように――」


 アメリカ大統領が顔を紅潮させて大声を出し遮った。

「ファック!いいか!?そこに乗せている小さい脳みそで考えろ!前回は生物兵器の存在も、それがあの国『発』であることも、あの国は隠す必要があった!だからお前の小さい島国は侵入を止められただけだ!今回は隠す必要などなくバラまけるんだぞ?ドローンでばらまかれる、軍隊がそれを打ち落としてもばらまかれる、バルーンや鳥やあらゆる方法でばらまかれる!国民の命より守りたいものがあるならば、ここから出ていけ!時間が無いんだ」


 フランス大統領が口を開く。

「ここに参加している国々はすでにやらねばならぬことは理解している国だ。日本以外は。いつどのようにということの話し合いに移ろう。時間が無いのは確かだ」


 次の瞬間、アメリカ大統領は1枚のメモを受け取った。直後机を強く拳で叩いた。

「だから国連などには任せておけんのだ!時間を無駄にしたせいだ!」


 すぐ後に、イギリス、インド、ロシアのトップも何かしらの報告を受けていた。イタリア首相が首を左右に振りながら言った。

「皆さんも報告を受けているでしょうが、共産主義国の核ミサイルハッチが開いた。これはアメリカとイギリスの原潜がミサイル発射深度まで浮上したことに対する対応行動と推察できる。相変わらずあなたたちは不用意に力を誇示したがるのはなぜだ?せめて我々の話し合いが終わるまで、行動は慎んでいただきたかった」


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