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二人の日常

愛姉さんは夕食の支度、恋姉さんはテレビ、僕は宿題、それぞれの持ち場(?)について作業を始める。一人のテレビに作業はいらんのだが、突っ込みはいれないでほしい。


やる気満々の姉Aは宿題をしてる時は必ずやって来てあーだこーだ言ってくるので、最近の僕は姉Aが夕食の支度やら、風呂やら手が離せない時に自室で宿題をやるのが日課だった。


あの双子、成績はとても良い、愛姉さんはわかるのだが、恋姉さんは理解できない、理解不能。基本的にテレビ見たり、ドラマ見たり、バラエティ見たりしてるし。テレビ大好きっ娘だ。


テレビにそんな隠れた力があるのか?


たしかに知識が入る媒体ではある。しかし、手に入る知識は基本的に雑学が基本かと思う。僕もテレビは大好きだから何も言えませんがね。


耽ってないで宿題宿題。


「悠くん」


ドアが突如開かれ、恋姉さんが顔を出した。


「とりあえずノックくらいしようよ。それでどうしたの?」


「宿題を手伝いに、愛ちゃんが行けって」


双子の姉妹という特性を生かした遠隔攻撃だと!?流石は愛姉さんだぜ……………


ちょっと少年漫画みたいなノリにしてみたが、内容が生活感ありすぎて駄目だな。


「なに、百面相? 何だか驚いてみたり苦い顔してみたり、何かを納得したみたいにうんうん頷いたり」


冷静に一つ一つ片付ける突っ込みを入れられると結構くるものだね。何だか心が軋むや、あはは。


「解らないとこある? 早く任務を遂行してテレビに戻りたいの」


「そんなにないから良いよ。こういうのは自分で調べなきゃ身につかないからね」


「偉いっ!!!!」


バタン、と扉を壊さんばかり開けてに愛姉さんが乱入してきた。


「偉い! 偉いよ悠くん! そんな偉い悠くんにはおかずの唐揚げサービスプラス、私からの撫で撫でプラスゆうくんからの撫で撫でをプラスだー!」


縫いぐるみと人の手に頭を撫であげられながら僕は思う、このはしゃいでる顔文字みたいな表情で喜んでるこの人の優先順位は僕が上位なんだな、と。


別に自惚れてるわけじゃない、愛姉さんは僕の両親に言いつけられた言葉の使命感で僕を優先してるんだ。


………昔からこんなだった気もしないでもないけどな。


「………はぁ、テレビ視よ」


捨て台詞を残して恋姉さんはそそくさと退散した。幽霊みたいに気配を消しながら。


僕は大きな溜め息を一つ吐いて、撫で地獄に身を、というか頭を委ねた。








「悠くんが立派な考えを持ってくれて私は嬉しいよ。やっぱり悠くんは良い子だもんね、お姉ちゃん達も鼻高々だよ」


頬を固めていた素材がなくなったように表情をふにゃふにゃにして笑いながら、愛姉さんは相変わらず僕を褒めていた。


「愛ちゃんそろそろいいでしょ。お腹減ったよ」


もう限界らしく恋姉さんが疲れた表情で愛姉さんの言葉を区切った。


疲れた表情なんて言ったが、当事者の僕すらもそろそろ疲れて、多分全身で疲れを体現してる。


「えー、ちゃんと良いことした時はしっかり言わないと。勿論悪いことしたら戒めを込めてもっと言わなきゃだけどね」


最後に『悠くんは悪いことなんてしないよね?』という笑顔と視線と発言を残して愛姉さんは食事を始めようと箸を配り出した。



表情や視線だけでなくやっぱり言葉にしてんじゃん、って突っ込みは置いておいて欲しい。


箸を独占されて、兵糧を攻撃されている我が軍は全面降伏しかないのだから。


恋姉さんと同時に僕は溜め息を吐いて、恋姉さんと顔を見合わせ二人で小さく笑った。


「えっ? なになに? なんで二人で笑ってんの!? なんでなんで私は除け者?」


そんな事を言って愛姉さんが泣きそうになってるが、箸を手に入れた我が軍は涙程度では屈しない。

……………嘘、嘘です。流石に泣かれたら勝てません。というか泣く前に降伏です。


「いや、姉さんは可愛いなって」


誤魔化しに言ってみた。


「え? えへへぇ…………」


気味が悪いくらい嬉しそうだ。

「しかたないなぁ、唐揚げさらにプラスだ」


「さんきゅ」



そんな僕達のやり取りを見て、恋姉さん再度ため息を吐くのだった。



あれ?


何かおかしい、目の前で二人の女の子が笑ってる。でも、僕には違う映像が映る。


バチッ!


まただ、また頭の中で何かが弾ける。


弾ける度に違う映像が今の世界に割り込むように映る。


バチッ!


