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第八話 お風呂は一人で入りたいです!

三人の顔を隠したままの食事で、緊張が解れたラテル。

しかし周りからはそうは見えないようで……。


どうぞお楽しみください。

 宿屋の食堂は、一種異様な空気に包まれていました。

 鎧兜のまま食事をする騎士。

 仮面の中に食べ物を消していく魔術師。

 目にも止まらない速さで、覆面をずらして食べ物を口に入れては覆面を戻す斥候。

 そしてその只中でにこにこと食事をする少年。


(泊めるんじゃなかった……)


 食事を作りながら、宿の店主はこっそりと溜息をつきました。

 他に泊まりの客がいない中、四人で一人一部屋という贅沢な注文と、国から認められた勇者の証明に浮き足立ったのが運の尽き。

 まさかそのままの格好で食事を取られるとは思いませんでした。

 食事だけの客も宿の貴重な収入源であるにも関わらず、扉を開けた客達は一行を見るだけでそっと扉を閉じます。


「……。……」


 料理を運ぶ店員も、言葉にできないまま何かを伝えようとしています。


(……かと言って追い出す訳には……)


 しかし国に認められた勇者を一度泊めておきながら追い出したら、それこそ宿の命運が尽きかねません。


(せめて少しでも経費を抑えないと……)


 そう思った宿の店主は厨房を出ると、引きつった笑いを浮かべながら一行に近付きます。


「あ、あの、この後のお風呂ですが、皆様一緒にお入りになられますよね?」

「あ?」

「ひっ」


 向けられた道化の仮面に、睨まれたように感じた店主が小さく悲鳴を上げました。


「風呂なんてのはそれぞれ好きな時に入るもんだろーが。俺様は一人でのんびり入るぜ」

「あ、は、はい。そ、それはそうなのですが、その、大きな風呂なので、沸かすのにも燃料が……」

「それを含めての四人分の部屋代ではないのですか?」

「は、はぁ……」


 エトワルへの反論をソレイユに封じられ、曖昧に頷くしかできない店主。


「一度に入る。襲撃されたら危険。一人ずつ入る。安全」

「そ、そんな危険はないと思いますが……」

「あれば死ぬ」

「……」


 これでは平行線だ、とすがるような気持ちでラテルに目をやる店主でしたが、


「……あの、僕も一人で入りたいので、すみませんけどよろしくお願いします……」


 ラテルの申し訳なさそうな言葉に、全てを諦め、何か悟ったような表情を浮かべました。


「……承りました。どうぞごゆっくりお楽しみください……」


(良かった……! お風呂には入りたかったけど、皆と一緒には入れないから助かった……!)


 こうして無事にラテルは一人でお風呂に入れる時間を手に入れたのでした。


(四部屋分の収入……。これで満足するべきなんだ……。仕入れた食材が若干無駄になったりしたけれど、私は元気です……。ふふふ……。ははは……)


 店主の心の乾きと共に……。

読了ありがとうございます。


男装女子。

誤魔化しようのないお風呂。

そうとは知らない仲間。

何も起きないはずはなく……?


どうぞお楽しみください。

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