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止まったままのホーム

作者: TOMMY
掲載日:2025/11/28

時間が止まったようなホームだった。

駅舎の木の香りが、胸の奥の古い引き出しをそっと開ける。色あせた料金表にはまだ「おとな110・こども60」と書かれていた。意味を失った数字だけが、当時のまま壁に取り残されている。


電車は一時間おきのはずだが、もう長いこと来ていない。

それでも、ここに立つだけで風景は戻ってくる。早朝の白い息、顔ぶれの変わらない乗客たち。ブレーキの擦れる音と、ドアが開くときのあの湿った空気。

目を閉じれば、まだ世界は続いているように思えた。


ここから私の時間は、止まっていたのだ。


──カン、カン、カン。

突然、踏切が鳴りはじめた。赤い光が静かな駅に脈打つように点滅する。ついに時間が追いついてしまった。


この時代にいつまでもいたかった。でも、ここは間もなく消滅する。


やがて電車が姿を見せた。薄汚れた車体。ゆっくり開くドア。

頬に当たる風は、あの頃と同じ温度だった。


私は一歩、足を踏み入れた。

この先に何があるのか、もう知っている。


懐かしい顔ぶれがこちらを向く。話したことはない。けれど、確かに日々をともにした人たち。

ずっと、あの日のまま待っていてくれたのだ。


電車は静かに揺れながら、私を乗せて走り出した。


「次は——令和、令和」

新しい時代の名前が、やけに大きく車内に響いた。


車内のアナウンスに、胸の奥がわずかに軋んだ。

あちらでは、私を待つ現実が息を潜めている。

慣れない街。知らない匂い。新しい生活。

すべてが、まだ“私の時間”になっていない。


ここなら、息ができる。


ここだけは、置き去りにした私が今も立っている。


次の駅で降りるか、それとももう少しだけこの揺れに身を任せるか。

まだ決められないままだった。


──ふと気づく。

私はずっと、前の人生が終わった瞬間の駅に腰を下ろしていた。


いつか、またあの駅を訪れるかもしれない。けれど今はまだ、死ぬための駅ではない。そこは、前の人生から一度腰を上げて、歩き始めるための途中のプラットフォームだった。

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