「ねぇ、僕と愛姉さんと恋姉さん、後誰かいなかった? いつももう一人いて、一緒にご飯食べてなかったっけ?」


はい?なんだこれ?


僕の声、僕の口、僕の体が勝手に何か口走っている。もちろん僕は、この言葉を意識して言ってなんかいない。


バチッ、という音と共に反射的に体が勝手にやっているんだ。体と意識が乖離してしまったような、飛んできたボールを避けるような感覚。大きな違いは『危ないと思う前に体が避ける』のと『危ないと思う筈なく避ける』今は後者に近いだろうか。全く僕はこの言葉を言いたくはないのだから。


恋姉さんも愛姉さんも僕の意識と同じ顔をしている。


「もう一人? 悠くんのお父さんとお母さんがいたら話は別だけど、もう一人って言われると分からないよ」


そりゃそうだ。僕だって全く理解できないのだから。


「大丈夫? 漫画の読みすぎゲームのやりすぎじゃない?」


そんな風に言ってくれる恋姉さんがこの時はひどく助かった。


ようやく動かせるようになった体で、僕はその言葉に軽口で対応して、何の味もしなくなった夕食を終えた。






夜、双子は帰宅し、静かになった一人では広い家の自室で電気もつけずに窓から外を眺めていた。


窓から見える景色は高所から見下ろすように見える町並みなんてわけはなく、お向かいの上林さんの家だ。


ただ今は何をするでなく、ボーッとしていたい、頭の中を真っ白に出来ないとしても頭の回転を鈍くすることは考えなければできると思った。


まぁ、当然そんな事はないらしい。頭は勝手に働いてさっきの情報を押し付けてくる。それを考え、頭を回転させなければ頭のダムは決壊、崩壊してしまうだろう。


考えたって答えなんて出るわけないんだから、考えても無駄、でも考えなければ、そんな思考さえ頭を悩ませる。


僕は布団に入って頭のスイッチを強制的に落とす事にした。絶対にこんな状況じゃ寝られるわけはないだろうと思ったけど、体も眠る事で精神の崩壊を止めようとしてくれてるらしい、僕はすんなり眠りに落ちていった。








悠、本当に悠は私にぞっこんだね、ぞっこんらぶ!


うっさいな。そういう君はどうなんだ?


ぞっこんらぶだよ!



バカっぽいな。


うん、ぞっこんバカだよ。


なんだよそれ。


じゃあさ…………








砂嵐、暗転、テレビと一緒、いや、テレビが一番イメージしやすかっただけだろう。


僕はそんな幸せな情景を第三者として見ていた。情景なのだから、僕が関係ないわけない、だって、名前を呼ばれたし、あの悠は間違いなく僕なのだから。


「やぁやぁ、元気かな? あっ、そんなわけないか」


そんな無情で風情のない夢の中で一人の少女に出会った。


夢だとわかってるのに、今は随分頭が回る、自分の意思をはっきりさせられる。


「やぁやぁ桜井君、どんな気分だい? 自分があるのかないのか、事実なのか虚構なのか、生きているのか、死んでいるのか」


最後の問いだけ深く僕に突き刺さった。

なんで、なんで生きている僕がこんなに動揺する?心臓が早鐘のように鳴っているのはなんでだ?


「君は誰?」


僕が悪夢の中で出せた言葉はこの一言だけだった。


「女神様だよ。あなたの恋人も兼業してますがね、シシシっ」


彼女の奇妙な笑い方だけが妙に耳に残った。










朝の目覚めは最悪の中の最悪、とてつもなく頭が重い。


「風邪ひいたかな」



理由はもちろんわかっているのだが、態と口に出して体が理由を錯覚しないか試してみたが見事失敗。


「クソッ、なんだってんだ…………」


昨日の夢、夢らしく纏まりはなく、夢らしく適当で、夢らしく意味不明。


一体何がズレてるんだ。何がおかしいんだ。


おかしいという前提は捨てきれそうもない。おかしい世界でなけりゃ、あの時の屋上での映像や食事の時の映像、後夢が説明つかない。


また思考のループに陥りそうになった僕は、頭を切り替えるために着替えて、階下に下りた。


「あっ、悠くんおはよ! 早いんだねぇ、やっぱり悠くんはいい子だ」


朝から元気溌剌天真爛漫の愛姉さんは僕の頭を撫で回しながら高笑い。なんだか救われる気がする。


今こうして撫でられるのが、壊れそうな現実という認識を再確認しているような気分になれた。


「悠くん……………やほ」


「恋さん、朝の挨拶はそれじゃおかしいですよ」


場所は居間、朝食の準備が着々と進んでいる様子、台所から現れたこの人は誰だ?



恋姉さんの横に立って気持ちのいい笑顔をしているこの女の子は誰だ?


「君は……………誰?」


こんなテンプレな聞き方が今の僕に出来る最大の行動だった。

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