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第三話 海戦の開戦

 白いペンキを塗った金属を天井、壁、床に使った廊下に俺はいる。幅は狭く圧迫感がある。辺りを見渡すが全く見覚えがない。どうしたものかと口をあんぐりと開け、棒立ちになってしまう。

 「てっきしゅうらい、そういん、はいちにつけ」突然、しっかりとした口調の放送が鳴り響く。放送を合図に部屋から飛び出した男達が慌ただしく動き回る。

 見慣れない服装をした十代から三十代と思われる男達の声や足音が廊下に充満してくる。彼らの服装を例えるなら、黒の学ラン、下はズボンの白いセーラー服、深緑色のツナギ、白いツナギに近いだろうか。ほとんどの者が服と同じ色の帽子をかぶっている。急ぐ人に道を譲るために壁側に寄る。側から見る彼らの表情や目つきの険しさから緊迫感が伝わってくる。機敏にそつなく行動している。冷静さは保たれてるみたいだ。何が起きてるか知りたくて、彼らに話しかけようとするが最初の一言が出てこない。

 我に返り、灰澤の言葉を思い出した。『第二次世界大戦』今は第二次世界大戦の仮想体験をしているのであれば、先程の放送は「敵機襲来。総員、配置につけ」だ。急激に肩と首に強い力が入るのがわかる。

 さっきから微妙に廊下が揺れている。俺は船の中にいるのだろうか。早く確認し安全な場所に移動したい。船なら出口は上だ。廊下を早い足取りで進み、すぐに階段を見つけた。一段ぬかしで駆け上がり、呼吸を整えてから扉を開ける。

 その瞬間、温かな空気に全身が包まれた。眩しい日光の不意打ちに目がくらむ。反射的に目をつむった時、耳をつんざく、けたたましい爆発音に思わず後ろによろけてしまう。背中が壁にぶつかり、寄りかかる姿勢になった。片手を目の上で水平に広げて影を作り、爆発の方角を確認する。

 海を隔てて、それほど遠くない距離に巨大な軍艦のようなものがある。その平らな屋根からは巨大な炎と黒煙が立上がっている。屋根の上では白いツナギを着た人達が逃げ回ったり、倒れている。屋根には複数の白線が端から端まで引かれ、大きな赤い丸が描かれている箇所もある。赤丸から放射線状に太い赤線が幾つも伸びるデザインの旗も掲げられている。日本の軍旗だ。

 もう一度見てみると濃い緑色をした戦闘機が屋根の後方に停められている。平らな屋根は滑走路で、軍艦ではなく空母だ。そうすると今立っている場所はあの空母の滑走路と似た作りになっているので、俺は別の空母に乗っている可能性が高い。

 俺の思考は戦況に邪魔された。薄い雲が点在する青空に、おびただしい数の銃弾、砲弾、戦闘機が、縦横無尽に凄い速さで飛び交っている。発射音、プロペラ音、爆発音、衝突音に体がいちいち反応してしまう。戦闘機が攻撃を受け炎と黒煙を上げ、すごい勢いで水面に突っ込んでいく。次の戦闘機は片方の翼が破壊され回転しながら墜落していった。焦げ臭い匂いが漂ってくる。

 やばい。死ぬかもしれない。今は乗っている空母は無傷だが先のことなんてわからない。口の中や喉が渇きっている。呼吸が浅く早くなり、上手く肺に吸いこめない。顔から大粒の脂汗が吹き出す。

 またしても大きな爆発音がする。先程爆発した空母の別の場所から爆発が発生した。もう一度攻撃を受けたのだろうか。

 学ランのような軍服を身につけた男性がブツブツ言いながら眉間に皺を寄せ近づいてくる。

「何をしている。航空隊に出撃命令は出ていない。今すぐ艦内に戻れ」

「……」

「おい、お前。直ちに行動せよ。この状況がわからないか」

 現実感覚や学ラン軍服男の言葉が遠のいていく。目の前にチカチカ光る粒のようなものが多数見えて視界が急に暗くなっていく。素早く俺の脇の下に学ラン軍服男が肩を入れ支えてくれる。

 

 狭苦しい相部屋のベッドで俺は横たわっていた。「間もなく出撃命令が伝達されるから、それまでにしっかり回復しておくように」、と学ラン軍服男から指示されていた。

 ベッドに腰掛けうつむくと、今まで気づかなかった俺の服装が見える。首に白い布を巻き、肩と胸に日の丸のワッペンが縫い込まれた深緑色のツナギとベスト、ハーネスを身につけている。この仮想体験での設定では、俺は戦闘機のパイロットみたいだ。

 あの光景を見てしまった今となっては出撃なんて考えられない。生き残れる気がしない。そもそも戦闘機なんて操縦できない。

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