閑話「風が足りない」
「……人手が、足りないね」
ヴァルターが執務室の長机に身を預け、書類の山を前に小さくため息をついた。
ラセルナ支部が本格始動して数日。 最低限の机と椅子は揃ったが、日々届く申請書や報告書に、整理しきれない紙束が机の端まで迫っていた。
「内装はこれから、書類は山盛り、来訪者もぽつぽつ……。
支部が風に乗って動き出したのはいいけど、風を運ぶ人がいないと回らない」
「つまり……スタッフが必要ってことだよね?」
しらたまが目を瞬かせながら言うと、ヴァルターは指で紙をつまみあげ、ふっと笑った。
「うん。実はもう仮で文面を作ってあるんだ。広場の掲示板に貼り出すつもりだったけど……ちょうどよかった、読み上げてみてよ」
渡された羊皮紙を、しらたまは受け取って目を通す。
『【募集】ラセルナ支部 スタッフ急募』
風の街・ラセルナに生まれた新たな拠点。
人と人をつなぎ、祈りと日常を見守るこの場所で、共に働いてくれる方を募集します。
■業務内容:書類整理、受付、雑務、子ども対応など
■給与:月銀貨1枚(昇給・手当あり)
■資格:読み書きができる方/年齢性別不問/心に優しい風を持つ方
応募は風見草亭の掲示板または支部まで。お気軽にお声がけください。
担当:白き星の風・しらたま
「……えっ、わたし、担当なの?」
「うん。君の名前があれば、町の人も安心するだろう?」
ヴァルターはいたずらっぽく笑う。
「それに、“白き星の風”の名は、今じゃこの町じゃちょっとした看板だからね」
しらたまは紙を持ったまま、ぽつりと呟いた。
「……看板になるなんて、思ってなかったよ。でも……」
ゆっくりと視線を上げ、風の吹き込む窓の方を見る。
「ちゃんと、ラセルナの風になれたら……嬉しいな」
「なれてるさ」と、そっとルーベンが本から顔を上げて言った。
「今、ラセルナの空気は確実に変わり始めてる。お前の風が、そうしてるんだ」
その日の午後、しらたまとヴァルターは連れ立って広場へと向かった。
そして、広場の掲示板の一角にその羊皮紙を貼り出す。
通りかかった町の子がそれを指差し、大人たちが足を止めて読む姿が見えた。
ラセルナに、新しい風がまたひとつ、吹き込んでいた。




