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二つの始まり

突然だが『恋愛』そんな二文字が関係した物語は決まって主人公が目覚めるところから始まる気がする。朝は可愛い女の子に起こされ、学生であれば一緒に登校、お昼はワイワイきゃぴきゃぴ(?)しながら女の子が作った弁当を食べるのだ。


何が言いたいかと言うと、それが夢だったりする。ベタッベタな恋愛物語が大好き大好物な僕はそんな展開が来たらとか思いながら十六年を過ごしてきた。


だから、僕は寝続ける。そう、きっとそろそろ可愛い女の子が部屋に入ってきて『悠くん、もうまだ寝てるの?私がいないと駄目なんだから』みたいなテンプレな台詞を言って起こしてくれるのだ。


「マダネテルノ? 本当にそのまま永遠に寝てればイイノニ」


「違うだろ! そうじゃないだろ! 貴様は間違っている。大きく間違っている! なんでわからぐほぉ!」


飛び起きて突っ込みを入れるが、腹に広辞苑を突っ込まれた。


布団の上で腹を抱えて蹲ってると、肩にポンと手を置かれる。


「もう朝だからそろそろ準備しようか? 悠くん」


「ヤー、恋姉さん」


これが今日の桜井悠さくらいゆうの目覚めである。今日の、なんて言ったがこれが平日毎日展開される朝の光景だったりする。








桜井悠、太ってはいない、だが筋肉質ではない。背は………高くはない。視力まぁまぁ、運動神経それなり、これ以上僕の語るのはよそう。虚しい、だって後は予想できそうだ。


「あー、悠くんやっと起きたな? あんまし遅いとお父さんとお母さんとおじいちゃんとおばあちゃんと私とゆうくんに怒られちゃうんだよ?」


「長いわっ! 多いわっ! 朝が遅いくらいでなんでボコボコに怒られるんだよ!?」


「えへへ、じゃあゆうくんに怒られて朝御飯にしよう。メッ!」


……………このアホな台詞を言いつつ、謎の僕と同じ名前のゆうくんを操る女性逢瀬愛おうせあいさん。お気付きかも知れないが先程僕を起こしてくれた人となんと、ななななんと双子だったりする。ちなみにその人は逢瀬恋おうせれん無論勿論あだ名は恋愛姉妹である。


最後に付け加えるとゆうくんは犬の縫いぐるみ、掌サイズで愛姉さんがいつも持ち歩いてる謎のアイテムである。名前とか名前とか名前とかな。


「愛ちゃんお腹減ったよ。ご飯にして学校行こ」


「うん、悠くんのネクタイちゃんとしたらね」


「…………僕の制服にはネクタイなんてあったかな?」


「やーん、だってぇ朝は大好きな人のネクタイしめて、行ってらっしゃいのチューまでが夢なんだもん」


なんだもんじゃねぇよ。少なくともさっきまでベタな恋愛物語の夢を語っていた男が言うことでもないが。言わずもがな恋愛物の関しては愛姉さんからの影響だ。むしろ英才教育。


「ラブコメは後にして早く食べなきゃ遅刻する」


恋姉さんの突っ込みでようやく朝食が始まった。いつの間にか恋姉さんは机に肘を乗せて皆の分の麦茶をいれて退屈そうにしていた。一体いつの間に!?何が言いたいかと言うと手際の良い人なんだよってこと。









僕は恵まれているらしい。友人達によく言われる。ベタな恋愛物語を夢見る事は周知の事実だったりするのだが、美人の双子に囲まれて世話されてんだから夢叶っとるやん。と、謎のエセ関西弁で言われた。


決まって僕はこう返す。夢は夢であるから輝く、手に取ると輝きはあせて、残るのは空虚さ。ニヒルを気取って言うと決まって突っ込みを受けるのは内緒だ。


世話されてんだから、と言ったが、両親は共に海外で仕事していたりする。十六歳の少年を『愛ちゃんと恋ちゃんがいるから大丈夫よね』と言い残して消えた母と『大人階段を昇りたいなら焦らないことだ』と言いやがって消えた父、まともな人は僕の両親ではないらしい。


