9.誰か呼んでる?
パンを食べ終わったあとに、みんなでミルクを飲んでひとやすみする。
お喋りをしているうちに、森の中も暗くなってきた。
枯れ木を集めたあと、火を付けてもらってたき火をする。
「フィロ、疲れただろう? 明日また少し歩かねばならないからな。そろそろ休むといい」
「うん。ありがとう。ラグお姉さんは?」
「私はまだ眠らなくても大丈夫だ。フィロは子どもなのだから、遠慮しなくていいのだぞ」
「そうなのかなあ? じゃあ……おやすみなさい」
ごろんと土の上に横になると、ラグお姉さんが僕の頭を持ち上げて膝の上に乗せてくれた。
見上げると、優しく笑ってくれている。
「ラグお姉さん?」
「これくらいはさせてくれ。ベッドじゃなくてすまないな。おやすみ、フィロ」
ポイも僕のポケットの中に入ってきたから、一緒に寝る時間だ。
お姉さんに撫でられていると、安心して眠くなってくる。
ゆっくりと目を瞑った。
僕にもお母さんがいたら、撫でてもらいながら眠ったりしてたのかな。
ラグお姉さんみたいなお母さんだったら、いいのになあ。
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次の日、ぐっすりと眠った僕はそっとラグお姉さんの顔を覗き込む。
ラグお姉さんも目を瞑っていて、座ったまま眠っているみたいだ。
「ん……ポイも起きたの? じゃあ、静かに起きよう」
「……ピ」
そっとラグお姉さんから離れて起きる。
葉っぱの隙間から日が差し込んでいるから、朝になったみたいだ。
「ふわぁ……もう朝か。おはよう」
「あ、起こしちゃってごめんなさい」
ラグお姉さんも僕が離れたあとにあくびをしながら、ぐぐっと腕を伸ばしていく。
朝ごはんもパンしかないから、森の中に何かあるといいんだけど。
僕がきょろきょろとしていると、ラグお姉さんが急に立ち上がった。
「どうしたの?」
「ふむ……。誰か助けを呼んでいるようだ。フィロも聞こえるか?」
ラグお姉さんが指をさしたので、僕も指の先を向いて耳をすます。
すると、助けてって言っているのが聞こえてきた。
「ラグお姉さん、僕にも聞こえた!」
「ここから遠くない場所だ。様子を見に行ってみよう」
ラグお姉さんが手を差し出してくれる。
僕はかごを左手で持ってから、右手でお姉さんの手を握る。
静かに走り出すと、ポイも飛びながらついてくる。
ラグお姉さんは迷わずに、声が聞こえる方向に進んでいく。
僕もいっしょうけんめい走ってついていく。
しばらく走り続けると、ラグお姉さんが振り返って僕にかがむようにと言ってから僕の頭をポンと押した。
ポイと僕は木の陰に隠れる。
顔を少しだけ出して覗くと、じたばたと暴れているふさふさとした何かが見えた。
檻のようなものに閉じ込められている。
ガンガン身体をぶつけているけど、出られなくなってしまったみたいだ。
「あれは……キツネか? 身体が小さく見えるから子どもかもしれないな。人間の罠に引っかかったみたいだ」
「どうしよう、ラグお姉さん」
僕がラグお姉さんを見つめると、ラグお姉さんは心配するなと言ってから僕の側を離れて檻の方へ近づいていく。