第一話 理を壊す者、異世界に降る
かわらんと申します、初めて書いた小説となっております。面白くないかもしれませんがどうぞよろしくお願いします
気づけば、涼介の視界は真っ白だった。
何もない。上下も左右もわからない。音も匂いも温度も、何ひとつ感じられない。
まるで、存在そのものが溶けてしまったかのような無の世界。
視界の白は濃密で、どこまでも深く、無限に広がっていた。
「ここは……どこだ?」
自分の声がどう響くか、どんな反応があるのかさえわからない。
呟いた言葉は、ただ白の中に吸い込まれていった。
時間の感覚も次第に失われ、意識は薄れていく。
身体の感覚も、温度も、匂いも、何もかもが遠のいた。
まるで、世界そのものから切り離されたような虚無感。
そんな深淵の中で、突然、差し込む一筋の光。
それは柔らかく、だが確かな存在感を持っていた。
その光の輪郭は徐々に濃くなり、やがて一人の女性の姿を成していく。
白いローブに包まれ、銀色の長い髪が宙に漂う。
彼女の瞳は静寂の中にありながら、あらゆるものを見透かすような鋭さを帯びていた。
「涼介」
その声は空間に溶けることなく、心に直接響いた。
「……え? なぜ俺の名前を?」
戸惑いの声に、彼女は優しく頷く。
「あなたは“森川 涼介”。二十一歳。現実世界の大学三年生。
プログラム開発に没頭しすぎた結果、心臓が限界を迎え、そのまま命を落としました」
言葉は淡々としていたが、突きつけられた現実はあまりにも重い。
現実世界。
かつて自分が生きていた場所。
慣れ親しんだキャンパス、無数のキーボード、コードが映るモニター。
それらすべてが今は遠い記憶となり、霞んでいく。
「俺……死んだのか?」
女神のような存在は静かに肯定した。
「しかし、あなたの思考能力、適応力、
そして“理を理解し書き換える力”が、この次元で必要と判断されました」
「この次元……?」
彼女は柔らかく微笑む。
「ここは“無”の境界。あなたがいた世界とは、まったく異なる次元です。
そこでは科学も文明も常識も通用しません」
「つまり、俺はこの世界では“異分子”だということか」
「その通り。しかし、異分子であるからこそ、可能性を秘めています」
彼女が手を差し出すと、掌に光が集まり、複雑な魔法陣のような図形が浮かび上がった。
「これがあなたに与えられたスキル、“電子改変”です」
「電子……?」
「あなたの世界でいう“電子”や“情報”の概念をこの世界の“魔法の理”に結びつけ、
物理や魔法の構造を改変する力です」
「要は、コードを書き換えるみたいに魔法を操作できるってことか」
「そう受け取ってください」
彼女は言葉を切り、視線を鋭くした。
「ただし、この力は世界を変え得る強大なものであり、使い方によっては破滅をもたらします」
「だから、慎重に扱いなさい」
彼女の声には厳粛な響きがあった。
「あなたはこの世界で異質な存在です。受け入れられないかもしれません。
それでも生きたいと願うなら、力を使い、理を変えていくのです」
その言葉と共に光が広がり、涼介の視界は白から緑へと塗り替わった。
ざわ……ざわ……
風が木々の葉を揺らし、小鳥がさえずり、遠くで獣が鳴いている。
目の前には果てしなく広がる大自然。
青い空、草原、深い森が続く。
「転生したんだな」
身につけているのは見慣れない布製のシャツとズボン。
ポケットには何もない。
スマホも財布も、何も残っていなかった。
スキルを確認しようと無意識に手を動かすが、画面のようなものは何も出ない。
「ゲームじゃないんだ……」
だが、確かに何かが自分の中にある。
《電子改変》というスキルの存在を。
森を歩く。
湿った土の匂い、草の感触、虫の羽音。
森の奥深くに進むほど、未知の生物の気配が強くなる。
昼間でも薄暗い森の中で、涼介は小さな川を見つけた。
水を飲み、喉を潤す。
「生きてるんだ……」
試しに手に石を取って集中する。
石の密度、硬度、結晶構造……数字と情報が頭に浮かぶ。
《石の密度を40%上昇、形状維持》
石はみしりと音を立てて重くなった。
「本当にできる……」
彼の力はこの世界にないものだった。
魔法でも精霊術でもない。
情報に干渉し、世界の理を変える異質な力。
夜が近づく。
森の中、涼介は動物の気配に気づく。
遠くに黒い影が見えた。
それは獣とも違う、不自然な存在だった。
「……何者だ?」
警戒しながら、涼介は《電子改変》の力を試す。
だが力を使うと、その気配は一瞬で消えた。
不穏な何かが、この世界にも存在することを予感させた。
翌日、涼介は森を抜け、小さな村にたどり着く。
木造の家々、畑を耕す村人たち。
自然と調和した生活。
村の門をくぐり、旅人として事情を話す。
長老は慎重に聞き、空き家を貸してくれた。
村の生活は静かで、火は「火の精霊」に祈って灯されていた。
風は「風の精霊」に助けられ、農作業は精霊の力で効率的に進む。
村人たちは自然との共生を重視し、無理に理を変えることはしない。
「この世界は、調和が何よりも大事なんだ」
だから、涼介の《電子改変》は異端だった。
理を破壊して再構築する力。
誤れば災いをもたらす。
「人前で使うわけにはいかない……」
ある日、赤い髪の女性が村に現れた。
背中に鋼の剣を背負い、筋肉質で引き締まった体躯。
鋭い目つきが涼介を見据える。
「お前が異分子か……いや、旅人か?」
「そう名乗ってる」
彼女はリオナ。
傭兵として外の世界を渡り歩いてきたという。
「この村は魔獣が増えて大変だ。力になってやる」
唐突ながら真剣な提案。
リオナは涼介を仲間として認めた。
夜、涼介は小屋の中で星空を見上げていた。
「現実世界の知識も、プログラムの癖も無意味じゃなかった」
この世界には当たり前がない。
だからこそ、彼の思考が力になる。
ただし、異分子としての孤独もつきまとう。
「俺は異物としてこの世界に来た……それでも生きていく」
空には一際明るく輝く星があった。
その星は、涼介の運命と、この世界の秘密を示唆しているかのようだった。
読んでいただきありがとうございます。次に出す2話もお読みいただけると幸いです