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二つの真実

重い鉄扉を開けて、屋上へと進み出る。夕焼けが目に染みて思わず手で陰を作る。


辺りを見回す。


「なんだ………やっぱり悪戯か……」


期待はしてなかった。そりゃ全くと言われれば嘘になるけど、やっぱりベタな恋愛物語を望む僕としてはこんなシチュエーション望みまくってる事なのだが。どうやら今回は何もなし。


「早かったわね」


「えっ?」


その声が聞こえた方に振り返ると人が空から降ってきた。


流石にそれはおかしいと思って目線を人より上に上げると、給水塔、どうやらその辺りから跳んだだけらしい。十分に危ない。


「君がコレをくれたの?」


僕は持ってきたラブレターを見せる。


やっと相手を確認するが、髪が長くて前髪で表情がよく読み取れない。あんな前髪じゃ不便だろうに、それが第一印象。


「そうよ。ちょっとアナタと話がしたくてね」


うん?何だかこれから告白されるような空気じゃないな。威圧的で高圧的な態度が彼女からは滲出てる気がする。


そんなことを考えてると彼女はゆっくりと此方に近付いてきた。


「ねぇ、桜井悠、アナタは事故にあった事がある? いえ違うわね。事故を見た事がある?」


事故?急におかしな事を聞いてくるな。


「いや、ないよ。つか、こんなことを聞くために態々呼び出したのか?」


「えぇ、大事な事なの。後、年上には敬語を使うべきね」


彼女の口許が笑った。年上だったのか、それと何が面白いんだ。


「………あるのよ。事故あったの」


会話が続かなくなって、冷たい風に身を小さくしてたら風に消え行きそうな声で聞こえた。


まるで自分にも言い聞かせるように彼女は呟く。


「貴方が、ですか?」


指摘された事なのでちょっと遅れ気味ではあるが、敬語を付け足す。付け足す物ではないが。


「いいえ、桜井悠がよ。正確には桜井悠が姉と呼んでた人が」


「なに言ってるんですか? 全く意味が解りません」


なんだこの人、怪しいとは思ったが電波か、それか誰かと勘違いしてるのか。


同姓同名の桜井悠さんそろそろ出てきて代わってください。


「うん、信じれないよね。でも、事実だから」


そう言って彼女は更に一歩僕へ踏み出し、細くて小さな手が僕の頬に触れた。


バチッ!


静電気が起きたような音、どこで、触れられた所?違う頭の中だ。


バチッバチッ!


断続的に頭の中で電気の音が続く。

「ゴホッ、ゴホッ………がぁ………」


僕は立ってらんなくなって膝を付く。世界がグルグル周り、吐気と頭の痛みだけが僕の中で弾け続ける。


「辛いね………辛いね、もう少しだから……頑張って」


のたうち周りそうになってる僕の頭を彼女は優しく抱いてくれた。顔は見えないが、泣いてる気がする。


電気の音がする度に何かの映像が頭に流れ込んでくる。焼き付いた赤と、流れる赤と、壊れそうな赤。


赤と朱と緋、夕焼けと血と記憶、


「……………がぁぁぁぁぁ!」


自分でも意識はしてないのに急に口が吠えたと思ったら、痛みが終わった。消えた、あれほど痛かった頭がスッパリ消えたのだ。


残ったのは十二月だというのに馬鹿みたいな汗をかいてる自分、息も整えられなくて荒い。


「なに、これ?」


「思い出した?」


「ああ、思い出したと言えば。この記憶なんだよ、いつ起こったのかも、どうなったのかも覚えてない」


いい加減縫いぐるみのように抱かれてるのも恥ずかしいので、無理矢理足にいうことを聞かせて立ち上がる。汗をかいたせいで十二月の風が酷く寒く感じる。


「でもあったのは事実、アナタが慕う双子の内どちらかが事故にあったか、はたまた全く違う人を姉と呼んでて、あの双子は偽者か」


「SFチックだな。でも、全部ちゃんと記憶あるし、あの双子は昔からの僕の姉さんだ」


彼女は自分の頬に手を当てて何かを考える仕草をする。


「その記憶も偽物かも、一つだけ私が言える事は今この世界は間違っている。あの事故がなかった事になり、世界が帳尻を合わせた姿が今。もしかしたらあの双子は双子じゃないかもしれない」


