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第一話 転移への誘い

 一件のメールを受領した。超転移型VRの被験者応募資格を満たしたので面接に来てほしいという内容だった。日時と場所が指定されていた。


 その前日。 

 夜の混み合う電車内、窓ガラスは暗い鏡のように車内を映している。正面には寄り掛かるように吊り革を掴む俺がいた。凹凸の少ない面長の顔に標準サイズのスーツを着た平凡な二十代。窓に向けていた視線をスマホに落とすと親指を動かし始める。今の状況を描写しているのだ。先日、小説の添削で描写力の不足を指摘されていた。

 描写を読み返す。修正しようとするが、液晶画面をなかなかタップできずに時間ばかりが過ぎてしまう。結局、全部削除してアプリを閉じてしまった。次に別のアプリを開きアクセス数を確認する。半年以上連載しているライトノベルは昨日に比べて2PV増えただけだ。サイドボタンを押してスマホをロックした。壁紙は軽井沢の別荘地の風景だ。会社員を辞めた後に、プロのライトノベル作家として儲かったら移り住みたい場所なのだ。

 どっと疲れが押し寄せてくる。頭の中が散らかり放題の汚部屋になったみたいだ。考えがまとまらない。プロット、ログライン、描写、地の文、小説に関する知識が入り乱れて絡まり合い、どこから手をつけていいか、どこに収納したらいいかわからない。目の奥が痛み出してくる。しばらく目を閉じてやり過ごしていると次の停車駅を知らせるアナウンスに、はっとなり慌てて下車した。

 夕食を食べ終えたハンバーガー屋のカウンター席。スマホ画面の検索結果には、小説講座、ノウハウ本、解説動画などが並んでいる。既に試したが思うような描写力改善には繋がらなかった方法ばかりだ。新しい方法を探そうとキーワードを変えて何度も検索を続けた。

 どれくらいの時間が経っただろうか。思わずスクロールを止めた。『超転移型VRの被験者募集』気になりクリックして開いてみる。すると、文字ばかりの飾り気のないウェブサイトが現れた。

『鮮明な想像力を身に付けられる。脳内伝達物質に刺激を与え、VRで他人に転移する仮想体験。知識や訓練は不要。体験するだけで短期間で効果を実感。料金は無料』

 音楽を止めイヤフォンを外す。隅から隅へ読み進める。スクリーンショットを取り、メモ帳アプリに重要な部分をコピー・アンド・ペイストする。

 ビクッと体が反応した。そこには、最初の閲覧から一時間以内の申し込みが必要と書いてある。即決できる能力が被験者に必要、若干名を募集、二日間で締め切るという理由が書かれてあった。訪問者のIPアドレスを記録し二回目はアクセス拒否することも添えられている。画面左上の時刻を見るとまもなく閲覧から一時間が経過しようとしていた。急いで応募フォームに、自分の名前、高見沢研二から順番に記入を始める。なんとか時間切れにならず申し込みを終えると、背もたれに体重を預け全身脱力した。残ったコーラを一気に飲み干す。店を出ると電気を落とした看板が多い。何人か駅に駆け込んでいった。終電だろうか。

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