閑話「祝福の器として、生きる」
光は、まっすぐに玉座へと差し込んでいた。
天窓の形すら計算された光線。
すべてが“神意の象徴”として演出された、この場所。
黄金と瑠璃の装飾に囲まれて、私は今日もまた、ただ座っている。
声を出してはならない。
歩いてはならない。
表情を変えてはならない。
――なぜなら、私は“象徴”なのだから。
議長会が議すのを待つ。
アーフラー導師の布告を受ける。
婚姻を強いられ、子を成し、
その子たちすら、いずれは私を乗り越え、玉座を奪うのだ。
私には選ぶ自由も、拒む力もない。
そう、王とは器。
祭祀の中心、見られるために置かれた“空洞の王”。
玉座の右には、私の第一妃。
左には第三妃。
彼女たちの眼差しは、すでに私ではない。
その向こうにいる、
それぞれの部族の誇りと、未来の王位継承者たちだけを見ている。
私の名を呼ぶ者はいない。
誰一人として、“私自身”を知ろうとはしない。
……それでも、私は祈る。
それが王の義務であり、唯一許された“内なる行為”だから。
けれど、祈りとは何だ?
神に捧げるのか?
民の繁栄を?
議長会の安寧を?
それとも、今この瞬間も、孤独に崩れかけた己の魂を?
私は知らない。
誰も教えてくれなかった。
だから今日も、祈りのふりをして空を見上げる。
「……こんな国、滅んでしまえばいい」
その言葉を、口にはできない。
吐いた瞬間、私は“器”ですらなくなるから。
ただ、心の底で呟いたその一節が、
誰にも聞こえないはずの空虚へと、静かに消えていった。
光は変わらず、玉座を照らしている。
この国にとって私は、今日も“完全な飾り”だった。
そして明日もまた、きっと。