『もしかしたらあの双子は双子じゃないかもしれない』本当に電波な会話だ、痛々しい、でも思い出した以上は何も言えない。この記憶が嘘じゃないのは不思議と確信だった。


「君は誰? ですか?」


そういえば敬語を忘れてた。いつの間にか普通に喋ってしまっていた。


「私は私、さっきはああ言ったけど敬語はいいわ。自分でもよくわからなくてね、このズレた世界がアナタの記憶が綻びになってる事だけを知って、世界を直す事だけを使命にされた謎の人よ」


「謎の人ねぇ………名前教えて欲しかったんだけどな」


保科美雨ほしなみさめ


名前だけ言うと彼女は踵を返し、屋上の鉄扉へと歩いて行ってしまう。


「待ってよ保科さん」


なに勝手に帰ろうとしてるんだ。こっちはまだまだ聞かなきゃいけない事が山ほどあるんだ。


「美雨、名前がいい」


保科さんは背中を向けてそう言った。


「なら改め美雨さん………とりあえず一緒に帰りません?」


「………」


振り向いた彼女の表情はやっぱり長い前髪で読み取れはしなかった。








「うふふ………」


何やら謎の暗いオーラを発しながら、ハンバーガーを食べてる女子高生、異質である。


帰りを誘いはしたが、美雨さんがどうしてもと言うので少し周り道をして駅前のファーストフード店へと移動した。


「ハンバーガー好きなんですか?」


こっちはフライドポテトをもぐもぐしながら言ってみる。


ズビシッ!と擬音がつく位ハッキリと人指し指を指された。


「ハンバーガー最高、ハンバーガー勝利、後、敬語いらない」


最初は自分から敬語使え言うたのに…………


「結局美雨さんが何者か解りません。学年は?」


「一つ上、ちなみに双子と同じクラス」


「あれ? 居ましたか? よく行くんだけどな、あのクラス」


流石に前髪で顔隠してる女子生徒なら、嫌でも目に入って覚えられる自信があるぞ。


「それも綻び、私が姿を現したのは最近、気付いたらアナタの記憶と共にあそこにいた」


「…………まじで不思議な話になってきた」


本気でこの会話聞かれたら病院に送られそうだ、精神的な。ちょっと隅っこの席を取っておいて本当に良かった。


整理すると、彼女、美雨さんの話を全て肯定すると、

・僕は姉と呼んでた人が車に轢かれるのを目撃している。


・だけどそれが誰だか思い出せない。


・僕が姉と呼ぶ人はあの双子と推測される。もしくは他の全く違う誰か。


・だけど今いる世界にはそんな事実は存在しない。


・この世界が偽りで、事故あった世界とは別の世界にいる。


・美雨さん曰く、あの双子のどちらかが事故にあっている可能性もあるし、実は双子じゃなくて一人で、もう一人は付け足された。


以上。


…………付け足されたってのが一番意味がわからない。なんで世界が綻んで人が付け足される必要がある。


「私事だけど、なんだかあの双子に違和感があるの。私みたいにいるようでいない存在、もしかしたら本当の世界では一人の可能性がある………あくまで可能性」


「……………」


「姉として慕ってるものね。認めたくないのは分かる。気分を害さないようにあくまで可能性として考えておいて」


次に、一番簡単な結果を出すと。保科美雨が言ってる事を全て否定する事、それとこの記憶は美雨が超能力か何かで植え付けてきた。と無理矢理こじつければ全部終わる。


世界が偽物だ、なんて突拍子もない事を言ってるんだ。超能力くらい言っても何も問題ないだろう。


「ゆっくり考えなさい。私もどうなるかわからないんだから、なにしても元の世界に戻せないかもしれないし、このまま放っておいたら勝手に戻る可能性もあるし、可能性の話をしたらそれこそ無限」