そこから基本的にやる気を出してるのは愛姉さんだ。恋姉さんは仕方なくと言った感じで、だけど感謝してるし、勿論当たり前だとも思ってない。やれることは自分でやるつもりだ。


「お弁当持った?」


「持った」


「ハンカチとテイッシュと鞄は持った?」


「持ちました」


「制服は着た?」


「着ましたよ」


「寝癖は大丈夫? 歯は磨いた?」


「オッケー」


「本当にお弁当は持った?」


「いい加減にしろ!! 半分くらい見りゃわかる内容を混ぜやがって、怒るぞこんちくしょう!」


「怒ってるじゃん」


冷静に恋姉さんが麦茶をすすりながら突っ込みをいれてくる。愛姉さんは僕が怒鳴ると目尻に涙を溜めて、唇を尖らせた。


「そ、そんなに言わなくても………悠くんのお姉ちゃんとして心配で心配で…………私迷惑かなぁ?」


「すいませんでした」


桜井悠、全面降伏である。どうしても涙には弱い。


「涙と言うより愛ちゃんに弱いだけじゃん」


その通り。


「うん、じゃあ出発しよう!」


愛姉さんは腕を振り上げ笑顔で出発を促した。長い朝の行事を終えようやく学校へと出発である。










ここで遂に遂に、勿体振る程でもないが恋愛姉妹の見分け方を教えちゃおう。二人とも髪が長いんだが、ポニーテールにしてるのが恋姉さん、そのままなのが愛姉さん、はい簡単。


「今日も安全に出発」


そう言って当たり前に僕の右側に愛姉さん、当たり前に僕の手を取る。左側は恋姉さん、左手は鞄を持ってるので手首辺りを捕まれる。鞄はランダムで右左適当に持つので、その場合はこれが左右が変わるだけ。


捕まった宇宙人のように登校、というかこれじゃ連行。誤解されない内に言っておく、恥ずかしいよ?最高に恥ずかしい。何度も拒否してるよ?試しに言ってみようか?解りきった感じで返ってくるから。


「あ、あのう。お姉様方、手を繋ぎながら登校は恥ずかしかったりなんかしちゃったり………」


右を見る。愛姉さんが古い少女漫画のワンシーンのように白眼で驚いている(イメージ)。


左を見る。あんまり表情は変えてない。だが、目が『ふぅん、そんなこと言うんだ』なんて言ってる。


「だって、だって寒いよ? もう十二月だよ? 風邪ひいたら大変だよ」


必死になって顔を寄せて熱弁する愛姉さん。論点がよくわからない。


「いや、だから恥ずかしかったり………」


「昔からじゃない。今更恥ずかしがってどうすんの?」


静かな突っ込み。右は動、左は静、右は温、左は冷、真ん中は大変だ。


中学生になってからあの手この手でこの朝の定例行事を回避しようとするが許されなかった。


今更確認だが、この二人は年齢は僕の一つ上のである。小学から中学、中学から高校とそこで生じる学年のズレは分岐点まで、ということで手をうたれたと説明しとこう。


更に補足、僕達の両親はアホ程仲が良くて、ほぼ産まれた時から僕達は一緒にいたりする。


「やっぱり高校は一緒で良かったわよね」


恋姉さんからの発言、


「うんうん、だって悠くんいないとつまんないもんね」


愛姉さんが返す。


「僕は別に………」


さっきの手を繋ぐ事に関しての僕の発言のリアクション再来。


これのどこが恵まれてるっていうんだ。頭を抱えたかったが手がいうこと聞かないのでイメージで。







「さぁお待ちかね毎度恒例! 下駄箱チェック!」


「ドンドンパフパフ」


頭痛い。ようやく解放された両手を使って頭を抱える。


宣言通り、毎度恒例で毎朝下駄箱チェックしてるのがこの恋愛姉妹である。ちなみに謎のドンドンパフパフは恋姉さんが言っている。


要はラブレターチェックらしい。今まで一通も入ってた事はないけど。


「あのね、いつもいつも言うけど美人で有名な双子に連行されてくる男ラブレター出す人なんてそうそう……………」


その世界が固まった。


「………なんで沈黙するのかな?」


「まさか!?」


あれ?なんで扉を開けると、上履きの上に手紙が載っかってるんだ?


