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縁の理(えにしのことわり)下巻~理不尽で不可解な溺愛と執着は、生まれる前に交わした約束とキスの証明  作者: 平瀬川神木


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第1話 彼らにとっての悪の排除

「クリア」


「クリア」


「オールクリア」


 北京、中南海。共産主義国政府の中枢と言える場所であり、国家主席の居住と執務の場でもある。当然厳重な警備のもと、歴代の国家主席たちが暮らし、国の命運を決めてきたこの場所は、外部からは隔離された場所となっている。


 主席執務室には、頭部に.22口径の弾丸が2発ずつ撃ち込まれた、共産主義国のリウ・ジエン主席とワン・チェン主席警護官、それと20代後半の若い女性の遺体が床に倒れている。


 人間が正しい選択を行うために、正しい情報を世界に伝えることを存在意義とする、都市伝説化している世界最強の無国籍ハッキング集団エキドナ。


 そのエキドナの実戦部隊である、表向きはアメリカのPMC、民間軍事会社であるシカゴグリーンの黒い戦闘服を着た精鋭が3名。手には黒く武骨なサプレッサーが取り付けられたルガーマークⅣが握られている。


 エキドナが中南海全体のデジタル警護システムをハッキングし、いつもと変わらぬ平和な夜を中央警護局に配信し始めてから12分が経過していた。 


 クリアコールを合図に、主席執務室にはさらに8名の戦闘員が入り込み、3名分の遺体の運び出しと絨毯やソファーに揮発性過酸化水素をプラスチックボトルからふりかけて、少しだけ残った血痕を除去し始めた。


「頭蓋骨内に入るが出るほどのパワーは無い『.22口径』だったが多少の出血はあるな」


「確実を期すために1ターゲット2発にしたからな。でもこの程度ならすぐ血痕除去できるだろ」


「ルミノール反応抑制ジェルも急げよ。あと2分……22秒で撤収だ」


 廊下に倒れていた警護官5人分の遺体は、すでに片付けられていた。


 この作戦中『アルファ』と名乗る小隊長が血痕など遺留痕跡を確認しながら、主席執務室を出る前にエキドナの現リーダーである、ハンドルネーム『Cigs』、民間軍事会社シカゴグリーンの社長であるレナード・グリーンにイヤホン型マイクから報告を行う。


「こちらアルファ。主席執務室内でターゲットのリウとワンの処理完了。もう1名いた女性の処理も完了。廊下の警護官5名の合計8名の処理を完了。これより帰投する」

 エキドナの幹部たちは、小隊長アルファが着けているメガネ型カメラの映像を、それぞれの拠点から確認し拍手が沸いた。


「こちらCigs。ご苦労、安全に帰投せよ。予定通り中南海のハッキングは15分……あと2分で解除する。急げよ」


「了解」


 Cigsが眺めるデジタル会議システムに映る幹部、ハンドルネーム『パパ』の映像が一瞬のノイズの後、主席の居住スペースにあるソファーに座ったリウ国家主席の映像に変わった。そのリウ国家主席が幹部に向けて話し出す。

「みんなどうだ?共産主義国の高齢幹部連中にはこれがフェイクだとは気づかれないレベルには仕上げたつもりだが」


 それを見ていた、こちらもエキドナの幹部である、ハンドルネーム『ジョシュ』が口を開く。

「声も同時通訳変換の共産主義国語もバッチリだね。僕たちでも厳密調査しなければ本物にしか見えないから問題ないよ」


 幹部たちは、みんな頷いた。Cigsが笑顔で言う。

「計画通り、これからしばらくの間、共産主義国内での会議などはデジタル会議でパパが対応する。ジョシュはワン警護官が独自の情報網で把握した、政府高官が絡んだ主席暗殺計画の回避のために、極秘裏にリウと共に自分が用意したセーフハウスに移動した。表向きリウは体調不良だということを伝えるワン主席警護官のフェイク動画を、中南海警護局に送っておいてくれ」


「ワン警護官が生きていたら、リウ主席の動画を怪しんで電脳戦部隊の閃電白虎に調査させる可能性が高かったよね。フェイクの可能性が浮上すると色々と計画に支障をきたすからね」


「我々の議論で出た通り、ワンさえいなければ主席は警護的には丸裸同然だった。ジョシュ、動画の送信を忘れるなよ?」


「了解だよ、Cigs。作戦通りアルファから撤退完了報告が入ったら送るね」


 その直後、小隊長アルファから通信が入った。

「ただいま中南海を離脱。作戦は成功。繰り返す。オペレーションコンプリート」


 アルファから送られ続けるカメラ映像は、中南海を出る車内からの映像を映していた。再度デジタル会議に参加している幹部たち全員から、シカゴグリーンの実戦部隊に拍手が送られた。


 幹部のセプテンバーが告げる。

「それでは、中南海のハッキングを解く」


 Cigsが返す。

「承認」


 中南海の警護局の監視カメラ映像は、誰も気づかない程度の一瞬のノイズと共に、偽物の平和の映像から、本物の静かな夜の映像に切り替わった。その瞬間、主席執務室で大きな手ぶりで何かを語っている20代後半の女性とそれを笑顔で聞くリウ主席、2人を見守るワン主席警護官の3人の姿が静かに消えた。


「ところで、あの女性は誰だったの?運が悪かったよね。僕たちの計画実行のタイミングで、たまたま主席執務室にいるだなんて」


 ジョシュの問いかけにCigsが答える。

「我々のデータにはない人物だから、幹部ではないな。残念だが大義の前での小義と考えよう。今までこの国が強制的に流させてきた市民の血の量を考えれば、それを今後繰り返させないための少量の犠牲だ。やむをえまい」



 同時に中南海警護局では小さな動きが起こっていた。小さなノイズの後、主席執務室に映し出されていた3名が突然消えた。データ遅延が起こっただけではないか?と小さな動揺が走っていた。


 念のため警護局に詰めていた副主席警護官は、主席執務室がある勤政殿に連絡をする。それと同時に武装した2名の警護官が、中央警護局がある紫光閣から勤政殿に向かった。直後警護局の職員が声を上げた。


「副主席警護官。ワン主席警護官からメールで動画が送られてきました」


――ワン警護官がわざわざ動画だと?


 一瞬眉間にしわを寄せて疑念を表明した副主席警護官。

「メインモニターに映せ」


 警護局のメインモニターに、ワン主席警護官の映像が映し出される。

「警護局へ極秘扱い。私がつかんだ主席暗殺の計画について、党内の上級幹部が一枚噛んでいるという情報で、その信憑性と実現性を評価した結果、緊急と判断した。極秘裏に私が準備していたセーフハウスにリウ主席と移動する。もうしばらく情報が集まるまで極秘扱いとしてほしい。なお、後程あらためて主席から伝達はしていただくが、しばらくの間主席が参加する会議はデジタル開催とする。警護局のメンバーは、落ち着いていつも通りの行動を願う。主席暗殺を狙う上級幹部に私の動きが洩れぬよう、人民解放軍サイバー戦部隊の閃電白虎を含めて今回の件は極秘扱いとする。以上」


「どうなされますか?副主席警護官」


「武装の2名を引き返させろ。ワン主席警護官の読みが正しければ、いつもと違う動きは上級幹部に伝わってしまう」


「勤政殿の主席執務室前の廊下にいた警護官たち5名ともに連絡が取れませんが、ワン警護官が連れていったという認識でよろしいのでしょうか?」


「この状況から鑑みれば、それ以外に考えられないが……」


 共産主義国の夜は静かに更けていった。


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