「あれ? えっ? 置いてくんですか?」


気付けばセットを平らげてる美雨さんは、まだハンバーガーを半分しか食べてない僕を置いて席を立った。


「……………おトイレよ。ばか」


ああ、今のは表情が見えた。頬を少し赤くしてた、うん、少し可愛いと思ってしまった。


そそくさと行ってしまった美雨さん、残された僕はハンバーガーを食べながら考える。


あの二人が嘘、片方が嘘、もしかしたらどちらも本当………怖かった。昔からの記憶が否定されて怖かった。でもこの焼き付いた赤い記憶嘘じゃない。否定したいのにこれは事実だ。


誰も困っちゃいない、いる人はいるし、誰もいなくなってない。だったらこの世界のままで良いんじゃないか?


そんな事をずっと考えてる。……………SFな悩みだなぁ。僕のベタな恋愛物語はどこ行っちまったんだよ全く。


「悠くん発見!」


「うわぁっ!」


肩を突然掴まれ、ハンバーガーを落としそうになりながらなんとか踏ん張る。


頭だけ振り返ると、凄い近くに顔、またびっくりである。


「愛姉さん? なんでここに?」


「ん~、悠くんのGPS辿ったのさ。真っ直ぐ帰ってない悪い子みたいだからね」


そう言って携帯を見せて笑ってる愛姉さん、GPSって最近子供が被害にあう犯罪が増えてるからって取りつけられた子供の位置を知らせる機能だよな。


僕の携帯ついてたんだ………しかも愛姉さんに情報行くようになってんだ。少しへこんだ十六の冬。


「あれ誰かと………………」


「こんにちは」


美雨さんが戻ってきた。二人が見つめあったかと思うと突然静かになり、何だか嫌な空気が流れだした。あれ?すっごく逃げたい。

「あれぇ? なんで保科さんが悠くんと一緒にいるのかな? その向かいの席の鞄貴方のだよね?」


「うん、私前から桜井君の事が好きで告白したの、それでお友達になったの。以上」


なんで少し攻撃的な説明なの美雨さん、しかもそう言って向かいの席座るし、愛姉さんと戦う気か?いやいや理由が見付からん。


「むむむ、帰ろう悠くん。寄り道はよくないんだよ。生徒手帳にもあるし、悠くんを不良さんしたくないし私」


何だか機嫌の悪い愛姉さんは僕の肩を掴んで無理矢理立たせる。恋姉さんの方が直ぐに手が出たりするが、実は愛姉さんの方がずっと力が強い、格闘技も昔やってたし。


筋肉質ではない軽い僕はなんの抵抗もなく立たされ、鞄を持たされ引っ張って連行される。


「あ、あの、美雨さん。後で連絡しますから」


「悠くん!」


怒鳴りつけられ更に小さく軽くなった僕はそのまま退店される。


最後に美雨さんが笑った気がした。


「悠くん、保科さんは駄目だよ。何だか怪しいし」


た、たしかに………第一印象に怪しさを意識しやすそうな人だし、後で謝ろう。


「告白してきた人を邪険には出来ないだろ」


そう美雨さんが言ってたので話を合わせておく。本当は覚悟するまで恋愛姉妹には会いたくなかったんだけどな。


「とにかくあまり寄り道しちゃ駄目だよ。するならお姉ちゃんとね」


ああ、保護者だからいいってか…………


いつもと一緒、昔と変わらない愛姉さん、『昔』『昨日』『過去』それが嘘なんて思いたくない。事故がないこの世界、事故があった世界はどうなるんだ。轢かれた姉さんはどうなったんだ………死んだのか…………なら、今のこの毎日日常が一番良いんじゃないか?やっぱり。


解らない判らない分からない。


今、自分が立ってる足下が本当か嘘かなんて確かめたくない。嘘でも立ってる事実があるなら、それでもいいと思ってしまう。

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