「にゃぁぁぁっ! 悠くんラブレターもらったぁー!」


両手を上げて愛姉さんはグルグル回っている。奇声付きで。


「…………………」


恋姉さんはブツブツとなにか言っているが、結構近くにいる筈なのに全く内容は聞こえない。


とりあえず上履きと手紙を取り出し、靴をしまって、手紙の裏表を確認してみる。何も表記なし。


「流石にここじゃ開けないな。ほら、姉さん達行こうか………あれ?」


二人の姿が消えていた。手紙を見てる短時間で音もなくいなくなっていた。溶けてしまったのかと思って足元を見たがやっぱりいない。


「本当にラブレターなのかこれは?」


階段を昇りながら、気になってしまって仕方ないので、トイレに行って個室で開ける事にした。















結論、ラブレターっぽい。いや、ラブレターだろう。ラブレター………そろそろゲシュタルトさんが崩壊しそうだ。


昼休み愛姉さんが作ってくれた弁当の包みを開けながらそんな事を思う。


放課後に屋上に、なんて情緒溢れる誘いだ。やはりとりあえずは行ってみるか、友達の悪戯の可能性は捨てきれないが。


「悠さん。今日も逢瀬姉妹の愛溢れる弁当ですかい?」


「本当に羨ましいです」


最初に発言したのは一条善人いちじょうよしと僕は名前負けと呼んでる。


次に敬語だった人は真宮早恵まみやさえツインテールが似合うドSさん。


なんとこの二人恋人同士だったりする。つまり、善人はマゾか………


「待て! 俺はマゾじゃない。そんないじめられて興奮はしない」


「あらあら、善人さん、そんな事を言っちゃうとお昼は抜きですよ」


「マゾです。でもご飯だけは食べたいです」


「はい、良くできました」


僕の周りには僕に癒しを与えてくれる普通の人はいないらしい。


「前々から思うのだが、二人は恋人なんだから二人で昼食えばいいだろ? なんで態々僕と席をつけてまで食うんだ?」


善人とは中学が一緒だと言うこともあり、高校入学当初から仲良くしてるが、善人が夏に真宮さんと付き合うようになっても僕との付き合いは変わらなかった。何故か、二人に真宮さんが引っ付いてくる感じだった。


「うぅ…………早恵、悠が酷いんだ。もう友情は終りだと言うんだ」


態とらしく、いや、態と真宮さんの胸で泣き真似を始める善人。


「善人さん、諦めないで。今はツンデレのツンなんです。クーデレのクー、デレはもうすぐです」


クーデレはなんだか違う気がする。いや、こんなところは突っ込まなくていいな。


善人の頭を撫でて慰めている真宮さん。


「…………善人そろそろ手が出るぞ」


「そういや、悠、お前ラブレター貰ったんだって」


変わり身早いな。


って、あれ?なんで善人がラブレターの事知ってるんだ?


「さっき逢瀬さん達が私達に知ってる事はないかと聞いてきましたよ」


……………探ってるよ。相手探ってるよ。恋愛姉妹は何がしたいんだよ一体全体。


「貰ったには貰ったが、まぁ断るよ。よくて友達になる」


「えぇ、私もそれがいいと思いますよ」


「えぇー、付き合っちゃえばいいのに、もったいないよ」


弁当をつつきながら唇を尖らせる善人、つか、いつの間に食事始めてんだよ。


真宮さんも笑って弁当つついてるし。


その時善人の双肩に手が出現した。小さく綺麗な手、見覚えがある。


「善人くん、あんまり余計な事言っちゃうと……………お姉ちゃんがお仕置きしちゃうよ?」


「オア折檻」


結果はただでは済まない、と。


「逢瀬先輩駄目ですよ。善人さんを調教………じゃなくていじめるのは私なんですから」


真宮さんの笑顔が冷たくて恐ろしく怖かった。善人は本当にマゾなんだと理解した今日の昼。


恋愛姉妹も来たのでようやく食事が始められる。先に食べると言わずもがな文句を言われるのでこうして忠実な犬のように待っているのだ。


一体どんな娘がコレを出してくれたんだろう。期待に胸膨らませながら僕は放課後を待った。

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