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縁の理(えにしのことわり)下巻~理不尽で不可解な溺愛と執着は、生まれる前に交わした約束とキスの証明  作者: 平瀬川神木


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第14話 失敗の責任はゴールにあるのかスタートにあるのか

 30数年前、1人の少年と警察官として出会ったあの日の記憶が、レナードの脳裏をかすめては消えた。視線を上げた先にあるのは、現在の冷徹な現実だ。


 シカゴグリーン社長室のモニターには、日本の自由基地にいるブラックの姿が映し出されている。背景には、先ほどの銃撃戦で深手を負った隊員たちが運び込まれる騒がしい影が動いていた。


「申し訳ありませんでした。レナード社長。菊池小隊長と民兵合計2名の死亡。他にも10名の負傷者を出した挙句、ターゲット奪取に失敗しました。遺体や負傷者は全員こちらで回収しており、重症といえる2名は極秘裏にアメリカ軍基地の医療機関に搬送治療をしております」


「ブラックは私の分隊だけで十分という発言よりも慎重な小隊での行動を選んだ。問題なのは私が状況を軽く見ていたことだ。作戦失敗の要因についてはどう考えている?」


「作戦実行前に、ジョシュに情報収集を依頼しました。その時にジョシュから日本政府機関に探知されたということは聞かされていました。ですがジョシュです。こちらの手の内や目的がばれるということはあり得ません。ジョシュの行動で日本政府機関に把握されたのは、ジョシュが自衛隊や警察などの映像データにアクセスした事実だけです。小隊にはこの事実も伝えて注意喚起はしていましたが、それだけの情報漏れで誰をターゲットに、いつ何を行うかを推察できるとは到底思えません。小隊内でも作戦の公表は当日朝。菊池小隊長には前日に共有しましたが、菊池小隊長が死亡した状況を鑑みた時に、彼が情報を漏洩したとも考えにくいです」


 レナードは腕を組んで顔を天井に向けた。

「ブラックでも理由がわからないってことだな」


 ブラックは苦々しい表情を浮かべた。

「悔しいですが……。申し訳ございません。セプテンバーには私の作戦が失敗した事実と、日本への移動を延期していただくように連絡はしてあります」


「わかった。エキドナ会議で今後のアリシア奪取についての作戦を話し合ってみるよ。パパが共産主義国の主席を演じられるのもそう長くはできないからな。なんにせよブラック。お前がジョシュの能力を高く評価している様に、私はお前を評価している。お前が失敗した作戦であれば、誰がやっても同じだったし、お前がたてた実働作戦以上の作戦を、エキドナのだれも立てることはできないことは伝えておくよ。ただし……」


「ただし?」


「今回はお前のセプテンバーに対する小さなプライドがあったことは事実だ。それがお前自身に向かうプライドであれば簡単なことだが、私の体面を保つためのプライドだった。これについてだけはお前が反省すべきだ。私の体面などどうでも良いことだ。お前には常に状況に目を向けてほしい」


「……申し訳ありません……」

 うつむいたブラックは肩を震わせていた。


**


ブラックが立案した、アリシア奪取のための安田翔子誘拐作戦失敗の翌日。Cigsことレナードはエキドナ幹部達と今後の作戦の練り直しを行っていた。


 今回の作戦失敗に関するブラックの分析を共有した後で、ジョシュが発言をする。

「いやぁ、今回は僕のせいなんじゃない?ブラックは自分のせいだみたいに言っているけれど、実際事前調査で尻尾を踏まれたのは僕だよ。シカゴグリーンのメンバーに顔向けができないよ」


 その言葉を聞いてセプテンバーが言う。

「いやジョシュ、それをいうならブラックでもジョシュでも、ましてやCigsでもなく、このプランを提案した自分に非があることになる。犠牲になったシカゴグリーンのメンバーには心からの謝罪を表明する。Cigs、どうだろう?あんたの動きでジュネーブコンパクトは手中に収めている。自分が簡単にアリシアを情報共有システムに据えようと提案してしまった訳だが、ユーザーにとってはUIが変わらなければ、中身が変わる事など大した変化には捉えないと思うんだ。LLMだって実質的に中身が全く新しいものになる、ハードバージョンアップが実行されても、ユーザーは多少の変化を感じるだけだ。とりあえずあんたが抑えたジュネーブコンパクトには我々で準備できる情報共有システムをあてがうとして、徐々にアリシアにハッキングを重ねて模倣するか、我々で新しいAIを開発するかで差し替えても良いのではないだろうか?今回はつい自分の戦場である痛みを伴わないデジタル上での奪い合いのイメージしか持てなかったが、やはりアナログでは痛みが生じることを改めて知ったよ。だから我々は基本的にデジタル上で戦う。シカゴグリーンには重要なところだけで動いてもらう。こんな流れを再提案したいと考える」


 Cigsは深くうなずいた。

「そうだな、セプテンバー。デジタルで戦える手法がある場合には、そこを我々の主戦場としよう。どうしても必要な時は必ずある。主席を黙らせるのはまさにそれだったが、シカゴグリーンは限りあるアナログ資源として、ここぞという時にだけ使っていくとしよう」


「ではCigsもアリシア以外のシステムで、世界中の人々と情報を共有していくことを開始するという考えには賛成してくれたと考えて良いのか?」

セプテンバーがCigsに向けて言うと、Cigsが返す。


「ああ、私は異存ないよ。セプテンバー」


 今日も国家主席のフェイクライブ映像で参加しているパパが言った。

「俺も異存ない。そういう柔軟な変更を受け入れる態度はさすがCigsだよ。俺の方は想像以上に忙しい。とりあえず1か月は頑張るが、あまり長い期間は難しい。それについても作戦の修正を願いたい」


 ジョシュが頷きながら発言する。

「エキドナのメンバーの複数人で、言うなればパパを支えるワンの役をこなしているけれど、実際には本当に2人でやっていたんだから、バイタリティーがぶち抜けて高かったんだね。エキドナとして本当の情報を流して、世界中の人間に正しい選択のチャンスを与えることは続けていくけれど、国をコントロールするなんてさっさと手を引きたい気分だよ。疲れちゃうからね」


 Cigsが顎に触れながら言う。

「みんなそれぞれの役割を見事に果たしてくれている。ありがとう。今日の段階での今後についてだが、共産主義国内において、主席を務めてくれているパパを介して、地方も含めた各部門に嘘偽りない情報開示を奨励してもらう。それらの情報はジュネーブコンパクトの情報共有システムを使う流れを作る。つまり『あの』共産主義国が、不正や腐敗に対して個人リークを推奨する形だ。これが波に乗れば、共産主義国以外の若い人たちが、ジュネーブコンパクトの情報網にそれぞれの国が抱える闇をリークしてくれるようになるだろう。アリシアというAI不在がもたらす影響は、文章作成が苦手な人間へのフォローくらいで抑えられるだろう。共産主義国のコントロールについても、この流れを作ってしまい、しばらくの間天安門事件のような強制介入を防いでいれば、一般市民に火がついて正しい情報の流布は止められなくなるだろう。もしかすると世界で一番クリーンな国になれるかもしれない。それが世界に浸透していくことを期待して」


 Cigsはカメラに向かって親指を立てた。他のエキドナ幹部も親指を立てて会議は終了した。


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