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序章2

 とある王国の城下町、この街の中でもに伸びた特に目を引く建物がそこにはあった。縦に高く伸びた建造物の頂点には十字架のオブジェが掲げられており、街の住民はおろか外から来た人間にも一目で教会と理解できるであろう。辺りは少し離れた市場での喧噪がかすかに聞こえるくらいに静まり返っているが突如怒号と笑い声の混ざった叫喚が教会の入口から放たれた。


 バーンッと勢いよく開かれた扉からは数名の幼子に始まり、続けて若年の女の子が追うように飛び出てきた。


 「「「きゃはははは!!」」」


 「こらぁーーーっ!!待ちなさーーーーい!!!あっ...!」


 ようやく追いつきそうになった女の子であったが足を詰まらせヘッドスライディングのように派手に転げてしまう。そんな様子を見かねた幼子たちは駆けていた足を止めうつ伏せになったままの女の子に近づいていく。


 「...姉ちゃん、ほんっとどんくせぇなぁ...」


 プルプルと震えながら背中で悪態を受け止めていた女の子であったが急に起き上がったと思うと幼子たちに覆いかぶさるように飛び掛かかり組み伏せた後にくすぐり攻撃で先ほどのうっ憤を晴らすかのように反撃した。


 「あんたたちが…悪いんでしょうがーっ!!!」


 やがて観念した幼子たちはばつが悪そうにそそくさと教会の中へ駆けていった。そして入れ違いで壮年の女性が出てきて女の子に近づく。


 「随分と、あの子たちに好かれていますね」


 優しく微笑みながら話しかける女性の慈愛に満ちた表情は女の子への愛情が容易に見て取れるほどであった。


 「遊ばれてるだけですよっ!!」


 そう言いながらぷくぅと膨らませた頬は薄く紅潮しており、それを見た女性はさらにフフッと微笑みかけながらしゃがみ込みローブから伸びた白く細い手で女の子の顔についた小さな葉や軽い土を優しくはたいた。


 「ここに来たばかりの頃はくすりとも笑わなかったあの子たちの笑顔が日に日に増えています。まぎれもない...貴方のお陰ですよ。それに...きっとあの子たちもお別れが寂しいんでしょう...これまで、本当にありがとうね。」


 女の子はその優しい言葉にさらに頬を紅潮させ照れくさそうに俯いた。


 「孤児として貴方がまだ赤ん坊の頃にここに来て...もうこんなにも立派に育ってくれたのね。たとえここを出て行ってもあなたはいつまでも私の大切な宝物よ。心配しないで、あの人たちは私の昔からの友人なの。きっとあなたをこれまで以上に成長させてくれるわ。」


 俯きながら聞いていた女の子はガバッと女性に抱き着きわんわんと喚きながら乾いた土を湿らせていった。


 「シッ、シスダーッ、いっ、いままでありがどう、ございまじだっ...」


 たくさんの言葉が溢れてきたが爆発した感情の前ではお礼を言うことだけで精一杯であった。


 やがてしばらくの時間が経ち落ち着きを取り戻した女の子はゆっくりと女性の胸の中から離れ並ぶように横に座りこれまでの思い出をお互いに語り合った。そして思い出話が佳境に入ったところで急に後方から足音と共に男女の話し声が聞こえてくる。


 「ほら、やっぱり少し早かったんじゃない?」


 「時間通りよ。それにあんたあのまま街で道草食ってたらここに来る頃には夜になってたでしょ。」


 「ははっ、否定できないかなぁ...」


 先に後ろを向いた女性はハッと懐中時計を確認し女の子の背中をポンと叩き語り掛ける。


 「もうこんな時間...ほら、来たわよ」


 振り向いた女の子の視界に入ってきたのはパリッとした真っ白のシャツに薄手のジャケットを羽織り、肩に帽子を被った黒猫をのせた一見怪しく見える男の姿であった。


 「やぁ、君がアズかな?僕はオッド、それと...」


 男が言おうとすると黒猫は肩から飛び降りアズの正面まで近づき口を開く。


 「シアよ、よろしく」


 言葉を話す猫を前にアズの開いた口はしばらくふさがらなかった。

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