閑話「退屈という名の毒」
産声は、祝福の鐘の中にかき消された。
バオリナ共和国の王宮、星辰の間にて。
私は“理想の混血”として産まれたのだという。
五番目の子。第五王子、ランスーン。
だがそれは、ただの記号だ。
僕の価値など、混じり合った血統と、政略の“偶然”にすぎない。
周りにいたのは、ご機嫌取りの家来ども。
誰もが僕を「陛下候補」と呼び、口当たりのいい台詞しか吐かない。
侍女の手は冷たく、
楽士の音は騒がしく、
舞の香は、いつもどこか嘘くさかった。
そんなものに、価値などあるか。
僕が求めたのは、“本物”だった。
生きていると実感できる、痛みか、驚きか、崩壊か。
何でもよかった。
とにかく“退屈”という毒を塗り潰すものが、欲しかった。
そして、聞いたのだ。
白の聖女の噂を。
祈りの力で風を起こし、心を癒し、香を通して未来を示す女。
“本物”に違いない。
そう思った。
僕は間者を送り込んだ。
どうなっても構わなかった。
捕まれば、それも面白い。
崩れれば、それもまた愉快だ。
結果は──案の定、捕らえられ、導師たちは私を詰問した。
だが、笑いを堪えるのに苦労した。
「面白いおもちゃを見つけた」
心の底から、そう思った。
あれが壊れたら、どんな音がするのだろう?
誰を巻き込んで、どう崩れていくのだろう?
興味が尽きない。
この宮殿の僕の部屋には、
“人だったもの”の残骸が転がっている。
口を開いたまま笑っている者。
首だけが残っている者。
自分を王だと思い込み、最期まで礼を崩さなかった者。
壊れた人形は、僕の“おもちゃ”だった。
でも、白の聖女は――壊れないかもしれない。
……ならば、もっと見てみたい。
どこまで耐えられる?
どうすれば“本当に”壊れる?
その答えだけが、僕の退屈を打ち破ってくれる唯一の可能性。
──第五王子ランスーン。
彼の瞳には、祝福も希望も映らない。
ただ、退屈を殺すための「遊び道具」を探しているだけだ。




