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第二話 転移へ突入

 指定された二階建てのアパートの一室を訪れた。インターフォンを押すと、分厚いメガネを掛けた中年太りの男がドアを開ける。にやりと気持ち悪く微笑んで「高見沢さんね、こちらへ」と言うと玄関に招き入れられる。本棚、段ボールがびっしり並ぶ狭いリビングに通される。キッチンの流し台からキムチラーメンの匂いが僅かに漂ってくる。

 その男は灰澤と名乗った。俺は、菓子パン、カップ麺、ティッシュ箱が雑然と置かれたテーブルの反対側に座った。

「僕の理論が時代の先を行きすぎてね。教授も他の研究員も付いてこれなくてさ。全く、レベルの低い連中だよ。もう話してても埒が開かないから、博士課程は辞めて、今は一人で研究してるんだよ」

「かなり時代の先をいく感じなんですかね」

「もちろん。僕は時間が経って後世の人から高く評価されるタイプなんだろうな」

「脳内伝達を刺激するって書いてありましたけど、安全性とかって大丈夫なんですか」

「大丈夫だよ。説明すると長くなっちゃうから、簡単に言えば外から安全な量の電気を流すだけだよ」

「少しだけ安心しました」

「安全性を証明するために、こうやって被験者を探してデータを集めてるところなんだ」

 灰澤は、優秀な科学者気取りに身振り手振りを加えながら説明を続けた。あくびを噛み殺しながら必死に聞いた。この機会を逃したくなかった。

 その後に、事務的な話に移った。守秘義務があること、被験者のデータを取ること、被験者の心身への影響には責任を負わないことが伝えられた。最後に灰澤は同意書への署名を求めた。学生時代にやったことのある新薬の治験モニターのアルバイトと似たり寄ったりの内容なので、俺は大丈夫だろうとたかを括った。何よりも早く体験したくて署名をした。


 灰澤は休憩時間を取ると言い残しキッチンの換気扇の下でタバコを吸った。戻ってきた灰澤はそのままリビングの奥の襖を開けると、そこには所狭しとマッサージチェア、タンス、デスクトップ型パソコン、モニター、多数のケーブルが置かれていた。

「高見沢さん、今あるプログラムは二つ。第二次世界大戦か。戦国時代。両方共、兵士ね。どちらがいいかな」

「中世ヨーロッパの騎士はありませんかね」

「ごめん。それはないんだ。ネットで問い合わせくれた他の人にも聞かれたな。今、人気なの?」

「ライトノベルが好きな人なら体験したいんじゃないですかね」

「そっかぁ。今度検討するよ。今日はさっきの二つから選ぶしかないけど、どうする」

「分かりました。じゃ、第二次世界大戦でお願いします」

 灰澤に促され、俺はシートを倒したマッサージチェアに横たわり、VRゴーグルとイヤフォンがついたヘルメットを被った。目の前は真っ暗になり、音も聞こえづらくなる。遠くでキーボードを叩く気配がする。昔、遊園地で遊んだVRゴーグルを被って振動する椅子に座るタイプアトラクションを思い出していた。


 いつのまにか眠りに落ちていたのだろう。目を開けば別世界だった。

 

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