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縁の理(えにしのことわり)下巻~理不尽で不可解な溺愛と執着は、生まれる前に交わした約束とキスの証明  作者: 平瀬川神木


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第15話 解氷

 エキドナの会議から1週間後には、ジュネーブコンパクトの共有プラットフォームは世界最高レベルのものが完成していた。世界でも飛び抜けたIT集団であるエキドナのメンバーが作れば、アリシアというAIは搭載せずとも、純粋に情報共有システムとして、類を見ない高精度のシステムを構築することは、彼らにとって造作もないことだった。


 その3日後には、ジュネーブコンパクトからのプレスリリースとして、システムのバージョンアップが成されたことと、すでに周知済みではあるが、個人でも会員になれることが再掲載された。


 さらにその翌日、パパが作ったリウ主席のフェイク動画が、共産主義国のあらゆる組織に対して、ジュネーブコンパクトの情報共有システムを使って、それぞれ情報を開示していくように通達が出された。


 まだ100年は経過していないが、それでも50年以上「統制」を重んじ、市民には武力で向き合ってきた共産主義国家だ。そんな国で、主席が「今後は情報を開示していく」と大々的に宣言しても、人々には真意がまったく伝わらなかった。

 

 何も始まらない現状から、情報開示へのわかりやすい道が必要だと気が付いたジョシュは、プレスルームでリウが語るフェイク動画を作り、それをパパに見せた。パパはこの動画をすぐに自分で作り直して共産主義国内で配布した。


 プレスルームの壁には、国旗が大きく掲げられている。


 リウ主席はカメラから視線を外さずに、強く優しい表情で口を開けた。

「本日、この国の情報は原則公開に転じる。例外はない。旧来の秘匿命令は直ちに停止し、全ての会議は記録、保存、閲覧可能とする。私が参加する会議についても全てである。各部局は48時間以内に保有データを公開目録として提出せよ。情報は自由に流出し、嘘偽りのない事実が人民に、世界の人類に提供される。我が国の人民は、誰かの既得権に染められた情報で判断するのではなく、染められていない事実をもとに判断することを切に願う。世界各国においても、一部の隠れた経済的独裁者が染めた情報を頼りに生きるのではなく、全人類が正しい情報を元に判断できるようになる明日を望むものである。また、どの国の人間であったとしても、本当の解放がなされた国で生きたいと願う人々は、手厚く我が国で受け入れるものである。勇気をもって手を上げて欲しい」


 このメッセージが公開されたその日の午前中は、まだ情報が流出するような動きがみられなかった。しかし凍り付いた厳冬のアムール川の川底で、動き続けて凍るのを避けた水が、少しずつ川全体に影響を与えるような小さな動きは確かに存在し、耳をすませば氷のきしむ音が小さく聞こえているようだった。


 この日の午後、初めてジュネーブコンパクトの情報共有システムにアップされたのは、人民解放軍、旅団保障部装備保管所、つまり陸軍の一つの部隊の重火器以外の装備品の調達をする部門。その部門の主管理監という装備品の選定責任を負う人間が、アメリカ企業から1000ドルの賄賂を受け取り、アメリカ企業が作ったLED懐中電灯をロシア企業製として導入した。


 導入コスト2万ドル程度の小規模な取引だったが、製品自体はアメリカ沿岸警備隊(第7管区)でも採用されている確かなもので、旅団内での評判も上々だった。しかし導入までの手順が正しいとは言えないものであることは確かである。


 この懐中電灯のリーク情報がアップされた3時間後の17時前には、100を超える情報が開示されていた。これらのほとんどは情報公開というより、不正のリークといった内容のものばかりだった。


 それから1週間経過したこの頃には、リークと言えるものから正常な情報公開といえるものまで、数万件の情報が共有情報としてアップされていた。


 この中にはリウやワンを含めた党の最高幹部達のリーク情報は一切存在しなかった。


 エキドナの中では上手いこと隠しているとして、党最高幹部達のリーク情報を探る動きも出てきていたが、これらの情報は皆無であった。なぜなら彼らはそのような行為を行っていないからだ。


 だが実際問題として、アップされている情報の中には、軍事に関する情報まで含まれていた。末端の管理職が触れられる情報に関しては、軍事秘密扱いと指定されていた情報でも公開されている有様であり、このままではこの国の安全保障にかかわると感じた党最高幹部達はリウに面会を求めた。だがリウはそれに応じず、情報は基本的に開放。それぞれの判断に任せるという返答に終始した。


 こんな中で世界が大きく騒ぎ始めたのは、4日目に静かに情報公開された『世界一路構想促進計画について』というものだった。情報はリークというより情報共有という顔色のものあったが、その内容を読み進めれば、共産主義国が生物兵器を作り、それを世界にバラまいたというリーク以外何物でもないものである。


 官僚が賄賂をもらったなどという、どうでもよいリークではない。国家を、世界を揺るがすリークが実行されていた。


 MORSウイルスの全世界での死亡者数は20億人に迫る人数である。この惨劇のウイルスの発生が共産主義国であり、ましてやそれが人造的に作られた生物兵器だとするのであれば、地球上に人類が誕生してから類を見ない大量虐殺テロである。


 一度埋もれたこの情報に注目が集まったのは、全情報公開をリウが指示してから8日目の夜であった。これらのニュースは夜昼関係なく世界中を席巻し、次の日の朝には全世界の人々が知ることとなった。


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